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2-3 幼女降臨

 もうそろそろ日が沈みそうだ。辺りはうっすらと暗くなってきている。しかし、道は明るい。

 何故か。

 それはこの、道の端っこに立ってる、魔石灯とやらの恩恵であるらしい。

 日本でいう街灯みたいなものか。


 しかし、魔石。なんとも心をくすぐられるワードだ。


「フェイよ。魔石とはなんなりや」

「なんですかその喋り方......。魔石とは、魔物から取れる魔物の核のようなものです。魔物の中に流れている魔力の源泉であり、そこから魔力を抽出することができます」


 なるほど。なんとなく分かった。

 要するに、電池みたいなものか。


「そんなことよりスガ様。暗くなってきましたし、宿をとりましょう」


 ああ、そういえば宿を取らないといけなかったな。早めに寝床を確保しておかねば。


 あれ?なんか忘れてる気がする。

 なんだろう?


 街灯.........宿.........寝床.........。

 寝床?

 ......あ。


「ヤベェ!ベッド忘れた!」

「ふぇっ⁉︎」


 そうだ!ベッドだよベッド!ちょっとあれは取りに行かないとな。


 俺はベッドを取りに行くために、草原に一時的に戻ることにした。しかし、実を言うとベッドはどうでも良い。俺の目的は枕だ。

 俺の枕はそこそこ高いもので、寝心地がびっくりするくらい良い。超優秀な低反発枕だ。

 それ以外の枕だと眠れないのである。

 

 そう言うと、フェイに情けない顔をされた。ちょっとムカツク。


「それじゃ、行ってきます。もしかしたら明日まで帰らないかもしれないから、先に宿を取って寝ててくれ」

「分かりました。行ってらっしゃい」


 俺は即座に転移魔法で、さっきの草原に飛んだ。



*****♪***♪♪*******♪******



 魔法を使った瞬間に草原に着いた。さすが転移魔法だ。

 辺りを見回すが、暗い。カームでは魔石灯があったから明るかったが、ここは光源がほとんどないから真っ暗だ。

 俺はすぐに暗視能力を発現させた。

 暗かった視界が少しずつ鮮やかになっていく。


 .........?


 はずだった。しかし、目の前は以前真っ暗なままだ。

 どういうことだ?


 周辺を確認してみると、目の前以外は普通に見えた。暗いのは正面だけだ。

 どうなってんだこれ?


 目の前の暗闇をじっと見つめていると、ふいにブルンと暗闇が震えた。


 ......は?


 暗闇だと思っていたものは黒くて大きな物体のようだった。目を凝らしてみると、物体には鱗が付いている。

 

 ......え?マジで?


 少し不安になりながら、上の方を見てみる。何かを畳んだような変な構造をしていた。

 俺はそこからダッシュで100メートルほど離れて、黒い物体の全容をみる。


 全長30メートルはありそうな、黒いドラゴンがそこにはいた。さっきの戦場にいたやつじゃない。そいつは俺のベッドに鼻を押し付けて匂いを嗅いでいた。


 どうしよう。スゲェ怖い。

 デカすぎんだろ。何こいつ。マジ何なの?

 

 早く枕を回収して帰りたいんだけど.........。


 そう思ってドラゴンの頭を見ていると、歯の間に何か白い、ふわふわしたものが挟まっているのが見えた。視力も超上がってるみたいだ。というか何だあれ。

 よくよく見ると、綿だった。


 .........俺の枕に入ってるやつだ。


「ちくしょう‼︎」


 小3からずっと使ってたのに!


 あ、ヤベェ。今の声で黒竜が俺に気づいたようだ。こちらに向かって、のっしのっしと.........


 .........来ないな...。


 黒竜はこちらを見て微動だにしない。何をしているのだろうか。口をあけたり開いたり.........じゃあ、ずっと開けてるな。

 黒竜はポカンと口を開けて、目を見開いている。トカゲの顔であるにもかかわらず、オロオロとしてる感じが伝わってくる。何してんだろ?


 やがて意を決したように黒竜が身を屈める。


 その一瞬後には目の前に漆黒の巨体が迫ってきていた。


「うおぉう⁉︎」


 俺は咄嗟に地面に伏せ、衝突を回避した。

 

 なに今の⁉︎速!


 後ろを振り向くと、やや驚いた様子の黒竜が俺を睨んでいるところだった。暗いのに何で見えんの?


 というか何だこいついきなり?やんのかおうこら。


 そのまま黒竜は再び身を屈め、突進の体勢をとった。


 こいつは突進しかしないのか?ファイアーブレスは出さないのか?

 それならば好都合だ。


 俺はイメージによって右腕を肥大化。そして拳に魔力を送り、燃え上がらせる。燃え上がらせたことに関して、攻撃力はあまり期待してない。ほとんどただの演出である。

 黒竜が目を向きながら突進してきた。


 俺は自分の真下ーー竜の真正面ーーに石の壁を作り出す。地面がせり上がって竜にはいきなり壁が現れたように見えるだろう。合ってるけど。

 黒竜が激突して壁が崩れた。が、問題ない。

 俺は怯んだ竜の頭に向かって飛んで、ヤツの横面に炎の剛拳を叩き込んだ。

 竜が少し吹っ飛んで、近くの木をへし折りながら倒れた。


 俺の脳内でK,O!の、文字が流れる。久々に鉄け○やりたい。


「グガァ⁉︎」


 黒竜は白目をむいて倒れた。巨体に俺のベッドが押しつぶされているがどうでもいいや。


 .........さてと。これはトドメをさすべきか?俺としてはあんまり殺したくはないんだけど。


 殺るべきか殺らざるべきか悩んでいると、黒竜の体が縮み始めた。

 ある程度縮んだところで体の形が変わり、小さな女の子ーーつまり幼女だがーーの姿になった。

 見た目は10歳くらいで将来が有望そうな美少女。浅黒い肌に銀色のボブショート、いわゆる褐色ロリがそこに現れた。


 ............全裸で。


 .........どうしようこれ。竜が幼女になるとか、さすがファンタジーだ。超びびった。

 

 とりあえず服を着せよう。このままでは通りすがりの誰かにロリコン認定されてしまう。例えばあそこにいる慌てた様子で近づいてくる兵士達とか。


 ......何で兵士がいんの?


 さっきの戦闘の音でも聞きつけたのだろうか。とにかくどこかに隠れねば。


「おい!何かあったか⁉︎」

「いや、暗くてよく見えん!」


 あ、そうか。俺は暗視のおかげで見えるが、普通は見えないよな。


 俺は落ち着いて、召喚魔法によって子供服を出し、それを幼女に着せてから抱き上げて、見つからないようにそっとその場を後にしようとした。


 しかし、突然に明かりがついた。


「何かいるぞ!」


 .........やっべ‼︎


 

*****♪***♪♪*******♪******



 見られてしまった。

 

 俺はあの後、びびってダッシュで逃げて、国璧の近くまで来ていた。歩いたら数時間かかったのに......。


 それよりも危なかったゼ......。顔はギリギリ見られてないと思う。

 彼らとしては、安っぽいコートを着て幼女を抱えて、顔を見られないように逃げた男と映っただろう。顔見られなくてマジでよかった。


「ん......むにゅうぅ.........ハワァァ」


 お、幼女が起きたようだ。


「おはよう。具合はどう?」

「ふぃ?......おはよー。.........誰?」


 幼女は目をこすりながら腕の中で伸びをした。

 名前を聞くときは自分から.........いや、子供だしいっか。


「俺はスガだ。君は?」

「僕......?僕は...............っ‼︎」


 幼女はそこから何かに気づいたように腕の中でジタバタし始めた。


 どうした?抱っこされて照れてんのか?


 そう思ったが、幼女の顔が真っ青なので違うようだ。.........なんだろう。


「どうかした?」

「ひっ.......えっと、おま......あなたさっきぼ、僕のこと殴ったです。ま、また殴られるかな思って逃げようとしたです。な、殴らないでほしいです」


 幼女は下手くそな敬語で懇願してきた。

 腕の中にいる幼女が涙目で顔を真っ青にしながら懇願してくるとかちょっと興奮するげふんげふん。


 話を戻そう。


 なるほど。そういうことか。

 そりゃ自分をぶん殴ったやつに抱っこされてたら怖いよな。


 それより、やっぱりこいつはさっきの黒竜なんだな。


「大丈夫。さっきはそっちから来たから殴ったけど、なにもしないなら俺も殴らないよ」

「ほ、ほんとに?」

「うん。ほんと」

「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんと。もしあれだったら約束するか?」


 そう言って小指を出すと、幼女はおずおずといった様子で小指を絡めてきた。


「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーをせーんぼーんひっこぬく!ゆーびきった。げーんまん!」


 こいつ怖っ。可愛い顔して恐ろしい子!

 あと、俺の歯は千本もない。


 そこまですると、幼女はダラっと体の力を抜いた。

 どうやら安心してくれたようだ。

 俺は幼女を地面に下ろす。


「改めて聞くけど、君の名前は?」

「僕はルイ。黒竜ルイだよ」


 そう言ってルイはペコリとお辞儀をした。


 ルイは、俺がとっさに出した白色でノースリーブのワンピースを来ている。

 褐色の肌によく映えていて、悪いおじさんなら連れて行きそうなくらい可愛い。善良な青年であるところの俺はもちろん連れていかないが。


 と、言ってもだ。


 年端もいかない女児をその辺にポイしておくのは良くない気がする。いや、絶対に良くない。


 とりあえず、彼女の身の回りの事について聞いてみようと思う。

 あ、いや。その前に聞きたいことがある。


「なぁ、ルイ」

「なに?スガおじさん」

「おじさんじゃない。お兄さんだ」

「なに?お兄ちゃん」


 なにこれ素晴らしい!いや、そうじゃない。


「竜族って人間になれるのか?」

「へ?.........そりゃまぁ...............あ..................。ああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎」


 うおっ、なにいきなり。ビビるんですけど。

 俺が若干引いていると、ルイが涙目でしがみついて来た。


「ああああ忘れて!僕が人になったことは忘れて!お願い!します!」

「お、おう。いや待てちょっと落ち着け。どうした?」

「グスッ、えっと、えっと。人になれるのはね?えっと、竜族の秘密だからさ、えっとね?秘密に?して?ね?」


 ほう。そうなのか。まぁ、誰かに話しても俺にメリットがあるわけじゃないし、別にいっか。竜族を敵に回したくはないし。


「いいよ。誰にも言わない」

「ありがとう!お兄ちゃん!」


 .........マジで連れて行こうかな。



 これが、俺とのちの黒竜王との出会いだった。

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