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武器受領

「二番、三番、前方十五の堆土まで! 早駆け前へ!」


「了解!」


 土で出来た障害物の間を土を蹴り上げながらVR小隊の面々が走り出し、身をひそめる事が出来る程度の障害物に身を隠す。


目標物を取り囲む様に配置されたVR小隊が、班長草鹿の号令で突撃を開始する。


「前方目標物へ! 突撃に! 前へ!」


「うおおおお!」


 声の限りに雄叫びを上げながら、班員全員が一斉に巻藁に小枝を突き刺した。


「状況終了!」


 草鹿の号令で全員が一列に整列する。


 一列に整列した草鹿班の面々は、戦闘訓練終了後らしく皆一様に泥だらけである。


 ただ通常の部隊と幾つか違う所をあげるとすれば、全員猫耳で幼女でヒラヒラの迷彩ワンピース姿であるところである。


「そろそろ時間だな、全員アカウントメニューを参照の上、祝御入学ガチャキャンペーンより十一連ガチャを実行! 携行武器の受領を完了せよ! 武器の受領が済むまで全員休憩!」


「了解!」


 草鹿は支持を出し終わりドカリとその場に腰を下ろす。


「くさかちゃん、随分気合入れてガチャするのね? 親御さんの許可はキチンと貰っているの?」


 草鹿の横にいつの間にか座って、顔を覗き込んでいるのは民間協力員のひろみである。

「上の許可は取ってあるし、上からの命令事項なのでかまわん!」


 憮然として答える草鹿の横顔を見て、ひろみが顔を赤らめながら身をよじらせる。


 草鹿はひろみに一瞥もくれずにアカウントメニューを開き、期間限定ガチャの項目を探す。


 事前に配られていた資料通りのバナーをタッチして十一連ボタンを押す。


 ログの中にアイテム受領の書き込みを探し、確認をした後にアイテムメニューを開くと見慣れぬアイテムがある。


〔装備品ー猫〕〔装備品ーお出掛け猫キャリーバック〕〔装備品ーサンマ〕


「猫? サンマ?」


 ポーションなどの外れ商品に混ざり装備品はこの二種類だけだ。


 班員達もざわつき始めたので草鹿は試しに猫を装備して見る。


「にゃあ……」


 草鹿の足下に寝転がる猫はそこそこ大きい成猫で、ふてぶてしい顔で草鹿を見上げている。


「班長……この猫の諸元がプロパティから見る事が出来るのですが……」


 福田三尉の言葉に草鹿はアイテム欄から猫のプロパティを開く。


「伸び伸びモード全長九百十六㎜、体重三千五百g、縮みモード全長三百四十㎜、体重千六百gだと? 何故伸びと縮みで体重が変化する?」


 首を捻る草鹿に助け舟を出す様に副官の福田が囁く。


「この諸元……見覚えがあります」


「これは……」


 福田三尉の言葉に草鹿は息を飲んだ。


「伸び伸びモードの諸元は八九式小銃の諸元と同じで、縮みモードの諸元はMP7の諸元と同じか……」


「はい……」


「という事は……」


「猫一丁で二丁分の働きをするという事かと……」


「そうじゃない」


「はっ……」


 草鹿は恐る恐る猫の背中に触り唾を飲み込みながら呟いた。


「の、伸び伸びモード」


 草鹿が触れた猫は手足を前後に突っ張りながら、伸びをした格好で腹を見せひっくり返る。


 筋力レベルの低い草鹿はふらつきながらも、自分の身長と然程変わらない伸び猫を持ち上げて、猫の腹を上に向けて小銃の様に構える。


「こ、これでいいのか?」


 草鹿は先程まで戦闘訓練で使用していた巻藁に向かい、伸び猫の前足を向けて狙いを定めて尻尾を握りこんだ。


「ニャーん!」


 けたたましい猫声と共に一発の銃弾が巻藁に突き刺さり弾け飛んだ。


 草鹿は銃の反動で尻餅をつく。


「体重が足りないですね、筋力も足りないと思われます」


「それ以前に何故猫なのだ?」


「民間企業の隠蔽方法としては、これがスタンダードなのでは?」


 草鹿班の全員が幼女の体格には扱いの厳しそうな成猫を、四苦八苦しながら携行しようとしている。


「何故この猫は歩かないのだ!」


 草鹿が苛立たしげに猫を睨むと猫は呑気に欠伸を始めた。


「恐らくですが猫は装備品扱いになっているので、自動で追尾出来ない仕様なのではないでしょうか?」


 福田の言葉にピンと来た草鹿は、アイテムメニューから〔お出掛け猫キャリーバック〕を装備する。


 草鹿の背中に光と共にランドセル型の猫キャリーバックが現れたと思うと、今迄動く気配の無かった猫が立ち上がり、背中のキャリーバックの中に飛び込んだ。


「うお……っと、成る程こうして持ち運ぶのか、それにしても重いな早急にレベルアップ業務に移らないと訓練どころの話ではなくなるな」


 草鹿の示したキャリーバックの使用法を見て班員達も早速装備する。


「こうなると残るサンマと言うのは何なのだ? 弾倉か?」


 草鹿はもう何も驚くまいと覚悟を決めて、アイテムメニューのサンマを装備すると光と共に手の中にサンマが現れる。


「サンマ? 鉄製なのか?」


 しげしげと草鹿がサンマを眺めていると班員から声がかかる。


「班長、これを見てください!」


 班員の一人片石三尉が自分の伸び猫を差し出した。


 彼の伸び猫の前足にはサンマがしっかりと握り締められて固定されている。


〔全長四百十㎜、刃渡二百九十㎜〕


「八九式銃剣か……」


「八九式小銃に着剣が出来る様です。サンマの頭が剣先みたいですね」


 草鹿が背負ったキャリーバックの中で、猫が草鹿のサンマに手を伸ばして取り上げる。

「む?」


 猫は取り上げたサンマを草鹿が受け取りやすい形で差し出したまま固まった。


「ナイフシースか……」


「まったく芸の細かい事で」


 こうして草鹿率いるVR小隊の統一装備は猫耳、迷彩ワンピース、ランドセル、ランドセルから顔を出す猫、サンマ、となって益々混沌として来た。


 民間協力員のひろみは班員の間を飛び回りながら、三百五十枚からなるスクリーンショットを撮りまくっていた。


「これだから民間は嫌なんだ……」


 草鹿は肩に食い込むキャリーバックの重さと共に地面に平伏した。

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