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強装備

「片石三尉現着!」


「片岡曹長現着!」


 次々と幼女特殊作戦群が戻って来る中、草鹿二尉はゲーム内オブジェクトであるみかん箱の上でイライラと全員の到着を待つ。


 総員集合完了まで後二人と言うところで、一般プレイヤーはまず訪れる事が無いと言われている初心者練習場に巨大な影が映し出される。


「誰か!」


 咄嗟に物陰に隠れ誰何する草鹿の目に映ったのは、幼女を両脇に抱えた大女であった。

「福田! 大丈夫か!」


 大女の右側に抱えられていたのは、先程まで草鹿と話し込んでいて非常呼集を命じた福田であった。


「まさかこんな所でモンスターとエンカウントとは……」


「いやいや、お嬢ちゃんモンスターは無いんじゃないかな?」


 幼女を両脇に抱えた大女はコメカミに青筋を立てて苦笑いを浮かべた。


「言葉が通じる? プレイヤーか?」


「大女で悪かったわね、おチビちゃん。VR酔で倒れていた二人がこの場所を指定して聞かないから、態々ここまで連れてきてあげた優しいお姉ちゃんに言う事はないのかな?」

 がっしと草鹿二尉の頭頂部を鷲掴みにして、ギリギリと締め付ける大女は躾に厳しいらしく子供に容赦はなかった。


「ぬおおおおお! 痛い痛い痛い!」


 遠隔操作ロボット船坂一号の対応強度に合わせて、痛覚フィードバックを調整している草鹿達は一般プレイヤーよりも痛みを感じるように出来ている。


「あら、そんなに痛かった? コンフィグ設定で痛覚の設定を間違えているんじゃない?お父さんに設定しなおしてもらった方が良いんじゃないかな?」


 草鹿の痛がり様に大女が怯んで力を抜いた途端、草鹿はスルリと大女の脇をくぐり抜け背後に回る。


「福田を放せ」


「ああ、はいはい分かったわよ、これでいい?」


 幼女二人を抱えた女は優しく地面に二人を横たえる。


「班長……申し訳ありません」


「福田、それと恩田曹長か? 二人共今すぐログアウトをして衛生隊にバイタルのチェックをしてもらえ」


「了解」


「了解」


 二人の身体がブロックノイズに変換されて、練習場から掻き消える。


「全員ログアウトだ」


「了解」


 草鹿の班員は草鹿一人を残し全員ログアウトをして、初心者練習場には草鹿一人と大女が残される。


「さて、大女、福田を助けてくれてありがとう。礼を言う」


 草鹿はペコリと頭を下げて礼を言うと、大女は近付いて来て草鹿の頭に手を伸ばし、再度頭頂部をギリギリと締めあげた。


「だから大女じゃなくて、あなた達が小さいの! あたしの身長は普通なの!」


「あだだだだだ!」


「あたしには、ひろみって名前があるんだから、大女はやめて!」


「すまん……すまんひろみ! 謝るからそれはやめろ!」


 やっと開放された草鹿はコメカミを擦りながら人心地ついたと思ったら、今度は大女が草鹿を抱っこの体勢から放さない。


「ああ、すまないがひろみと言ったかな? 身体を放してくれないか? ログアウトしたいのだが」


「あなた達特殊なロケーションテストの人達でしょ?」


 草鹿の目付きが険しくなる。


「ははぁん、やっぱりね、このVRゲームの対象年齢は一五歳以上なのに、あなた達はどう見ても一〇歳前後よね? 体格判定で絶対に一五歳以上は使用できない幼女アバターを使うあなた達は、メーカーが対象年齢を引き下げる為のロケーションテストだったのね! いやああん! 興奮するう! 特殊テストだから周りに悟られない様に変な言葉使いだったんでしょ? わかる! わかるわあ!」


「お、おう……」


「何か不便とか無い? お姉さんが手伝ってあげちゃうわよ? さあさあさあああ!」


 自分の世界にのめり込んだひろみは、周りが見えなくなる悪い癖があり、周囲から良く注意されているのだが、改善される事はなかったと言うのが彼女の武勇伝の一つである。


「おちつけ、ひろみ。あー、えーとそうだな、じゃあ我らは初期装備の防御力の低いこの服しかもっていないのだ。この現状を打破したいのだが何か伝手は持っていないか?」


「お洋服! そうね! そんなペラペラのワンピースじゃあ可愛そうね、私が作ってあげるわよ!」


 目の前の巨大な女がどんと胸を叩く。


「ひろみがか?」


「これでも私は生産職なのよ? 大抵の洋服や防具は作れるわよ!」


「うむ。それでは迷彩服と半長靴の作成をお願いしたいのだが、出来れば六人分」


 ひろみはきょとんと目を丸くして考えこむ。


「はんちょうかって何?」


「ああ、皮のブーツだ」


「なるほど! おっけーおっけー! まかせておいてよ! 明日もまたログインして来る? あ、それよりも名前、お名前聞いて良い?」


「お、おう、草鹿だ」


「くさかちゃんね? 明日ね? きっとよ!」


 ひろみは大声で念を押しバタバタと走り去り、それを確認した後に草鹿はログアウトする。


 その日草鹿は小隊会議室でゲーム内で福田三尉が懸念していた事項と、現地の民間人協力者ひろみの事案を報告しブリーフィングをする。


「まあ、いたいけな娘を騙すようで悪い気もするが、せいぜい利用させてもらおうか」


 一人悪い笑顔でほくそ笑む草鹿であった。


 翌日になりバイタルチェックも完了した草鹿班六人は、課業時間開始と共にゲームにログインすると目の前には興奮した様子のひろみが一人で立っている。


「くさかちゃあああん!」


 ばたばたと手を振るひろみの迫力に若干引き気味ながらも、草鹿は挨拶を返す。


「きゃああああ、六人も揃うと可愛いわねええ」


 自衛隊特殊作戦群の猛者達を目の前に、ひろみはクネクネと身体をよじりながら赤面する。


「知らぬが花か……」


「何か言った?」


「いや、それよりも昨日頼んでおいた案件だが」


 にやりと笑うひろみは草鹿から始め全員にアイテムトレードの為に握手を始める。


 ゲーム内のアイテムトレードでは握手をした状態で、トレード申し込みと了承のサインマークが視界に表示されて、それを操作する事によりトレードが完了する。


「会心の出来よ! アーマークラス九の洋服なんてなかなか無いんだから、感謝してよね?」


 草鹿はアイテム欄に表示された「迷彩服」のアイコンをクリックして装備する。


 ピカリと光るフラッシュ光の後に、自動的に着替えられていた洋服は紛れも無く迷彩服であった。


「ほほう、ウッドランド迷彩か懐かしいな、ピクセル迷彩よりもこっちの方が俺は好きだなって、なんでワンピースなんだ?! スカートに森林戦用の迷彩を施してどこに行くんだ!」


「いやああああん、かわいいいいいいい!」


 一人悶えるひろみには草鹿の抗議などは聞こえていなかった。


「班長、確かにアーマークラス九の装備はゲーム内では、トップクラスの出来かと思われます」


「ぐぬぬぬ……」


「後ついでに渡した「頭部防護アイテム」ってのも試してみてね、くさかちゃん」


 言われるままにアイテムをクリックした草鹿の頭には、ピョコリと立ち上がるように猫耳カチューシャが鎮座していた。ちなみにアーマークラス六の代物だ。


「班長……アーマークラス六は……」


「わかっている!」


 VRゲーム二日目、特殊作戦群VR小隊草鹿班の統一装備は迷彩ワンピース、皮のブーツ、猫耳カチューシャにグレードアップを果たした。


「これだから民間は嫌なんだあああああああ!」

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