2-2 カーム国内観光
昔見たアニメのラッキースケベシーンで、主人公がヒロインの胸を触った後、ぶっ飛ばされて『変態!』と罵られていました。
『理不尽だ!』なんて言って主人公が反論するのですが、女性の胸を触ったんだからそれくらいの仕打ちは当然だろう。と、紳士ぶって思っていたものです。
でも、実際に自分がその立場に立ってみて思いました。
.........理不尽だ!
*****♪***♪♪*******♪*
「お〜い。フェイさ〜ん?ちょっと〜?」
カームの国の通りで、一組の男女が歩いていた。
女はプンスカと怒りながら。
男はそんな女をなだめようとしながら。そして、頬に真っ赤なモミジをつけながら。
「いい加減機嫌なおしてくれよ。な?」
「......ふんっ。知りませんっ」
「悪かった。悪かったから。ごめん!な?」
見慣れない服に身を包んだ男が、高そうなコートを着た美少女を追い回していた。
字面だけを見ると何とも犯罪の香りがするような気がしないでもない。
誰であろう。この二人。
もちろん、俺たちである。
「胸を揉んだのは悪いと思ってるけども。あれは事故だろ?すぐに離したし。不可抗力だ!」
「なにがすぐに離したですか!私の胸に手が当たっていると気付いてから、これ幸いとばかりにたっぷり5秒は触っていたではありませんか!」
仕方ないじゃないか。初めて触るOPPAIとやらに少しばかり感動してたんだから。
童貞が女性の胸を触ったんだ。そんぐらい許してほしい。
それに、だ。
「フェイみたいな超絶美少女の胸を触ったんだから、逆に堪能しておかないと失礼だろうが!」
「なにを逆ギレしてるんですか!今日会ったばかりの女の子の胸を揉む事自体失礼ですよ!あ、あと、私なんかび、美少女じゃないです!」
「は?お前なに言ってんの?お前のレベルで美少女じゃなかったら、この世界の女の98%は不細工ばっかりだぞ?ふざけてんの?」
「あなたは今、世界中の98%の女性を敵に回しました!」
そんな言い争いをしていると、横にあった店からひとりのおっさんが出てきて、
「おい、商売の邪魔だから、痴話喧嘩なら他所でやってくれ」
と、どこかで聞いたセリフを言った。
......どこだっけ。
「あと嬢ちゃん。そっちの男が正しい。あんたはビックリするくらいの美人だぜ」
という言葉にフェイが顔を真っ赤にしていた。可愛い。いやそうじゃない。
「ちょっとおっさん。うちの子を口説こうとしないでいただけます?この子単純だからコロッと言っちゃうでしょうが」
「単純じゃありません!」
真っ赤な顔で抗議してきたが、もはや可愛さしかない。なんでこんなに可愛いのだろうか。わざとなのだろうか。
「とにかく、だ。機嫌を直してくださいお願いします」
「いやです」
むう。どうすれば許してくれるだろうか。
......いつかヨシヒコが言っていたように、褒め殺しがいいかもしれない。
フェイは単純だしな。
さて、何を褒めるか。顔はさっき褒めたしな......。
そうだ!
「フェイの胸は揉んでいてとても幸せな気持ちになれたよ」
「.....................サイテーです」
............あれ?
逆効果でした。
理不尽じゃなかったかも知んない。
*****♪***♪♪*******♪*
その後、謝罪に謝罪を重ねてようやく許された俺と、やっと普通に喋ってくれるようになったフェイは、晩飯を食べることにした。
思えばこの世界に来たのは昼前。それから数時間経過して、日は傾いている。もうすぐ夜だ。腹ぐらい空くわい。人間だしね。
俺達は少し大きめの店に入り、注文を済ませてテーブルについた。
俺が頼んだのはパンとチーズとシチューだ。後者2つはこの国の名産なのでとても楽しみである。
フェイは食べないようだ。あのポーションは飲むと魔力が回復するだけでなく、腹にもたまるらしい。実に便利だ。
俺が腹の虫を鳴かせていると、フェイが、
「やはり、スガ様は魔王ですが、種族は人族のようですね。過去にも魔族以外で魔王になった人もいますが、大した能力は持っていなかったそうです。スガ様は例外ですね」
と言った。喜んでいいのだろうか。
ていうか、俺以外に魔族じゃない魔王がいたんだな。
フェイの話によると、魔族は食事を摂らないらしい。大気中の魔力を空気と一緒に経口摂取するとのこと。魔力を得るためだから、呼吸としての役割はないそうだ。
そんな話をしていると、食べ物が運ばれて来た。
お、パンが黒い。これが俗にいう黒パンというやつか。
手にとってみると、大分固かった。噛み切れるかしら。
シチューはじゃがいもと人参と、玉ねぎが入っていた。日本で見たものとあまり変わらない。
チーズは......なんだこれ。俺の知ってるチーズじゃなかった。
皿の上に変な赤い塊が乗せられている。実に不味そうだ。完全に生物である。
後で聞いたのだが、この世界でチーズとは、牛の肝臓を生のままミンチにして固めたものらしい。この世界で牛は神聖なものとされているようで、『チーズ』は万病に効く食べ物とされている。しかし、味は保証しない。
......神聖なもん食うなよ。
俺は覚悟を決めて、一息にチーズを食べてみた。
.....................うぇっ!
これは不味い!やばい。何この肉塊。
ていうか今気づいたけど生じゃダメじゃん。食中毒になっちゃう。何が万病に効くだよ。
フェイがこちらを『うへー』という顔でみている。知ってるんなら先に言ってほしかった。
俺は店員に水をもらって舌を清めた。そして誓う。
......あれはもう食わん。絶対にだ!
次はパンだ。
シチューは期待しているので最後にとっておくことにする。
......固くて甘くなくて美味しくなかった。
なんなのほんとに。異世界の料理は信用できない。
最後にシチュー。全体的にほとんど日本のと同じだ。
スプーンですくって香りを楽しむ。
.........⁉︎
こっ、これは‼︎
即座に口に入れて味わってみる。
............うまい。
下手したら日本のよりもうまい。
周りをみると、大勢の人がパンとシチューを平然と食べていた。この世界の味の基準が分からん。
.........チーズを食べているやつはいなかった。
くそぅ!
*****♪***♪♪*******♪*
晩飯を食べ終わった後、俺たちは、とりあえず今後の生活のために、いろんなものを買いに行った。
服屋に行った。角を隠せるように、フード付きの安物で中古のコートを買った。......フェイの奢りで。
靴屋に行った。俺は家で寝ていた時に転移されたので、靴を履いていなかった。今まで裸足だったのだ。しかし、それではそのうちに怪我をしてしまうので、靴を一つ購入する。......フェイの奢りで。
雑貨屋に行った。今後荷物を入れるためにリュックサックを買った。......フェイの奢りで。
.............................................。
*****♪***♪♪*******♪*
「次はあの店に入りましょう!」
「ストップ」
ショッピングが楽しくて、テンション高めなフェイの提案した声を、俺の至極真面目な声が止めた。
「なんです?」
「店に入ってからすることを流れ的に教えて欲しい」
「え?......はぁ。分かりました」
フェイの「何言ってんだこいつ」みたいな顔が腹立つ。可愛いのに。やんのかこら。
「とりあえずお店に入って品を見回します」
うん。
「目に付いたものがあったら手にとって見てみます」
うん。
「値段を見てから買うかどうか決めて、会計をします」
「はいストップ!」
「はい?」
フェイの「いきなりどうしたこいつ」みたいな顔が腹立つ。やんのかこら。
「金払うのは誰?」
「私です」
「誰の分?」
「私と、スガ様の分です」
はいアウト!
「ヤダ!」
「やだって.........。何言ってるんですか」
「いやいやいやいや、これ以上君に奢ってもらったら情けなさで俺が死ぬ!」
「死にはしませんよ」
「死にたくなる!」
「はぁ.........。でも、どうするんですか?スガ様はお金がないんでしょう?」
「.........まぁね!」
「威張らないでください」
そう。俺はこの世界において完璧に完全に、まごうことなく無一文なのである。
しょうがないじゃない。
ここにきてまだ数時間なんです。
まだ収入が無いんです。
しかしながら、俺にだってプライドというものがある。
これ以上年下の女の子に奢らせるわけにはいかない。
「なんにせよ、これから俺は君に奢ってもらうことはしない」
でもそれでは俺が生きていけない。仕事もないし。だから、
「代わりに」
「代わりに?」
俺は自信満々のドヤ顔で言ってやった。
「金貸してください」
............フェイに情けない顔をされた。とても悲しい。でもこうでもしないと俺が精神的に死ぬのだ。背に腹は代えられまい。
「......ハァ。分かりました。では、そのうちに返してください。お金」
「必ず」
俺の借金。
安いコートーー銅貨5枚
靴ーー銀貨1枚
リュックサックーー銀貨3枚
ちゃんと返そう。
銭貨125000枚=銅貨12500枚=大銅貨2500枚=銀貨250枚=大銀貨50枚=金貨5枚=大金貨1枚