一斉掃射
今日ドリーム小説大賞で12位まで上がったので、調子に乗って書きました。
褒められて乗せられるタイプです。
「なんでかな! なんでかな! どうしてお姉さんを事ある毎に巻こうとするのかな? くさかちゃんはお姉さんの愛を試しているのかな?」
「どうしてこの入り組んだ迷路の中で、お前は俺達をピンポイントで見つける事が出来るのだ?」
先導するひろみを何度も先に行かせて、違うルートを選択している草鹿達だがすぐに追い付かれてしまうので、苛立ちを隠せずに草鹿は大きな溜息を吐く。
「愛かな? こっちにくさかちゃん達の気配があるよーって、ゴーストが囁くの」
「健康診断は受けておいた方が良いぞ、VR受信機の不具合だきっと」
ダンジョンの中でもモンスターがポップする区域へ侵入する前に、草鹿達は休憩を兼ねた装備の最終点検をする。
ゲーム内における怪我の治療に使うポーションや、武器装備品の点検を行う為に、草鹿はドカリとその場で胡座をかいて座り込む。
「くさかちゃん! パンツ見えてるでしょ! キチンと横座りして!」
躾に厳しい母親の様な口調で、草鹿を叱り付けるひろみに抗議の視線を送る一同。
実はひろみの厳しいパンチラ指摘が、知らず知らずのうちに草鹿達に浸透してしまい。VR外の駐屯地の休憩室にて、草鹿班一同が横座りで休憩を取り始めると言う事案が発生したばかりであった。
「パンチラなど、どうでも良い! そんな事よりスカートが問題なのだ! 早急にズボンを要求する!」
迷彩のワンピースのスカート部分を両手で叩き、大声で叫ぶ草鹿にも無料で装備品を頂いた負い目はあるが、言い分もある。
駐屯地内であらぬ疑いをかけられたせいで、余計な心労を抱え込んだ草鹿は少し情緒不安定になっている。
駐屯地内でその手の噂が立つ事は、男だらけの生活空間では致命的なダメージを負ってしまうので、自衛官は女性に対して積極的になりやすい。
女性に対して積極的になると言う事は、自分を防衛する事と同義であるとも言えるのだ。
「もー、くさかちゃんはオシャレさんなんだからぁ、いくつかデザインは考えてあるからお姉さんに任せなさいって」
「貴様のデザインセンスが一番信用ならん」
ぎゃあぎゃあと言い合いをしている二人の声を遮り、一際大きい誰何の声が響き渡る。
「誰か?!」
班員の一人が発した声を起動スイッチにして幼女達に緊張が走り、一斉に迎撃フォーメーションを組む。
「敵性モブか?」
「わかりません、PKの疑いもあります。人型の影を視認しました後方です」
「PKか」
草鹿はニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、サンマ型のナイフを握り締める。
「死なない程度に痛めつけて、ポーションをガブ飲みさせて、また痛め付けてやるか」
「班長、自重して下さい」
つい最近PK絡みの火消しに走り回ったばかりの副官が咎める。
「負けない! PKなんかに負けない!」
ひろみも腰の剣を抜いて構える。
「真っ先に殺られるんだから、ひろみは帰っていいぞ」
草鹿の素っ気ないあしらいにも負けずに、ジリジリと前方へと間合いを詰めて行く。
「ふんぬらああああ!」
ひろみは乙女が出しては行けない類の気合を発しながら、剣をメチャクチャに振り回して、前方へ駆けて行くのを確認した後に、草鹿達はひろみを放置したままダンジョンを先に進む。
「良いんですか? 班長」
「構わん、どうせひろみが近くにいると緩い対応しか出来ん」
まばらに現れる豚の頭を持つオークと呼ばれるモンスターを、次々に討伐しながら前に進む一行は「ボス部屋」と呼ばれる場所に通じる扉の前で小休止をする事になる。
「このボス部屋に居るモンスターを討伐する事によって、初心者区域から脱する条件を得られる事となり、目的達成へまた一歩近づく事となる。各自気を引き締めて事に取り掛かるように!」
「了解!」
幼女部隊が気合の入った答えを返すと共に、背後から足音が聞こえて来る。
「総員構え! 撃て!」
「了解」
消音器を差し込まれたMP7が一斉に火を噴き、足音の主へと銃弾が襲い掛かる。
一般人にはちくわを咥えた猫が「ゴロゴロ」と喉を鳴らしているだけに見えるが、かなり凶悪な武器である。
「ぎゃあああああ! くさかちゃん! どういう事かな? どういう事かな!」
MP7の一斉掃射の中で踊る様に手足をバタつかせながら、ひろみが抗議する。
「撃ち方止め!」
草鹿の号令により一斉掃射が止み、静けさの戻ったダンジョンの中でひろみは無傷であるが、草鹿のアバターの頬を引っ張りながら抗議している。
「くさかちゃん、途中から笑ってたよね? 笑ってたよね?!」
涙目で抗議するひろみから目を逸らし無言を貫く。
「不用意にふぃかずくのがふぁるひ」
「きいいい!」
あっさりと自己の正当性を説く草鹿を睨み付け、ひろみは草鹿のアバターを目の前にまで抱え上げて、抱き締める。
「でも好き」
「病院に行け」