2-1 カーム入国時にて
「やっとついたぁ。ここかぁ。......壁高いな」
「はい。ここがカームです。......壁高くなってますね」
俺とフェイはカームの門の前で疲れた声を上げた。
カームの国壁は石造りでがっしりとした印象を受けた。かっこいいデスね。あと高い。
しかし、長時間歩くのって疲れるな。身体能力が高くても、疲れるものは疲れるということだろうか。
いや、もしかすると俺の高い身体能力も魔法で強化されているだけで、基本的な筋力や筋持久力は変わらないのかもしれない。
さて、国に入る所で一つ問題が発生した。
門のところにいた衛兵らしき青年が近づいてきて、
「こんにちは!国に入りたいのですか?それなら入国許可証にサインを...!......その角......。なんだ、お前魔族かよ。帰れ帰れ。こっちに来るな。汚らわしい」
と言った。
そう。角である。
角の生えた俺は、人族から見るとおもっくそ人型の魔族に見えるらしい。さらにこの国は亜人への差別意識が強く、魔族もまた然り。よって俺は国に入ることすらままならないのであった。
ちなみに、角があるのは魔王だけというのは、あまり知られていないらしい。それはそれでラッキーだが。
さて、どうしたものか......。
「どうしようか」
と、フェイに聞いてみると、
「とっちめましょう」
と返ってきた。意外に暴力的な女である。そういえばさっきも即座に装備を取りに行ったな。
戦うのは苦手だって言ってたくせに......。
話し合いという選択肢はないのだろうか。
「ダメだ」
魔王の俺が言うのもなんだが、暴力は良くない。
「では、どうするんですか?」
うーむ。そうだな。
「貴族の威光に預かるというのは「ダメです」どう......なんでや」
思わず関西弁で返してしまった。どうでもいいが。
「それは貴族特有の権力による暴行です!私はそれが嫌なのです!」
むう。じゃあどうしようかな。
フェイの提案はできるだけ採用したくないし、俺の案はフェイがだいぶ嫌がっている。
女の子の嫌がることをするのはポイント低いと思います!
じゃあ、話し合いかな。
「どうしても、入れるわけにはいきませんか?」
「はんっ!お前みたいなのが入ったら、国の中が魔獣臭くなっちまうよ!」
え、まじで?俺そんな匂いすんの?
「フェイよ。俺ってそんなに臭い?」
「いえ、そんな匂いはしませんよ?」
そうか、ただの嫌味か。よかっ......いや、よくないな。何が良くないって嫌味がよくない。
「あと、魔獣について詳しく」
「魔獣とは、体内に魔力が流れている動物のことです。獰猛な性格なのと体表の色が禍々しいのを除けば基本的に普通の動物と変わりません。あと、どこにでもいます」
そうか、じゃあ、魔獣臭なんてのもないんだな。ただの偏見か。......え?どこにでもいるの?
「どこにでもいる割には、さっきから俺一度も見たことないんだけど」
「スガ様はご自身よりも圧倒的に強い相手と闘いたいですか?」
ああ、そういうことか。じゃあ俺は、魔獣を見ることはできないのか。
少し残念デス。
閑話休題。
困ったな......。相手には話し合いをする気がないようだ。
一つ言っておくが、俺の能力はこういう場面では使えない。俺の能力が干渉できるのは、俺自身と周囲の空間だけなのだ。俺以外の動物の考えを捻じ曲げたり、動きを制御したりはできない。
例えば、『フェイがエロいことをしてくる』なんてイメージをしても、何も起きないのだ。ちなみにそんなことを考えたことは一度もない。断じてない。
さて、本当にどうしよう。
......ここはあれだな。最も公平で神聖で、かつ分かりやすい勝負をしよう。
「フェイ。ジャンケンをしよう」
そう。じゃんけんである。
「...じゃんけんとはなんですか?」
......この世界にジャンケンはないのか。
「俺の国に伝わる勝負の一種だ。様々な用途に用いられる」
俺はグーとチョキとパーを順番に出して、ジャンケンのルールを説明した。
「これがグー。これがチョキ。これがパー。これらはじゃんけんで使用する手だ。グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ。『じゃんけん ぽん』の合図でこのいずれかを出して勝負するんだ。ちなみに、同じ手だったら『あいこでしょ』で再戦する」
「なるほど。分かりました。......面白い勝負方法ですね」
今ので分かってくれたようだ。さすが元国議長である。
「じゃあ......、行くぞ......?」
「はい」
俺は大きく息を吸い込んだ。
「最初はグー‼︎」
「ストップです」
「ほげっ」
出鼻をくじかれてしまった。ちくせう。変な声が出ちゃったじゃないか恥ずかしい。
もうお婿にいけない。
「......何」
「『最初はグー』とはなんですか?」
え〜、それも〜?めんどくさ。
「『じゃんけん ぽん』の前の掛け声だよ」
「そうですか。分かりました。ありがとうございます」
自分から聞いといて反応薄っ。
おじさんちょっと切ないです。でもそんな風に軽くあしらわれるのも逆にいいげふんげふん。
「じゃあ......、もっかい......、行くぞ......?」
「はい」
俺とフェイは大きく息を吸い込んだ。
「「最初はグー‼︎じゃんけんぽん‼︎」」
フェイがグーで、俺がパーだ。
WINER--俺!
フェイがすごく悔しそうにしている。公平な勝負だから恨みっこなしだぜ!
というわけで、貴族の威光に預かることとなった。
俺は青年の前に進み出て、できるだけ例のセリフに近づけるようにして言った。
「おい鬼太ろ......おい貴様!この方をどなたと心得る!オピリオン王国のスレイル公爵がご息女、フェイ様にあらせられるぞ!控えおろう!」
その言葉に青年は......
「は?オピリオン?どこだそこ。知らん」
なん......だと......?
俺はフェイを連れて青年から離れた。
「ちょっとフェイさん?あの人知らないって言いましたよ?どういうことですか?」
「い、いえ...、私も戸惑ってるところです...。結構大きな国なんですが......」
フェイがオロオロしてる。かわいい。いやそうじゃない。
まじか。知らんか。
しょうがない。少々気がひけるが、ここは実力行使でいこう。
だが、暴力に訴えかけるようなことはしない。
『実力』を行使するのだ。
「本当に入れるわけにはいきませんか?」
「ああ。ダメだ」
「......分かりました。残念です。さようなら」
そう言って俺は国壁に沿って歩き始めた。後ろからフェイも付いてくる。
......ちょっと不機嫌そうだな。
フェイは振り返って、青年に向かってベッと舌を出した。
なにそれ可愛い!僕にも僕にも!
*****♪***♪♪*******♪****
国壁を半周ほどしたところで、俺はフェイに質問をしようとした。
「なぁ、フェイ」
「......なんですか」
が、以前不機嫌なままだったので保留にしておく。
「なんでまだ怒ってんの?」
「...っ!怒ってません!」
ここで『いや、怒ってんじゃん』とか言ったらもっと怒るんだろうなぁ。ここは言わないでおこう。
しかし、そんなに怒ることかね。
先ほどの俺をフェイ視点で捉えてみよう。
......大陸を侵略するとか言ったくせに衛兵に言い返しもせずにその場を去った男。
...うわ、なにこの男。むかつくわー。そりゃ怒るわな。俺だって怒る。
フェイの俺に対する評価は、今だいぶ低いだろうな。
まぁいいや。どうせ今もとに戻すし。
ここから汚名返上。名誉挽回である。
「フェイ、この国に優秀な結界魔術師はいると思うか?」
「いえ、カームは小国ですので、ただでさえ数の少ない結界魔術師はいないと思います」
そうか。なら良かった。
「よし、フェイ。鳥になって国壁を越えるんだ。俺は後ろから透明になってついていく」
我々の実の力を行使しようではないか。
「......そういうことでしたか。...分かりました」
フェイが満足そうに頷いている。これで評価を戻せたかな。
「▼◇△◎□○......変身!」
フェイが呪文を唱えると、フェイの姿がゆらゆらと揺れ始めた。
これはずっと見てたら酔うな。間違いない。
俺はフェイから目を離した。
......しばらくして、俺の膝にコンコンという感触が生まれた。
......終わったかな?
目を開けると、そこには少し体の大きな鷲がいた。かっこいい。
さて、俺も準備するかな。
俺は自分の姿が透明になるのをイメージした。
途端に俺の体が透け始める。おお、なんだこれ。きめぇ。
俺の体が完全に透明になったのを見て、フェイは飛び立った。
俺も飛んで後についていく。
しばらく飛んでいると、フェイがチラチラとこちらを不安げに見てきた。ちゃんとついてきているか不安なのだろう。
俺は小石を召喚して、自分の位置を教えた。
その後、安心したフェイが後ろを振り返ることは無くなり、俺たちは問題なくカームに侵入することができたのである。
*****♪***♪♪*******♪****
訂正。
地面に降りて、透過を解いた俺の腕に止まったフェイが、人間になった時に俺を押し倒すハプニングがありました。
初めて女性の胸を触りました。
ヤッタネ!
2章です。