2-7 緊張感の足りない2人
パッシャァァァ‼︎
いきなり顔面に冷水をかけられた俺は即座に気絶から立ち直った。視界が急速にクリアになっていく。
「起きたか。いきなりで悪いが、質問に答えろ」
視界の真ん中にいたボロいコートを着た男が話しかけて来た。
本当にいきなりだな。なんだこの男?命令口調で。調子に乗ってるんじゃねえよ。
「なんだお前?ふざけんな。調子乗ってんのか?」
ボキッ
「いっ.........ああああっ‼︎」
痛っ!なんだ⁉︎何が起きた⁉︎
俺は振り返る。そこには、褐色の肌に銀色の髪の幼女がいた。
俺の腕を掴んで。
幼女が笑いながら俺の手を見させてくれた。
俺の手は、小指がへし折られていた。
ゾッとした。こいつが折ったのか.........?
というかこいつ!さっきダイルたちを殺したやつじゃないか!
「悪いがそっちに質問する権利はない。俺の質問にだけ答えろ。質問の答え以外を口にした場合、今と同じ目にあってもらう。何回でもな」
男がそんなことを言いながら、俺の手に治癒魔法をかけた。何度でも......要するに拷問か。勘弁してくれ。
「わ、分かった」
クソッ。なんで俺がこんな目に!
「じゃあ、最初の質問だ。お前は『泥蝙蝠』のメンバーか?」
*****♪***♪♪*******♪*****
「いや、違う」
ボキッ
「ぐああああ‼︎」
嘘だったようだ。嘘をつくということは、それなりにやましいことがあるのだろう。
「言い忘れていたが、その子は嘘を見抜ける。嘘だった場合も指を折る。正直に答えろ」
そう言いながら男の指を治す。折れた指が元の形に戻っていく。相変わらず気持ち悪い治り方だ。
それはそうとして、
そうか。こいつも泥蝙蝠のメンバーか。
なら奴隷行きだな。
あの後、男を起こす前にルイと少し話し合って、できるだけ殺すのは無くすことにした。
事情があれば殺すこともあると思うが、積極的にいくことはない。我慢の限界に達した時ぐらいにならOKだ。それ以外は奴隷に落とす。そういう風に決めた。
後でフェイにも話しておかないとな。
.........奴隷制度なくすのやめて、人攫いだけなくすことにしようかな。既にあるかもしれないけど、罪人への刑罰の一つとして、一定期間の奴隷落ち、みたいな。
うん。そうしよう。
ところで、ルイには嘘を見抜く力があると言ったが、あれは嘘だ。いや、やっぱり嘘じゃないかもしれないが、彼女は嘘と断定する基準が分かっているだけだ。
ルイは男の手首の脈動を測って、嘘を見抜いているらしい。だから、別にそういう能力とかではない。技術だ。
うちの幼女が万能すぎてヤバい。
「次だ。昨日、黒いコートの女の子が捕まったはずだが、捕まえて来たのは誰だ?」
「.........?そんな女は捕まっていないはずだ」
「は?何を言ってる。小指を折られたいのか?」
「ち、違う!本当だ!そんな女は捕まっていない!」
俺はルイを見た。フルフルと首を振っている。嘘はついてないようだ。どういう......。
あ、そうか。今は俺が持っているが、フェイのコートは裏路地に捨てられていたんだった。忘れてたぜ。
売れば結構な値段がついただろうに。
いや、高そうなコートをこんな小汚い奴らが売っていたら誰だって不思議に思うか。意外に頭が回っている。
「悪い。訂正だ。昨日、黒髪の美少女が捕まらなかったか?胸が大きい」
「ああ、そいつか。ゲインが連れて来たやつだな。あれはでかかった」
男が感慨深げに頷くのに、俺も同調して頷く。だよな。でかいよな。
ルイが男衆を蔑んだ目で見ている。
やめろよ。男なんだから仕方ないだろ!
「そのゲインはどんなやつだ?」
「小太りのおっさんだよ。俺とおんなじくらい小汚い。あと、トレードマークかなんか知らんが、いつも黄色のネクタイをしてるぜ」
小汚いってレベルじゃないだろお前。超汚い。臭い。どっかで水浴びでもしろよ。猿の方がまだましだ。
「最後の質問だ。その子の檻はどこにある?」
「何で檻の事知って.........」
ボキッ
「.........っ!............どのっ、檻かまでは......分からんがっ.........っふう。少なくとも、全部の檻は地下にあるぜ」
途中で治してやったら、話しやすそうになった。なるほど、地下か。フェイを助けるついでに、他の被害者も助けておこう。
「聞きたいことは終わりだ。情報提供感謝する」
男が見るからに安心した様子でため息をついた。
......何お前。これでおしまいだとでも思ってんの?
「いい夢見ろよ」
「は?そりゃ一体どういう......っ!......」
ルイは男の首筋に手刀を当てて意識を奪った。しばらく起きることはないだろう。
じゃあな。全部終わったら詰所の前に置いとくから、起きたら罪を償ってくれたまえ。もしかしたら死刑かもしれんが、そこらへんは知らん。どうにでもなれ。自業自得じゃアホンダラ。
「お疲れ。お兄ちゃん」
ルイが労いの言葉をかけて来た。
「ほんっと疲れた!高圧的に喋るのがこんなにもだるいとは.........。それに拷問って俺そんな趣味ないから凄い何かこう、精神的にあれだわ。やだ」
「何子供みたいな事言ってんのさ。魔王が。駄々捏ねるんじゃありません!」
「うるせぇクソガキババァ!」
「ガッ......バッ.........はぁぁぁあああ⁉︎」
ルイが掴みかかってきた。俺はルイの脇には手を滑り込ませ、
「くらうがいい!古来より我が国に伝わりし、無力化の奥義!『笑顔の時間‼︎』」
「キャハハッ、ハハッ、ハッ.............んっ......!」
ルイがへんな声を出したのでくすぐるのをやめた。いつの間にかずれて、胸をいじっていたようだ。
ルイの息が荒い。
.........ごめん。
おっと、こんなことをしている場合じゃない。さっさとあのキモい建物に入ろう。
ルイが赤い顔で睨んできているが、俺は気づいていない。.........気づいていない。
*****♪***♪♪*******♪*****
建物の中は想像以上に上品な香りがした。
納豆とか汚物とかくさやとかその他いろんなものを混ぜて煮詰めて常温多湿空間で4日放置したような香り。
鼻が曲がりまくって元の位置に戻ってきそうだ。絶対痛い。
外から見てて思ったけどさ、この建物窓無いじゃん。換気できないじゃん。地下とかもっと酷そうなんだけど。
フェイの鼻がすごく心配である。
これでは無理だ。一時退散。戦略的撤退。
あまりにもあんまりな匂いに、軽く挫けそうになる。この匂いじゃ無理だ。口で呼吸すれば良さそうなものだと思っているかもしれないが、あれは無理。一回口で吸ってみたけど、もう空気に味があるもん。もちろんまずい。
ルイは一足先に出て、四つん這いでモザイクを吐き出していた。
現在100歳ーー正確には100歳11か月らしいーーの黒竜の姿である。
さっき死んでいった男たちがみたらどんな顔をするだろうか。
まぁ、どうでもいいが。
俺は二人分のモザイクを確認して、立ち上がった。
あの匂いをどうにかするために、少し考えてみよう。
と言っても、もう策はあるのだが。
さっきから色々とグダグダしているから、憂さ晴らしに思いついた強引な策。
俺はドームに向かって手刀を構える。
イメージは斬撃。ブ○ーチの月牙て○衝。ワ○ピースのら○脚。
俺の手からうっすらと光が滲んだ。
ゆっくりと居合い斬りの構えをとり、
横薙ぎの一閃。
薄く光る刀より放たれた三日月型の斬撃が、一瞬のうちにドームを撥ねとばす。
吹っ飛んだドームが近くの建物にめり込んだ。人がいないことを祈る。ま、人がいたとしてもここら辺に住んでるのはさっきのあいつらみたいな奴らぐらいだしな。
ーー後で確認すると、空き家でした。
ひっくり返ったドームから、汚い男たちがたくさんと、たまに全裸の女性が落ちてきた。女性だけ回収しよう。全裸ということは、あれだ、想像はつくしな。
同情します。
ただ同情するだけなのも申し訳ないので、布を被せて寝かせ、その上に先ほどの男が持っていた銅貨数枚を置いておいた。目が覚めたら、頑張って生きてくれ。
おっと、名言を思い出している場合じゃない。落ちてきた男たちが鬼の形相で襲いかかってきた。
「ルイ。手足の一本や二本どうなっても構わないけど、殺さない程度にな」
「アイアイサー」
依然ワンピースが真っ赤なままのルイが、目を輝かせながら俺の前に立つ。
そこに向かっていく、無数の男たち。
哀れな。周りの肉塊が見えないのだろうか。
ーー30秒後、四肢のいずれかが欠けた男たちが地に伏していた。周りには山盛りの肉塊。血生臭い広場になったものだ。
とりあえず死なないように治癒魔法をかけておいた。
「今更思うんだけどさ、お兄ちゃんってすっごいナチュラルに無詠唱魔法使ってるよね」
.........そういえばそうだな。
確か無詠唱魔法って、歴代最強の魔王が使ってたやつだよな。
「あれ?俺魔王の中でも超強いんじゃね?」
「超強いね。身体もつよいしね。僕の肘鉄喰らって首がつながってるなんてなかなか無いよ」
「そんな危ないことすんなよ!うっかり首が取れちゃったらどうすんの⁉︎」
この子超怖い。
「そんなことよりお兄ちゃん。急がなくていいの?」
そんなことだとぅ⁉︎
「このガキっ......!......いや、いいや。そうだな、急ごう」
ルイさんが正しいです。はい。
ちゃっちゃと行きましょう。




