2-10 依頼を始める前に
ギルドの外に出ると、30人程の兵士たちが、傷だらけの姿で歩いて行くのが見えた。その周りをたくさんの人が笑顔で囲んでいるが、兵士たちの表情は暗い。ほとんどの奴が下を向いている。涙を流しているのもいた。
何が5分の1残ればいい方だ、だ。何も言い訳があるか。
いやでも俺魔王だし、多少残忍でも仕方ないんじゃ.........?
いや、そんなことはない。魔王以前に俺は人間なのだ。魔王としての合格点なぞいるか。
「......なぁ。ふと思ったが、こんなに苦戦してそれでも尻尾を切るのがやっとなのに、それをトレーニングに使おうとしている俺は大分頭おかしいんじゃねぇの?」
「うん。おかしいよ」
「当然ですね」
酷い言われようである。おじさん傷ついた。
だいたいそんなこと言われても余裕で勝てちゃうんだし、しょうがないじゃないですか。いや、言ったの俺だわ。
そんなことを考えながら、俺たちは兵士の一行と逆方向に進む。つまり、門の方へ。
今気づいたけど、この兵士昨日見た奴らじゃん。あの戦場から戻って来たのには、不謹慎と分かっていても、よくやったと言わざるを得ない。やるね。君ら。
では、亡くなった兵士たちの敵討ち、もといフェイのトレーニングのために邪竜とやらをぶっつぶしに行きましょう。
「行きますよ。角さん、助さん」
「誰それ?」
「私は少なくとも女なのですが......」
意気揚々と門を潜ろうとすると、
ぐうぅゥゥゥゥ〜
......俺とルイは俯いているフェイの赤い顔を覗き込んで、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。
「どうしたフェイ?お腹すいちゃった?それならそうと言ってくれればよかったのに〜(ニヤニヤ)」
「そうだよ。腹が減っては戦はできないんだよ?知ってる?ちゃんとご飯食べなきゃ?(ニヤニヤ)」
さらに顔を赤くしていくフェイ。とても可愛いです。
そういえば今朝まで捕まってたんだよなこいつ。もう昼過ぎだし、腹も減るよな。人間だもの。
何か好きなものを食べさせてあげたい。
「なんか食べたいものある?」
「ありますけど......、お金ないじゃないですか」
「.........フッ、いつから金がないと錯覚していた?」
「どういうこと?」
「これを見ろ!」
そう言って俺は小銭の入った袋を取り出した。
「なっ⁉︎なんでお金持ってるんですか⁉︎」
「話せば長くなるんだが、拾った」
「短っ」
この国は日本のように治安がいいわけでもなく、街中で落としたものは基本返ってこない。というか、返す機会がない。
なので、街中で拾ったもんは自分のもんという、暗黙のルールがあるようだ。まぁ、拾ったとしても大して金入ってないんだけどさ。大金が入ってるようなら絶対に落とすまいと注意するだろうからな。俺が拾ったやつは、大銅貨3枚だった。カームの国での一食につき平均大銅貨一枚強らしいので、ちょっと安いやつを頼めばみんな食べられるだろう。
「そんで、何か食いたいものある?」
「えっと、じゃあ......」
その時フェイが口にしたのは、紛れもなく爆弾発言であった。
「スシが食べたいです」
少なくとも、俺にとっては。
*****♪***♪♪*******♪*****
俺たちがいるのはカーム国内有数の高級料理店。節約?知らない子ですね。
この世界に寿司の存在があるなら、俺の召喚によって誰かの所持金が減ったとしてもさしたる問題ではないのだ!
日本人として、これは食べるべきなのだ!それが俺に課せられた宿命であり、義務である。それを食べることは、この世界に来た俺にとっての運命と言っても過言ではない!
いや、過言かもしれない。
うん、過言だね。
...............。
そんなのはどうでもいいのだ!
とにかく、寿司があるなら食べたい。だって日本人だし?
目の前に出されたのは黒い液体と、赤いネタの寿司。
驚くべきことに、ちゃんと醤油があるのだ。無いと思ってたけども......。
シャリからもほんのりと酢の香りがするし、ネタは光沢があって美しい。この世界に来たからには、もう2度と日本食など拝めないと思っていたが、まさかこんなに早い段階で拝見できるとは.........。
小生!感激でござる!
ただひとつ残念なのが、ナイフとフォークが出てきたことだ。分かってないなぁ。寿司は素手だろうが。ダメならせめて箸をくれ。
これだけでいろいろと台無しである。
周りを見ると、ルイはフォークで串刺しにして、フェイはナイフで切った後にフォークに載せるようにして食べていた。他にも寿司を食べている人はいるが、素手の人はいない。どう見ても、素手で食べていい空気ではないな。
諦めてフォークで食べることにした。あ〜ぁ、あとちょっとなのに.........。
口へと運んで咀嚼。うん。味は完璧。なまじ完成度が高いゆえに、ガッカリ感がすごい。
だが、懐かしき日本の味を堪能できた。それは素晴らしいことだ。ワシ満足。
店員に聞いて見たところ、天麩羅などはないらしい。俺が広めるのもいいかもしれんな。まぁ、侵略終わったあとにだけどさ。
腹も適度に膨れたので、そろそろお勘定である。すると、胡散臭い感じのおっさんが出てきた。ふと思ったが、こっちにきてから触れ合う人間はおっさんが大半だ。神様もっと俺に女性との触れ合いを!と思ったが、フェイとルイがいるからいいや。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
「それはそれはありがとうございます。では、代金、大銀貨4枚になります」
.....................は?
大銀貨?4枚だと?
幾ら何でも高すぎるだろ。
「待ってよおじさん!そんなに高いわけないじゃん!」
案の定ルイが突っかかって言った。
当然だろう。男が提示した値段は、ちょっと質のいい全身防具よりも高いのだから。
見ると男は、殺意の沸くようないやらしい笑みを浮かべていた。
「お客様は分からないでしょうが、当店の料理は他に比べて少々お高いのですよ。中でも寿司などはより、ね。まさか、払えないとでも言うおつもりですか?」
「なっ......‼︎」
フェイが絶句した。近頃絶句することが多いよ君。
さて、俺には相場は分からないし、彼が嘘をついているのかも分からない。そこで、困った時のアレである。
テッテレッテレ〜!通信魔法〜!
これを使うと相手の考えていることが分かるんだよ〜。byフェイ。
早速使用してみる。
(ククククッ。狼狽えてやがる。今回は大銀貨4枚にしてみたが、こいつら思った通り相場が分かってねぇな。押し通せば行けそうだぜ)
ほう。ここまで精密に分かるのか。便利すぎてやばい。さらに俺の場合、無詠唱で使えるしな。常時使っておくのもいいかもしれない。魔力は腐るほどあるし。
それはそうと、やっぱり嘘だよな。大銀貨8枚とかふっかけすぎだろ。バカじゃねぇの?
なんか、こいつの考えていることが分かると、だんだん滑稽に思えてきた。
「お客様?黙りこくってどうなさいました?」
こう言う風に自分が優位に立ってると思ってる奴って、思ってることが分かると大分面白いな。
「ちょっと?何か喋ってくださいよ。払えないんですか?ねぇ。喋れよ」
「...........................」
俺はあまりの面白さに口を押さえてプルプルと震えていた。だってそうしないと吹き出しちゃうもん。
「オイあんた。何してんだ。調子に乗ってんじゃねぇぞ。あぁん?」
「ぶはあぁっ!」
耐えられなかった。吹き出しちゃったよ。だって面白いんだもん。ここまで三下丸出しの脅しもなかなかないだろう。一回吹き出した俺は止まることなく大声で笑っていた。
「クククッ、ははははは!ゲホッゲホッ!.........はっはっはっは‼︎」
「な、なんだあんた⁉︎」
「いやあんたさ............ぶーーーーっ‼︎」
やばい。止まらん。これじゃ頭のおかしい奴じゃないか。フェイ達まで引いてるし。仲間にまで引かれるのはちょっと勘弁なので、訳を教えてやる。
「...............っ!」
「はははははははは‼︎」
すると、フェイ達も笑い出した。
フェイは俯いてプルプルと。ルイは仰向けに転がって大爆笑。
何が面白かったって?この男、俺が考えてることわかってるの知らずに、
『やっぱり俺は天才だぜ!』
とか思ってるんだぜ?大分滑稽だわー。
とてもいいものを見せてもらった。が、大銀貨4枚払うのは勘弁である。だって高いし。そんなに持ってないし。そこで俺は、
本物の脅しというやつを見せてやることにした。
「いやー、な?おっさんよ」
俺は男の肩に手を置き、
ーーーーグジュリ
握り潰した。
「ぐああああああ⁉︎」
男は即座に悲鳴をあげるが、その肩はなんの異常もなかった。
それもそのはず。俺が握り潰してすぐに治したのだから。治癒魔法の上位互換である、再生魔法によって。その名の通り、欠損した部分までも、元に戻すことができるのだ。
「本当の値段でお願いしますよ。無駄遣いしたらダメって言われてるんでね。お店側としても、床に赤いシミがつくと不都合でしょう?」
耳に口を近づけて冷たい声で言った。隠し味はちょっとした殺気。最近の度重なる戦闘で、意図的に殺気を出すことができるようになったのだ。肩がぶつかって文句つけてきた若造に『あ?』と返したらビビって逃げていった。その時に、ルイに殺気が出てたと教えてもらったのである。その後練習して調節することができるようになった。
雑魚ならこれで潰すことができる。それくらいに質の高い殺気らしい。
雑魚たるこのおっさんは、当然のごとく竦み上がってしまい、冷や汗をかきながら大きく首を縦に振った。
「だ、代金、銀貨2枚にな、なります.........」
「はい、どうぞ。ちょうど2枚。」
俺は男の手を包み込んで銀貨を2枚握らせた。そして大学の面接練習で培った笑顔を向ける。
途端に、男は白目をむいて失神してしまった。股の間から温水が流れ出ているが、ばっちいので見ないようにする。
なんか気分良くなってきたな。
そのまま出口に向かって歩き出す。後ろからフェイ達が呆れた顔でついてきた。
「ごちそうさまでした!また来ます!」
テンションが高くなった俺は、最後に振り返って大きな声で礼をし、笑顔で店を後にした。
他の客や店員が思ったことは、『もう2度と来んな。』であった。
*****♪***♪♪*******♪*****
「鬼畜」
「鬼です」
「人でなし」
「極悪魔王」
「魔王の鏡」
「お手本魔王」
「それ最後の方どう受けとればいいんだ?」
女性陣にボロクソ言われながら、俺たちは出国料を払って門をくぐった。確かにさっきの俺ははたから見れば、『代金をごまかされ、いきなり笑い出した末に、店員を失禁させた迷惑な客』である。迷惑どころの話じゃねぇわ。
ちょっとやりすぎちゃった。テヘペロ。
「落ち着けよ。確かにちょっとやりすぎた感じはあるけど、悪いのあっちじゃないですか。僕は自分の正当性を主張します!俺は無実だ!」
「判定。だとしてもやりすぎだよ。有罪」
「そうですね。あそこまでしなくても良かったはずです。有罪」
多数決により、俺の有罪が決まってしまった。クソゥ!これが冤罪かっ!
「あとでお店に謝りにいってください」
「..........................................................」
「返事っ!」
「はいっ‼︎‼︎」
はぁ、やだなぁ。行きたくないなぁ。
散髪に失敗した学生のようなテンションになってしまった。あれほんと辛い。
八つ当たり気味に近くの石を割と本気で蹴り飛ばす。直径10センチほどの石が音速を超えて約45度ほどへ飛んでいった。
「はいはい、気持ち切り替えるよ。さっさと邪竜を「ギャオォォォォ‼︎」探す.........何今の?」
叫び声が聞こえてきた方に目をやると同時に、巨大なものが落ちたかのような地鳴りが響いた。
そして俺が何事かと目を凝らすと、炎の柱がこちらへ向かってくるのが見えた。
即座にイメージによってバリアを創り、防御。ファイアーブレスを真正面から掻き消す。
そして炎が消え、奥から現れたのは、昨日見た緑色のドラゴンだった。




