ロボット戦争
防衛省発令
兼ねて北部方面隊第二師団第三電子隊VR特務小隊長を命ずる
(特殊作戦郡二課) 二等陸尉 草鹿 仁一
四月 十八日
「草鹿二尉入ります」
陸上自衛隊第二師団第二五普通科連隊遠軽駐屯地の中でも比較的新しい隊舎である西隊舎の一角で、ノックの音と共に筋骨隆々とした男がドアを開き入り口をくぐる。
「人事発令により本日より第三電子隊に配属になる草鹿二尉です」
草鹿は目の前の駐屯地司令に脱帽時の敬礼をする。
「おう、良く来たな」
駐屯地司令は人懐っこい笑顔を浮かべ、気をつけのお手本の様な姿勢を崩さない草鹿に対して手招きをする。
「まあいきなりの電子隊への移動で動揺はしているだろうとは思う。これは極秘オペレーションなんでな必ず口頭での内容説明をと命令書が来ていてな」
駐屯地司令からもたらされた今回の移動人事の内容は驚愕の物だった。
1、遠隔操作型決戦兵器導入に対する操作訓練を、新設された第三電子隊で秘密裏に行う事。
2、遠隔操作型決戦兵器は民間開発されているVR技術を出力させて行うものとする。
3、民間で運営されているVRゲーム内で小隊単位での教育過程を終わらせる事とする。
「まあ、世の中変わっていくもんだねえ、やってる事は何百年も前から変わらないのに言い訳だけがどんどん進化して行く。たまらないね」
駐屯地司令が傍らに置いてある身長一メートル程の人型ロボットの頭を、ぺちぺちと叩き溜息を一つ吐いた。
「この可愛らしいロボットの目が君の目となり、鼻が君の鼻となり、耳が君の耳となる。その為の訓練を行ってもらいたい、民間に下げ払った筈の拙い技術が見事に昇華して、実務に耐えうるかも知れないと雲の上の方々が期待しているんでね、僕は気が進まないけど特戦のエースである君を引っ張りだして来た所を見ると本気なんだろうねえ、後は民間から派遣されて来た技術官に話を聞いてよ、適正のある特戦隊員が後日赴任してくるからそれまでに作戦内容を掌握しておいてね、以上」
「了解しました。草鹿二尉はこれより第三電子隊VR特務小隊長の任をお受けします」
駐屯地司令は疲れた笑みを浮かべながら、草鹿の肩を軽く叩き第三電子隊の部屋を出て行く。
草鹿は入れ替わりに入室して来た民間の技官達と挨拶をかわし、小隊長として作戦の内容の把握に務めた。
作戦内容としてはVR技術を駆使して人型ロボットを動かすので、先ずは民間で運営しているVRゲームで特務作戦郡として恥ずかしくない働きを見せよとの事だ。
ただ一つだけ実戦と違うのは、人型のロボットを意のままに動かすには自分の体格とロボットの体格のズレ、ロボットの性能と自分の性能とのズレがVR酔と言う副産物を生じさせるので、ゲームの中では常に身長一メートル程のキャラクターに扮し、視線や間合いの感覚や力の配分を調整しなければ満足にロボットを操る事が出来ないのだ。
ゲームの中ではVR酔を回避する為に、自分のアバターの体格を極端に変更する事は出来ない仕様になっているのだが、民間企業の軍事協力の枠組みの中でVR小隊名義のアカウントのみは、アバターの体格はすべて人型ロボットの実寸規格に合わせて調整を済ませてあると報告が上がっている。
「ただ……アバターの見た目が少し特殊でして……」
派遣されて来ている技官が言い難そうに顔をしかめる。
「見た目か? 実戦では見た目は関係ないからな、所詮はゲームの中での事だ。どんな見た目でもかまわん」
草鹿は些かムッとした表情で技官を睨みつける。
「あ、いえそれならばいいんですが……」
「それよりも実戦で使用する武器の携行はどうなっている?」
「はい、重さや長さをそのままで見た目だけ変更して、レアアイテムとして来週の課金ガチャとして潜り込ませてありますので、電子隊アカウントでガチャを回して貰えれば自動的にレアアイテムが手に入ります」
「身長一メートルの体格で八九式小銃を扱う訓練か……思ったよりハードになるかもしれないな……」
「膂力なども徐々にですがLVを上げる毎に上がっていきますので、問題は無いと思います」
「ゲームの中で実戦と同じ動きが出来れば、あのロボットも実戦で使えると言う認識でいいのだな?」
「人型決戦兵器船坂一号の事ですか? そうですねいきなり今からあの体格で行動をしろと言われても子供ならまだしも、身長二メートルの大男が操るのは無理がありますね」
技官の歯に衣着せぬ言葉に草鹿の目つきは一瞬きつくなるが、技官は何処吹く風で説明を続ける。
草鹿は胸の中で「これだから民間は……」とひとりごちる。
明日からは小隊が編成されてVRゲーム内の基礎知識の座学が始まる予定だ。
草鹿はまだ誰も経験した事の無い未知の作戦に一人心を踊らせていた。
この時までは……
ちょっとだけ書いてみますね