1-5 青年のチカラ
「なぁ、フェイさんや」
「なんですか?スガ様よ」
「俺の能力って何だと思う?」
誰かの慟哭が響いた30分後くらいのこと。草原からカームへの道中に俺はそんな話を振ってみた。
「能力......ですか?」
「魔王なんだから、何か特別な力があるんじゃないか?」
ここで異世界特典などというワードは出してはいけない。何故か。何となくダメそうだからだ。
「そうですねぇ。昔の文献によると、ある魔王は時を止めることができ、ある魔王は目のあった敵を石にすることができ、またある魔王は魔法による攻撃が効かなかったそうです。中でも800年前の魔法を無詠唱で使用する魔王は歴代最強であったと言われています」
無詠唱か。そりゃすごいな。
「当時の勇者は魔王に目隠しの魔法をかけ、召喚魔法で出した山で押しつぶして倒したとか」
へぇ、召喚魔法か。山を召喚って、すごい規模だな。どんな感じだろうか。
なんか、上空に山が現れて、落ちてくるのを想像してしまった。だいぶエグいことになりそうだ。なんて思っていると、
---フォン......
......山が上空に現れた。
「...............へ?」
落ちてきた。
「「はあぁぁあああぁぁぁあ⁉︎」」
圧倒的体積のそれが草原に近づいてきた。
「▽□◆▼○◎▲......転移‼︎」
フェイは転移魔法を使って何処かへ行ってしまった。......ズリィ!
俺は常人離れした自分の脚力で時速.........何キロだろうこれ。まぁ逃げる。
しかし存外に高さの低いところに出ていたようだ。......間に合うかこれ?
ズウウゥゥゥゥン‼︎
山が地面に落ちて地鳴りのような音が響く。いや、地鳴りそのものだなこれは。
危なかったゼ。マジで怖かった。
変なこと想像するからフラグ立っちゃったかな?
ちょっと言葉が出ない場面に遭遇してしまっ......いや待て。
山が現れたのは俺が想像した直後だった。
........................。
俺は掌を見つめ、手の上に石が現れるのをイメージしてみる。すると......
---フォン......
......石が出ました。
次!...指で銃の形を作り、指先から火球が飛ぶのをイメージする。
......あれ?出ないな。出ろよ。
ヒュン!
火球が出現して飛んで行った。
......今の火球を使って自分を傷つけてみる。
......痛っ!熱っ!
俺の腕がえぐれていた。軽い火傷を負うつもりだったが、存外に威力が強かったらしい。腕がえぐれちゃってるわ。クソいてぇ。
遠くの方で『ドゴォォン‼︎』という音がした。
......今⁉︎
さてと、次は自分の腕が高速で治るのをイメージしてみる。
......だいぶ気持ち悪い感じで腕が治っていく。筋繊維が繋がり、少しだけ脂質が生まれ、皮が無事なところからじわじわと広がっていった。
キモっ。
さて、考察を始めよう。俺はこれまでに3回、自分の力と思しきものを使用してきた。
1回目ー空を飛んだ。
2回目ーファイアーブレスを出した。
3回目ー山を出した。 (恐らくではあるが。)
そのいずれにおいても俺は『自分がそれをするところ』をイメージしている。
先ほどの実験でも、だいたい同じことができた。
......恐らく。恐らくだが、この世界での俺の能力は、
ーーイメージしたものを具現化する能力だ。
......我ながらチートくせぇというか、完全にチートである。
強すぎるだろ。なにそれ。
その後、いろいろと実験してみて分かったが、攻撃魔法やバフ・デバフ系の魔法は具現化しようという意志が重要になってくるようだ。召喚魔法や回復魔法はイメージするだけでいい。
なぜそんな魔法があることを知ってるのか?
この世界の本を召喚したのだ。
この世界の文字は日本とは違うようで、本は最初読めなかったが『本が読める』ことをイメージしてみると分かるようになった。
俺の能力は戦闘以外の日常の中でも絶大な効果を発揮するらしい。
あと、これは能力とは関係ないが、俺の身体能力はこの世界に来た時点で半端ないことになっているらしい。
要するに、二つ目の異世界特典である。
......チートが増えました。
なんなの?神様は俺になにをさせたいの?俺はカルネア侵略するけど。
あれこれと考えていると、完全武装したフェイが帰ってきた。
フェイは辺りを見回して、草原の惨状を認めて青ざめている。
あ、それやったの僕です。
「大丈夫ですか⁉︎スガ様‼︎」
そして俺の姿を見つけると、大急ぎで近寄ってきた。
「ああ、大丈夫だよ」
俺がこともなげに言うと、
「そうですか......。よかったぁ......!」
と、実に嬉しそうに言うのであった。
え、何。照れる。
「どこに行ってたの?」
「我が家に装備をとりに戻っていました。山を出す敵なんて先ほどの装備では絶対に勝てませんからね」
敵?......ああ、そうか。確かにいきなり山が出てきたら敵襲を想像するよな。
「敵はいないよ。それよりも、いくつか聞いて欲しいことがある」
俺は異世界転移については伏せて、自分の能力について話した。
「..............................」
話を聞き終わったフェイは、ポカンという表情を浮かべていた。
まあ、そりゃそうだよな。強すぎるもんな。俺も自分で若干引いてるし。
「まぁ、そんな感じだから、侵略は割と楽かもしんない」
そう言うと、フェイは期待のこもった目で見てきた。おじさん頑張っちゃうぞ。
「あの、スガ様」
フェイが真面目な顔を向けてきた。なんだろう。
「どしたの?トイレ?」
「違います!スガ様の能力についての話です!」
顔を真っ赤にしたフェイが大声で主張した。
可愛い。
「スガ様は他の者にご自分の能力を明かさないでください」
「おろ...?なんで?」
「スガ様の能力は強すぎるので、すぐ有名になってしまいます。せめてともに侵略する仲間を集めるまでできるだけ隠してください」
へ?...あー、そういえば侵略に仲間は必要だよな。確かに侵略の準備とか邪魔されると面倒だ。
「わかった。そうするよ。俺の能力は俺と君だけの秘密だ」
「......っ!......は、はい!」
自分から提案してきたくせに、フェイが顔を赤くしている。心なしか嬉しそうだ。なぜだろう。可愛いからいいや。
そんな話をして再び歩き出す。国まであとどれくらいかな?
1時間後、俺たちはカームに到着した。
第1章これにて終了です。おかしな部分が有ったら是非コメントにて教えてください。