1-4 少女のチカラ
「じゃあ改めて、これからよろしくね。フェイ」
「はい。こちらこそ、よろしくおねがいします。スガ様」
天気は快晴。雲一つない空の下、俺とフェイは戦場から草原に戻ってきて、互いに挨拶を交わしていた。
俺のベッドの上で。
正座で。
お父さん。お母さん。僕、異世界に来て初めての仲間ができました。それも美少女ですよ?素晴らしいですねぇ!ヒャッフゥ!
さてと。
何を話せばいいかな?分かんねぇ。初めてのことだしな。うーむ。
俺が頭を悩ませていると、フェイが話しかけてきた。
「ところでスガ様。スガ様はどのような力をお持ちですか?」
おお、そういえばその確認をしていなかったな。こういうのは大切だよな。うん。確かヨシヒコも言ってた。しかし、
「いや、俺魔王になったばかりでな?自分の力を把握しきれてないんだよ。まだね」
そう、俺はまだ自分の能力を把握できていない。空を飛べたと思ったら火が吹けちゃったし。
「君は?」
「私は戦闘はからきしですが、転移魔法と変身魔法。あとは、通信魔法が使えますね。情報収集なら大得意ですよ?」
ほう、なかなかに優秀な魔法ではありませんか。何となくわかるが、とりあえずどんなものか聞いておくことにする。
「転移魔法とは、物を転移させる魔法です。自分の行ったことのある土地ならどこにでも行けます」
うん、思った通りの魔法だな。超便利。
「変身魔法は、別のものや生物に姿を変える魔法です。大きさは自由ですが、自分の体のサイズから大きく離れると、その分多くの魔力を使います」
うん。予想通り。超便利。
「最後に通信魔法ですが、これは相手の頭に直接魔力で干渉して、意思疎通をする魔法です。相手は干渉した際に、軽い頭痛のようなものが発生するそうです」
「『するそうです』というのは?」
「私以外に使っている人を見たことがありません」
なるほどね。便利便利。
「この魔法は認知度が低く、私が干渉して話しかけても空耳だと思われることが多いのです。なので、私は頭の中を覗く用途で使っています」
え、凄。何それ。マジで有用じゃないですか。
「ちょっと最後の俺にやってみてよ」
「はい、分かりました」
フェイはちょっと何を言っているのかわからない感じの呪文を唱え始めた。
「□○○◎◇▽......接続!」
......?...何となく頭の端に痛みが走った気がした。
これが頭痛か?大分しょぼいな。
『スガ様聞こえますか?』
おお、何だこれ。なんか直接脳に響いてる感じがする。
『そういう魔法ですからね』
そんなもんか。
さてと、この魔法について、いくつか質問するとしよう。
『この魔法の持続時間は?』
『10分程度ですね』
『これが使える距離は?』
『私は300メートルが限界です』
私は、ということは、使い手によって変わるのか。
『ありがとう。もういいよ』
そういうと、頭から何かが落ちたような感じがした。
ふう。慣れないことをすると少しだけ疲れるな。そう思ってフェイに顔を向ける。
--直後、フェイが倒れた。
......⁉︎
「お、おい、大丈夫か⁉︎」
抱き起こして話しかけるとフェイは弱々しく声を出した。
「た、ただの魔力切れです。気にしないでください」
魔力切れ?はやくないか?
「通信魔法っていうのはそんなに魔力を使うのか?」
「いえ、そういうわけではありません。先ほどからたくさん魔力を使用してきたので、今倒れただけでしょう」
ん?......ああ。そういえば、俺に触ってなんかしてたな。あれは魔力を送ってたのかな?
「はい。魔力を送って体に馴染ませていました」
それはありがとうだけど、だいぶ痛かったんだけど?そこら辺はどうなの?
しかし......そうだな。ということは今倒れたのは俺のせい、ということになるな。
魔力切れなら魔力を補充すればなおるだろうし、やってみるか。俺も似た感じで。
ええっと、さっきフェイはどうしてたかな?
確か......。
---胸を触ってきた。
......これはフェイのためだ。断じてやましいことなどない。そうだ。フェイのためだ。彼女も分かってくれるだろう。
『ああ、わかってくれるさ。この際彼女の胸を堪能しておくがいいさ。キシシシシシ!』
お、お前は悪魔スガ!
そうだな。よし、やるぞ!
『お待ちなさい!』
お、天使スガ!
『いっそ直で触らせてもらいましょう!』
誰だお前。天使じゃないのかよ。
まぁいい。反対意見はないな。俺はこれから......勇者になる!
俺がフェイににじり寄ろうと振り向くと、フェイは懐を探り始めていた。そして、桃色の液体が入った小瓶を取り出した。
(あれは......ポーションか!)
「ちょっ!まっっ!」
俺は一瞬でそれの正体を察知し、急いでへたり込んでいるフェイの胸を触ろうと手を伸ばした。
が、抵抗虚しくフェイはそれを飲み干し、元気百倍とばかりに立ち上がった。
胸があった位置には膝があり、俺は彼女の膝小僧に触れることになった。
「ッフゥ!やっぱりピーチ味が一番ですね!......あれ?......スガ様はどうして私の膝を触っているのですか?」
少し戸惑ったようなフェイの声。しかし、それに構う暇はない。俺は両膝両肘をついて、
「くっソォォォォォォァァアァアアア‼︎‼︎」
悲しみに飲まれて慟哭したのであった。