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中編




ーメイリーシュ屋敷の食卓




十人程囲めそうなテーブルのある食卓には2人の使用人がいる。いかにも執事なお年寄りと、見習い卒業な感じの女の人だ。


俺とテリトルが隣り合って座るなり即座に料理を並べるものだから、テリトルは今日は本当に忙しいんだなと思った。

いつもはテリトルがイスに座ってから料理を作り始めるんだもの。


「それじゃあレイ、いただこうか」


「う、うん」


テリトルは慣れた手つきでお上品に食べ始めるが、俺はそうもいかない。

別に料理がヤバいブツという訳じゃない。料理人じゃないから材料は判定できないけど、臭いも味も見た目もとても良い。さらわれて始めての食事の時にポロポロこぼすから部屋も明るくしてもらったおかげて食べやすくもなった。


じゃあ何がいけないのかというと……


「……んっ」


なんか俺の座ってるイスが変なんだ。

座るまでは暗くされてたから気付かなかったんだけど……このイスなんか触手みたいなので出来てる……。

ウネウネまとわりつくし身体のあちこちを好き勝手に撫で回してくるから調子がおかしくなる。


「んーっ! んーっ!」


更に腰と脚がちゃっかり拘束されていて抜け出すことも出来ない。


「……テリー、助けて」


「何を言っているんだい? それは僕に言われなくても僕の横の席に座ってくれたレイへのご褒美だよ」


……こ、これは駄目なやつだ。どうしようもない。

こうなったらさっさと食べてテリトルが解いてくれるまで耐えないと。


「ぁーむ……ひゃっ!?」


この触手イス……! 人の動きに合わせて絶妙な動きをする……!

でも負けないっ。今は攻めて攻めて、守りに徹すれば良いだけだ。


「……って!? にゃ、なんてところに……やぅっ!?」


とうとうスカートから侵入してきた。この幼い身体は敏感だからちょっとマズい。


「レイ、静かに食べなさい」


「しょ、しょんなムチャな……みゅいっ……」


ダメだダメだ! ここで弱音を吐いて動きを止めちゃ!


「あっひぅ……んぁっ……んんにぃっ」


なんだか完食が遠く感じる……。

いや、よく考えたら無理して食べることは……駄目だ、体力を付けずに次に襲われたら多分死ぬ。もしくはイヤなものを飲まされる。頑張れ俺!


「……っ……くぅっ……」


堪えモードに入ったが……何かいい方法は……。……そうだ! 俺が今右手に持っている物……そう、フォークだ。

こいつを突きつけてやれっ!


「えいっ」


プスッ……ぐちゃあ……


ちょっとイヤな音がして触手の一部は動きを止めた。

まだ拘束はされているが、さっきよりはだいぶマシになった。これならいける。


……しかし、フォークに着いたこの触手の体液はどうしよう……ん? なんだこの良い匂いは?


「レイ、一応言っておくよ。その触手の体液は舐めない方がいいよ」


体液? あぁ、この良い匂いはフォークと触手から出てるのか。


「……ごくり」


唾液が沢山出てきた。多分この体液が美味しいものだと察知したんだろう。

思うが早いか、俺はフォークに着いた触手の体液に舌を伸ばした。


「……お、美味しい……!」


一舐めで味の虜になった俺は、夢中でフォークをチロチロ舐めた。


舌に感じる味は徐々に鉄に変わり、虚しさと更なる欲求が俺を襲った。


「も、もっと……!」


欲しい、欲しい。でも俺の欲するものを持つのは、今俺にまとわりついている生きた触手だけ。

流石にそれは……という抑制を抑えきれず、俺はナイフで触手を切り取ってすぐに口に放り込んだ


「~~~~っ♪」


言葉に出来ない幸せが俺の口の中に広がった。

肉質な触手の食感自体良いものだが、やっぱり溢れる体液が俺を一番おかしくした。


「はぁ~っ♪ こ、こんなのっ……初めてっ……」


俺を拘束し、俺にまとわりつくこのウネウネしたもの全てが絶品だと思うと俺の頭はいよいよ大変なことになった。


「んっ! ああっ!? な、なにこれぇ……っ!」


それだけじゃない。

さっきまでは気付かなかったが、身体中がぞわぞわして変にさせる感覚が強く鋭くなっていた。もう気合いで我慢できる領域ではない。


そこでようやく俺は気付いた。

やってしまったと……。


「て、テリぃ……んっ……」


こうなる事を見越していたであろうテリトルを睨む。全然できてないだろうけど精一杯睨む。


「僕は忠告した筈だよ。助けてほしい?」


俺はコクコクと頷いた。もうこのアブナイ罠を自力で抜け出す気力は俺には残っていなかった。

ここ最近の負け癖というか……何に負けたのって話だけど……いわゆる無力感が凄すぎて俺はすっかり弱々しくなってしまった。

だから嫌な奴にでも頼ってしまう。情けない話だ。


「貸し1つだからね」


そう言ってテリトルが俺に近づくと、触手は俺を差し出すように拘束を解いた。


「ふにゃっ……!? な、何……?」


テリトルが俺をお姫様抱っこしようと俺に触れた瞬間、その触れた箇所から全身にピリピリッと何か走って変な声が出た。


「君がとても美味しそうに摂取したその触手の体液のせいさ。僕ら魔族は問題ないけど人間がひと口でも摂取すると……まぁ大変な事になるのは身をもって味わってるからわかるよね」


「…………」


何も言えなくなっている俺をテリトルはそのままお姫様抱っこして歩きだした。


「お腹はちゃんと満たせたかい?」


俺は首を横に振った。

色々気を取られて満足に食事できなかった。そりゃお腹も膨れないよ。


「僕はこれから出かける予定なんだが、レイを連れて行くことはできない。満足に食べさせてやれなかってお詫びに君の部屋に食事を持って行かせよう。リクエストはあるかい?」


その言葉に俺はパッと表情を輝かせそうになり、慌てて抑え込んだ。

何か企んでるに違いないと睨んだからだ。


「おっと、その表情の変化は疑ってるね? 大丈夫、何も仕組まないよ。第一僕はこれから出掛けなきゃいけないのに仕組んでどうする?」


テリトルの仰ることはごもっともだった。

正直、食べ物を用意してくれるのは凄く嬉しかったのでテリトルの言うとおり何かリクエストすることにした。


「甘いの」


「甘味か。ふふっ、可愛いね。アピールかい?」


「違うよ」


ジュワジュワおジューシーな肉も食べたいには食べたいが、そこまでガツガツ食べられる余裕は無いかもしれないから、食べきれると自信を持って言えるスイーツ的なものを要望した。

別に可愛いアピールでもなんでもない。


……というかスープ系の何かでも良かったかな。

パンを漬けてふやけさせてそれを……うーん失敗したかも。あっ、でも甘いのも普通に食べたいし……ってそんな想像してたらお腹の要求が加速したじゃないか。おのれテリトル。


「知ってるさ。レイは自然とそういう事が言える魔性だもんね」


「ましょー?」


「いや、気にしないでくれ。そのままのレイでいてくれればいい」


「え? うん」


そんな話をしている内に俺の部屋へ着き、テリトルは俺をベッドへ降ろした。


「レイ、料理が届くまではおとなしくしてるんだよ。一緒に即効性の鎮静剤を持ってこさせるからそれを飲むように」


「あい」


……なんだかテリトルがおかしいな。

なんというか……いつものいけ好かない優しい振りした鬼畜魔王なかんじがしない。どちらかと言うと保護者的な……ペットに言いつける飼い主的な……。


「それと、火照りが収まったら屋敷内を自由に歩くことを許可しよう。いつまでもここに閉じこめていてはよくないからね」


「……あ」


言うが早いか、テリトルはスッと部屋を出ていった。

俺はベッドに座ったまま何も言えずにただテリトルの背中を見送った。


「…………」


たちまち静寂が訪れる。

危険物の無い安堵の静寂。


この前までならこの静寂がなによりも幸せだったが……今日は妙な違和感を感じていた。


「変なの」


多分触手の体液のせいで身体がムズムズして寂しいからだと思うんだけど……それってつまり襲って欲しかったってことに……


「ないないない……! ありえない……!」


シーツをギュッと握って声を上げようとするも、出たのは震えたちょっと艶めかしい声だった。


そう言えば俺、ここ最近ですっかりビビりになっちゃって声まで小さくなってるな……。


「あー、あ~、ぁぁ……」


鈴のような声が小さく響くけど……。驚くくらいに肺活量が無いね……。


ちょっと横になろう。

はぁ、よく聞くと我ながら弱そうというか、さらわれても仕方ないくらい良い声だった……。

衣食住には困らない分、俺をさらったのがテリトルである意味良かったのかもしれない……。

って、何バカな事を考えているんだ俺は!




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