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駄作

俺がいいと言うまで、ゲートは閉じるんだぞ

作者: 矢田こうじ

朝の通勤ラッシュ。


吾郎はいま、電車に揺られている。

彼は急行の止まる駅に住んでおり、その利用客の多さ故、乗車しても簡単には座れない。

終点までの間に座れることは2週間に1回あるかどうか、ぐらいだ。


吾郎は、脂汗をかいていた。

彼は考え続けている。

それがまるでたった一つの解決策のように。


彼には今、波が来ていた。

ここ数ヶ月のうちで一番の(ビッグウェーブ)だ。


何だろう。

昨日、何食べた?

それとも朝が寒かったからか?

夕飯のシュウマイ、少し味がおかしかったか。

昼飯の鳥の唐揚げ、油が強かったか。


どちらにしても、思考を止めてはいけない。

()めれば、それが()まらなくなる。


彼の乗っている電車が駅に止まった。


俺の前の席の人、降りろ。

降りて下さい。

約1名、つまり約俺(やくおれ)が終点まで助かるのです。

そこにはオアシスが沢山あるのです。

この時間帯でも、人の少ない穴場があるんです。

そこまで保たせたいんです。

ほら、立ってくれ!!


彼は強く念じるが、誰も席を立たなかった。

ドアが閉まり、また電車は走り出す。


嗚呼。

次の駅まで、10分は止まらない。

目的地は次の次の次の駅だ。


吾郎はスマホを取り出す。

前の駅で端っこを確保した為、心と右の脇に余裕ができたからだ。

少し楽になっているうちに対策を。


「腹痛 ツボ 検索」


声が出ていたかもしれないが、とにかく自分の体を誤魔化す事が喫緊の最優先事項だ。


今、足のツボなんて押せない。


次だ。


ほほう、手か。胃腸に効果あり?

信じていいか?サイトの主人(あるじ)よ。


芝居染みた思考の連鎖も、彼の対策の一つだ。


親指と人差し指の間の?

人差し指側少し上を?

小指側に押す。

こうか。


イタタタ。

痛いという事は、あなたのその部位が弱っている。


なるほど。

ただ、今更がわかっても何の足しにもならない。

何故なら、俺は体全体でそれを今感じているからだ。


く。


何て事だ。

また第二波(ビッグウェーブ)が。


どうする俺?

次の駅で降りるか。

そうすれば助かる。


しかし次の電車がすぐに来ない。

終点の駅なら、それなりの頻度で電車は来る。


待てないか。

頭だけで決めるな。お腹様にも聞け。


・・・まだ、行ける?

そうか、頑張るんだな。

わかった、俺も頑張ろう。


そう考えているうちに、次の駅でのドアが閉まった。

また電車はゆっくりと動き出す。


急に吾郎の顔が歪む。


グッ・・・身体よ、俺の身体。

何故、俺に、ブラフ(はったり)を?

さっきドアが閉まる前に聞いたよな?


同時に対策できなかった自分を責め、後悔していた。


本当に何で今日に限って薬を忘れたのだ。

昨日寝るときまで、気にしていたのに。

ただ、ここまで強いと気休めかもしれない。

気休めの慰め。


嗚呼。

嗚呼。

もうダメだ。


次。

次の駅で降りないと。

そこまで保たせる。

何とかして保たせなければならない。


何かを考えなければ。

何を考えれば。

とっても楽しい事、逆にとっても辛い事。

・・・辛い事はまさに今だ。却下。


あ、今やっとあの不動産の看板が過ぎた。

もう少し、あともう少しで駅だ。


あの駅は、確か進行方向側。

誰もいないで欲しい。


電車は踏切を通り過ぎ、ゆっくりと駅に停車し始めていた。


「すいません、降ります。すいません」


なるべくドアの近くへ。

急いで向かえる場所へ。


ドアが開いた瞬間、飛び出すように外に出た。


急げ、走るな。

走れば力が入りすぎる。

ゆっくり急いで。

気持ちを先に向かわせるな。


入り口に入った。

吾郎に最後の試練が待っている。


扉が閉まっていませんように。

扉が空いていますように。


そして彼は少し安堵した。

一番奥が空いている。


よし、もう少しだ。

扉を閉めて。


あ。


あ。


あ。


・・・俺は俺を褒めたいと思う。

よく、頑張ったと。

対象となるキーワードを出さずに、あの状況を出せるか、書いてみました。


本当に辛いんですよ。

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