2-12 カーム帰還時にて
事情を話すと、奇声をあげた衛兵は俺たちに少し待っているように言った。
ちょっと荷物が大きすぎるのでいろいろと都合が悪いとの事。そりゃあこんなクソでかい肉塊連れて街中歩かれたら迷惑だろう。俺たちは大人しく門前で待った。
しばらく座り込んでぼーっとしていると、結構な数の人が出てきた。
その数およそ40人程。老若男女様々である。その中には、先ほどの受付のおばさんと兵士の帰還を報告してきたお姉さんもいた。ドラゴンの死体を見てクッソ驚いている。
顎が外れそうな勢いだ。
あ、外れた。痛そ。
あの高価そうな服を着ているおっさんは役人かなんかだろうか。自信なさげな顔があまり服に似合っていない。
「ええと、君たちが邪竜を討伐してくれたのかい?」
「ええ、まぁ」
「えっと、それじゃあ、冒険者カードを見せてくれ」
別の高級そうな服を着た男が話しかけてきた。
俺たちは男にカードを手渡す。フェイは寝てるので、勝手にポケットから拝借した。
男はフェイのカードを見て目を見開いた。信じていなかったのだろう。
ちなみにルイのカードは種族と年齢のところを書き換えている。今のルイは、人族で10歳の美幼女だ。
なんでそんなことができるのかって?
俺にできないことはないからだ。
多分ね。
すげえセリフだなこれ.........。
「驚いたな.........。本当に倒したみたいだ。この子はそんなに強いのか?あまりそうは見えないが.........」
倒した相手は、過程諸々ガン無視して、トドメを刺した者のみ、カードに表示されるらしい。だから俺のカードには何も書いてない。別にいいけどさ。
「んっ............うぅぅ......」
お、フェイが起きたようだ。.........あの、身をよじるの辞めてくれません?さっきからビッグサイズなマウンテンが俺の背中を刺激してくるのですよ。おまけに君めちゃくちゃ可愛いんだしさ。
理性が飛んじゃうからまぢでヤメテ。
「ふあぁぁぁ、あ、おはようございます」
「おー、おはよう」
「えーと、スガ様、これはどういう状況ですか?」
フェイは周囲を見回しながら言った。
説明めんどくさいなぁ。
そこへ、ルイがどこからか戻って来た。
「お兄ちゃんが何にも考えないであの死体を持って来たからさ、国の人が慌てて出て来たんだよ」
「おい待て。持って来たのは俺じゃない。お前のはずだ。罪をなすりつけるんじゃありません」
「面倒くさいなぁ、お兄ちゃんは。それよりも聞いてよ!あの人達、僕を完全に子供扱いするんだよ?『君も冒険者なのかい?すごいねぇ』って!」
「あ、そう。かわいそ」
俺はフェイを下ろした。そのついでに殴りかかって来たルイをデコピンで黙らせ、うずくまる幼女を放置してフェイと向き合う。
「どっか痛いところとかあるか?肩とか足とか胸とか。もしアレだったらマッサージとかするぞ?」
「......じ...じゃあ、胸が痛いです。マッサージ......してくだ......さ......い.........」
「喜んで!」
俺は即答で真っ赤な顔のフェイの胸に手を伸ばす。しかしそこに障害が立ちふさがる。
「わーーー‼︎ 僕が‼︎ 僕がマッサージするよ‼︎それでも別に問題ないでしょ⁉︎」
そう言ってフェイの胸を揉み始めるルイ。こ、こいつ⁉︎ やめろ!それは俺が.........!
「あ、あの、ルイちゃん?ちょっと力が強い気が.........ひうっ!」
「ちくしょう!ちくしょう!なんだよこれ!凶器じゃんか!反則じゃんか!ちくしょう!」
半泣きで、ヤケになって胸を揉みしだくルイ。その胸は、清々しいくらいに平原であった。体は10歳なんだしさ。気にすんなよ100歳。
しかし、美少女の胸を揉みしだく美幼女。
なかなかどうして素晴らしいな。
しかし、公然で胸をもめとか。
痴女なのかな?
ポケーっと見ていると、フェイに異変があった。
「あ、ちょ、えと、痛!痛たたたた痛い痛い!ちょっとストップ!ストップ!捥げちゃう!捥げちゃいますから!」
「はいスト〜〜ップ。終わり。フィニッシュ。エンド」
さすがに止めた。ルイよ。それは人類の宝だ。捥いじゃいかん。怒るぞ?
「あ、あの〜。ちょっと話を聞きたいんだけど.........」
そこへ先程の男が気まずそうに話しかけて来た。フェイが、赤い顔で「す、すいません.....。」と謝っている。かわいい。
「これカード、ありがとうございました」
「あ、ご丁寧にどうも」
「えー、オホン。この度は、邪竜を討伐して頂き、誠にありがとうございます。今回の件で、あなた方には多大な報酬が贈られるでしょう。つきましては、討伐に関していくつか質問させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
「はい、問題ありません」
「では、どのように邪竜を倒したのかということからーー」
そこから男はフェイに質問を続けた。俺とルイは暇になったので、取り敢えず報酬をもらおうと、例の受付のおばさんのところへ行った。
「おばさんただいま!依頼クリアして来たから報酬ちょうだい!」
結論から言おう。思ったほど貰えなかった。
俺が魔力を奪いすぎたせいで、魔石にも肉にも魔力があまりなかったからである。それでも、魔石はサイズとしては申し分ないし、肉は元から美味しいので全部で金貨5枚にはなった。...............魔力がちゃんとあったなら5倍は固かったらしいが。
それ以外に依頼報酬として金貨18枚。懸賞金が金貨15枚。合わせて金貨38枚である。
大金には変わりないのだが、なんだか物足りない感じだ。魔力がちゃんとあったら金貨58枚。俺の考えなしの行動のせいで金貨20枚の損失だ。
気をつけよう。
その場には金貨38枚もなかったので、後で貰えることになった。約束手形みたいな紙を手渡された。
「これでしばらくはスシ三昧だね!」
嬉しそうにルイが言って来た。は?んなわけないだろ。貯金するんだよ。しばらくは。
「え⁉︎スシが食べられるんですか⁉︎毎日⁉︎」
フェイ、お前もか。
やばい。美少女と美幼女がよだれを垂らしながら、期待のこもった上目遣いで見上げてくる。アブナイ。
「わ、分かった。うん。よく分かった。毎日は無理けど、たまに食いに行くぐらいならいいよ。それで行こう」
2人は一瞬がっかりしたものの、それでもスシが食べられることに顔をニヤつかせた。やれやれと俺は一息つく。
「で、フェイ。なんて言ってた?」
「えっとですね、なぜか、『実力を確かめるために闘技場へ来てください』と言ってました。なんででしょうね?」
「なんでだろう?」
俺たちは揃って首を傾る。
男の意図が分からない。俺たちの実力を知ってどうなるというのだろうか?本当にドラゴンを討伐したのか、と、不審に思っているのだろうか?いやでもカードに書いてあるしな............。
まぁ、暇だしいいか。
*****♪***♪♪*******♪*****
闘技場は門から大分離れたところにあった。俺たちは現在、馬車に乗っている。配置は、俺の左にルイ。正面にフェイだ。先程の男が手配しておいてくれたらしい。まぁ、転移魔法で行った方が早いんだけどさ。せっかくの初馬車である。楽しまなきゃ損損!
ルイも同じような心境だったのか目を輝かせながら外やら御者やら馬やらを見て、「馬刺し......。」と呟いている。おいやめろ。馬がビビってるだろ。こけたらどうする。
一方フェイは慣れている様子。流石貴族といったところか。さっきからずっと顎に手を当てて、「実力......。実力...............実力?」とさっきの男の言葉について考えていた。いや、『実力』しか言ってないじゃん。
「それよりもフェイ。さっきのドラゴンとの戦いの事だけど.........」
「はい、スガ様が魔力とか体力とか奪ってくれたお陰で、思った以上に楽に倒せました。.........まぁ、それでもきつかったですが.........」
「うん。その事とはちょっと違うんだが、ルイがいうにはお前は、剣の天才だそうだ」
フェイはキョトンとして首を傾げ、困ったような顔をして、悩むような顔になり、何かを決心した顔で言った。
「頭大丈夫ですか?」
「んだとこのやろう!お前が天才じゃなかったら他の奴らは何だ⁉︎ゴミムシだ!」
「殴られますよ⁉︎」
そこへルイが混ざる。
「いや、お姉ちゃんは天才だよ。断言する。まだ少し荒さが見られるけど、もうほとんど達人の域だ。初めてでここまでできて天才じゃなかったら何?ぐらいにね。見たところ手にマメもないから、剣初心者だっていうことは間違いないみたいだし」
マジで?みたいな顔でフェイがこっちを見てくるので、頷いて返す。マジで。
それからフェイは自分の隣に置いてある抜き身の剣を撫でながら口を開いた。
「重いけど、以外と剣って扱いやすいんだなって思いながら戦ってましたけど、私が異常だったんですね」
抜き身の剣撫でるなよ。危ないな。俺はホレ、と、剣の鞘を召喚した。
あ、やべ。御者の人見てたかな?
運良くこちらを見てはいないようだ。セーフ。
あ、こっち向いた。な、なななな何かね?し、ししししょしょ召喚魔法なんて誰もつつつ使えないけど?ど?
いや、これは別にいいのか。
「到着でございます。右にございますのが闘技場です」
馬車はいつの間にか止まっていた。俺たちは右の窓から外を見る。
「うおお。すげえ」
「へぇ、面白いね」
「...............綺麗.........」
そこにあったのは真っ白な外壁に覆われた神殿、いや、闘技場であった。所々に細工が施され、なかなかに立派な造りとなっている。
あるじゃん。立派な観光資源。
「こちらの闘技場は3年前に当時の国王が造らせたものです。どうです?実に美しいでしょう?」
「ええ...............とても.........」
フェイがうっとりと見入っている。芸術とか好きなのかな?
俺たちは馬車から降りて闘技場の入り口へと歩く。
入り口の前には1人の見慣れない男が、周囲に護衛らしきものたちをつれていた。年は40〜50歳といったところか。そいつは俺たちの前に歩み寄ってきた。
「貴殿がスガ殿か。今回の件。実に感謝している。この国の代表として礼を言わせてもらおう。ありがとう」
「いえいえ、どうってことないですよ。それに実際に倒したのはこちらの.........今『国の代表』って言った?」
「ん?ああ、そういえば、自己紹介がまだだったか。申し訳ない」
その男は俺の言葉遣いを気にするでもなく、ごく自然に言った。
「私の名は、レイラス・L・カーム」
いや、その男では失礼だ。その方は続けて仰った。
「この国の国王である」
.................................マジで?




