2-5 フェイを訪ねて30人
朝、俺とルイは2人で一緒に夜明けを迎えた。
そんな言い方をしたが、もちろんエロいことはない。夜中にわざわざ国に入るのがめんどくさかったので、草原の壊れたベッドの近くで寝ることにしたまでである。
移動時間?何それおいしいの?
俺テレポート使えるし。
ところで、さっきまで夜だったから気づかなかったが、現在天気は曇りだ。空一面を暗雲が覆っている。雨が降りそうだな。
さて、なんやかんやでルイが仲間になった。
フェイと顔合わせはしておいた方がいいよな。一緒に旅するんだし。とりあえず、門に行こう。
ちなみに、ルイには俺の能力やカルネア侵略のことを伝えてある。仲間だしね。かなり驚いていたが、すぐに落ち着きを取り戻した。さすが年長者だ。
さて、どうやって国に入ろうか。前回は空飛んで言った。今回も飛んで行こうかと提案したが、ドラゴンの体でないと飛べないらしい。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
俺が悩んでいるのを見て、ルイが話しかけてきた。
「何?」
「変身魔法を使えばいいんじゃないの?」
......そういやそうだな。
むしろなんで今まで気づかなかったんだろう?こんな簡単なことなのに。
ん?ルイが服を引っ張ってきた。何?
「お兄ちゃんってさ、頭悪いの?」
......返す言葉もございませぬ。
一体なぜだ。日本ではいい大学に進学するぐらいには頭が良かったのに。
身体能力と反比例でもしたのか?
その後、じゃあルイの姿をどうやって変えるか頭を悩ませながら門まで行き、変える必要がないことに気がついた俺と、はなから心配していなかったルイは、今回は本当に大した問題もなく入国することができたのだった。
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困った。
これはまいった。
今度からもうちょっと深く考えて行動しよう。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
いやー、うっかりしていたぜ。
フェイならそこそこ良い宿を取っておいてくれていると思ったけども。
そりゃあ、国全体だしな。程度の良い宿なんかいくらでもあるわな。
まぁ、要するに何があったのかというと、
「どの宿なの?」
......そういうことである。
どの宿なんだろう。
今、俺たちの目には、3件の宿が映っている。ランクは平均よりちょっと高めぐらい。
何が問題なのか?それは、俺たちがいるのが、大通りの一角だということである。
先ほど国全体と言ったが、訂正はない。
驚くべきことに、この国にはスラムというものがないのである。だから、国中のいろんなところに今見てる宿とおんなじくらいのがあるのだ。
小国ゆえの人口の少なさから、また、思ったよりも他国に人気らしい乳製品から、国民それぞれが少なくない財産を所持しているらしい。
しかし、いくら小国と言っても一国家だ。小国のくせに国を国璧で囲えていることから、元の世界の国の大きさから見ればしょうもない広さだろうが、おそらく一つの県よりもちょっと狭いくらいの広さはあるだろう。入学予定だった大学の敷地をクッソ広いと称した俺が頑張れそうな広さじゃない。
「しょうがない。あれを使うか.........」
だが、俺はあの時の俺とは違う。
具体的にはチートが使えるあたりとかが違う。
俺はルイに向かって言った。
「ルイよ!刮目せよ!これがお前の仲間の力だ!」
そうして俺はとあるイメージをしようとして............
やっぱりやめて人気のないところに移動した。
だってあんまり人に見せていいものじゃないし。
「ルイよ!刮目せ (以下略)!」
俺はとあるイメージをする。
途端、何もないところから俺と全く同じ顔の男が、29名。俺を含めて、30名の魔王が裏通りに現れた。
イメージは増殖。分身や分裂ではない。
説明しよう!
ここにいるのは全員俺であり、全員がクローンであり、さらにある意味では全員で一つの生命体と言っても過言ではない。
それはひとえに、知識の共有化によるものである。
こいつらは一人一人が意識を持ち、一人一人がオリジナルと同じ能力を持ち、一人一人が魔王である。だから、分身や分裂のように弱くなったりはしない。が、知識......つまりは記憶だけは共有するようにする。1人の俺が経験したことは全ての俺にも同様の情報が入ってくる。更に、脳はそれぞれが持っているので、情報の処理は終了して送られてくる。全ては過去のこととしてそれぞれに蓄積されるのだ。
つまり、今から行うと思っている『総当たり作戦』に、最も適した集団である。
そこまで話すと、ルイが頬を引きつらせて笑っていた。まぁ、気持ちは分かる。
「もう、これでカルネア侵略した方が早いと思うんだけど.........」
ルイがそんなことを言ってくる。ふっ、甘いな。ここは言ってやらねばなるまい。
「まぁ、そうなんだけどさ」
どこからか『そうなのかよ』というツッコミが聞こえてきそうだ。だが、そうできない理由があるのだ。
第一に、増やせるのが俺だけだということだ。俺だけで侵略しても、亜人の中に納得しない者が現れる可能性が高い。
第二に、侵略した後のことである。新しい国を作って大臣などを決めるときに、たいして知りもしない人を選びたくない。侵略時に各方面と信頼関係を築いておきたいのだ。
そして、第三に.........
「キモいんだよ」
「ま、まぁ、確かに......」
同じ人間が何人もいるのは、想像以上にキモい。変身魔法で顔を変えればいいと思うかもしれないが、そうじゃない。
なんか.........なんか嫌なのだ。
今後、できる限り使いたくないのです。
でも、今回は仕方ないね。
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「黒いコートの美少女?いや、そんな客はいなかったな」
作戦を開始してから30分。総勢30名の俺たちは、未だ何の手がかりもつかめていなかった。
この国宿多すぎだろ.........!
しかし、おかしい。なぜ未だに情報がないんだ?
開始30分で何を言っていると思われるかもしれないが、よく考えてほしい。移動時間を度外視できるレベルの移動速度を有し、同じ宿には2度行くことはない。そんな奴が30人だ。少なくとも今までに100以上の宿に話を聞いているはず。なのに、フェイを見たという情報すらないのだ。
どう考えたって異常だ。
「お兄ちゃん。何か分かった?」
「いや、まだ何も」
ルイは、オリジナルである俺と一緒にいる。フェイを知らないなりに、頑張って聞き出してくれているが、収穫はない。
そのとき、別の俺の情報が入ってきた。
『そういえば、昨日そんな感じの子が男に襲われてたのを見たぞ』
俺は即座にルイを担ぎ上げ、転移する。次の瞬間視界に入ってきたのは、俺とフェイが別れた通りの景色だった。
クローンの俺は、宿の従業員の胸ぐらを掴み上げて質問していた。
「その後だ!その後どこに行った⁉︎」
「落ち着けよ」
俺はそのクローンを消去。ついでに他の奴らも消した。そして、へたり込んで混乱する従業員の男に近づいて、
「質問に答えてください。どこに行ったんですか?」
「わ、分からない......。テレポートを使ってどこかに行ってしまった」
話によると、フェイは俺と別れてから近くの宿に入ろうとし、そこで暴漢に襲われた。何かを吸わされて眠り、そこからテレポートで連れさらわれたらしい。
「男に心当たりはありますか?」
「ああ、多分『泥蝙蝠』の奴らだと思う。この辺りで人攫いをしてるグループだ。かなり大きな集団だから、歯向かわない方がいい。っていうのがここら辺の常識だ」
人攫い。人間を捕まえて、奴隷にして奴隷商に売りつける。
高価そうな服を着て、単独でいる美少女。
なるほど、標的にされてもおかしくないラインナップだ。
......クソッ‼︎
考えれば分かるだろうが!本物の馬鹿か俺は‼︎いや、馬鹿だ!
俺は大きく舌打ちをした。ルイが少し怖がっている。
「そのグループの拠点みたいなものはどこか、わかりますか?」
俺はできるだけ平静を保って聞いた。
「知ってるよ。分かった。教えてやる。だからちょっと落ち着け」
が、相手にたしなめられてしまった。そんなに慌てているように見えるのか。そうだな。少し落ち着こう。
「ここの通りをまっすぐ行くと、変なもんばっか売りつけてくる変な店がある。見りゃ分かるが、相当変だ。そこの角を曲がって裏路地を進んで行ったら奴らの拠点がある」
「そこにフェイはいるんですか?」
「いる。間違いなく。奴らは捕まえた者は3日ほどそこにある牢屋に監禁している」
そうか。なら、まだ間に合うな。
しかし、この男はなぜそんなことを知っているのだろう。
.........いや、やめておこう。情報の出所なんかどうでもいい。今はこの人の言うことを信じてみよう。
「頑張れよ。.........その子を、娘の様な目に合わさない様にしてくれ......」
男が泣き出しそうな目で言ってきた。
「.........必ず」
そう言って俺はルイを担いで、ひとまず変な店を目指して走り出した。
さぁ、泥蝙蝠を潰しに行こう。




