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好き

またのこのこと恋愛小説を書いてきました。全部で三、四話くらいだと思います。是非感想をください。

 今日の魔王城は何やら緊迫した様子だった。慌ただしく動き回る家来を、俺は王座に頬杖を突きながら眺める。窓から見える外では、紫色の空が時折閃光を放ち、轟音を轟かせていた。大粒の雨が忙しなく窓を叩いている。

 俺は魔王。最強最悪の魔族、全知全能の存在、無慈悲な死神。人々に付けられた二つ名――今の時点で二つ名ではないが――は、どれもこれもありふれ、それでいて全て当てはまっていた。そう、この世に生を受けた時から、俺は全てを持っていた。強大な魔力も、強靭な肉体も、そして圧倒的な才能も。誰も俺に仇をなそうとする奴はいなかったし、いたら叩きのめすだけ。何の問題もない。

 しかし、今日は例外であった。

 人間界のある大国が、勇者を送り出したのである。この魔王城に向けて。何も悪いことはしてない。勝手にあいつらが俺達を諸悪の権化だと言い放ち、宣戦布告してきたのである。まあ、両者の意見が違うのは当たり前だ。人は一人一人感じ方が違う。俺が何気なくやったことが、人間にとっては許せないことだったりするのだ。

 まあそれならそれで、普通に叩きのめしてやればいいだけのこと。人間なんぞ魔族にとっては赤子同然。適当にぶっ潰して、二度と歯向かわないようにすればいい。そう思っていたのだが……。

「魔王様! 勇者がもうすぐそこまで来ています!」

「え、もうゾルデの奴やられちゃったの?」

「……申し訳ございません」

「いやぁ、いいんだよ。別にダンが謝ることじゃない。予想以上にその勇者君が強かったんだろ」

「はい、あれはもはや、人間では御座いません。魔族とも、エルフとも違う、戦うためだけに生まれた鬼神のような……」

「能書きはいいよ。それより、もう通しちゃって。これ以上お前たちが戦っても時間稼ぎにもならない。徒に兵を減らすだけだし」

 魔王軍ってのはここまで腑抜けだったか……いや、相手が悪すぎるんだな。分かる。俺はもうすぐ死ぬ。ここで、勇者に斬られて。何故かはわからないが、魔王としての直感がそう告げている。勇者ってのは、俺を倒すために生まれたようなものなんだろう。それが宿命だと言うのなら、俺は受け入れる。現世に未練がないかと言ったら、それはもう人一倍あるだろう。人生の伴侶もおらず、魔王領の民たちをこのままにしておきたくない。でも、もう無理なんだろうな。せめて、俺が死んだあと、皆に苦しい思いをしないように、勇者に頼み込んでおこう。

 目の前のばかでかい扉の奥から、数人の足音が聞こえてくる。いよいよか……せめて、魔王っぽく迎えてやるとするか。

 扉が重苦しい音を立てながら、ゆっくりと開いて行く。

「フハハハハ! 良く来たな愚かなる人間どもよ」

「お前が魔王だな!」

「ふふ、その通り。我が名は魔王ゲーデバルト、いざ尋常……に…………え?」

 そこに居たのは、黒曜石のように澄んだ黒髪を背中まで垂らし、体のラインが浮き出るような銀白の鎧に身を包んだ、一人のうら若き乙女だった。

「どうした、何を止まっている?」

 え、これが勇者? その手に握られているのは正しく聖剣だ。じゃあ、本物……。

 俺が固まっていると、後ろの仲間が騒ぎ出す

「シルヴィア、何かの作戦かもしれません。気を抜かないように」

「おいお前! 何を企んでやがる!」

「……殺す……です」

 神官の服を着たすかした男と、ドラゴンの鱗で出来た鎧を着てる赤髪の頭の悪そうな男と、とんがり帽子とローブを着たロリチビが喚き立てるが、今の俺はすでに勇者の彼女しか見えていなかった。

「か、可愛い……」

「は?」

 可愛い。うそだろ、こんなに可愛い生き物を俺は見たことがない。黒真珠のような潤んだ瞳が、鎧の隙間から見える純白の肌が、そして何人も近づかせぬその雰囲気が、彼女の全てが愛らしかった。この気持ち、体の奥底にある何かを鷲掴みにされたかのような、甘くて熱い何かが込み上げてくるようなこの気持ちは、一体何なんだろうか。生まれてこの方、感じたことがない感情に、俺は大きく動揺していた。

「何を言っている、お前?」 

 勇者が訝しげにそう言う。眉間に皺を寄せたその表情もまた、綺麗だ。

「…………やっぱりやめた」

「何がだ!」

 どうせここで勇者に殺されるって割り切ってたけど、やっぱやめた。彼女に殺されるのはいいけど、彼女をもう見ることができないというのは、いやだ。

「全力で行くぞ! 覚悟しろ、勇者よ!」

「っ! 望むところだ! ヴァンは右側から攻めろ! 二人は援護を頼む!」

「おっしゃ!」

「分かりました」

「……了解。『アクセル』」

 勇者と戦士が両側から斬りかかってくる。ロリチビの魔法のせいか、二人のスピードは、この俺でもギリギリ視認できるというほどの速さだった。

 と言っても、避けられないような斬撃ではない。

「なっ!?」

「くそっ!」

「なんだそのハエが止まったような剣は」

 確かに速さなら俺に追い付くことができるだろう。しかし、俺は『先見眼』という魔眼を持っている。この魔眼を使えば、数秒後の“事実”を見ることができる。未来が分かっているのなら、避けるのなんて簡単だ。

 俺は避けながら赤髪の戦士に蹴りを入れ、向こう側の壁にめり込ませた。彼の着ている鎧なら、死にはしないだろう。それどころか、神官の魔法ですぐ回復しそうだ。……結構本気で蹴ったんだが、流石にしぶといな。

「よくもヴァンを!」

「っ!」

 勇者が激昂し、俺に向かって鋭く剣を振り下ろしてくる。その剣には、邪を断つと言われている聖気が宿っており、いくら俺でも大けがは免れない。

 俺は勇者の攻撃を避けながら、彼女の必死な顔を眺めていた。可愛いなぁ、このまま紙一重で避け続けたら泣くかな、この子。見てみたい気もするし、申し訳ない気もする。

 そんなことをしていたら、不意に勇者が離れ、少女の詠唱が聞こえた。

「『フォトン・バースト』……!」

「っおっとぉ!」

 ロリチビから放たれた光の光線は、舐めるように床を這い、ボロボロに破壊していった。修理すんの大変なんだぞ?

 ちょっとカチンと来たので、ロリチビへと距離を詰め、持っていた長いロッドを叩きおり、先端の大きな魔石を砕く。これで魔法の威力は軽減されるだろう。ついでに襟首を掴んで明後日の方向へ投げ飛ばしておく。

「カミーユ!」

 さて次は、ヒーラーを潰しておいた方がいいな。身体を魔力で強化し、神官に向かって走る。

 しかし、神官の反応は速かった。即座に魔法を展開し、強固な守護結界を作り出したのである。

「こんなものすぐに破壊できるわ!」

「ヒーラーだからって、攻撃手段を持ってないとでも? 『エクレール』!」

「なっ、ぐぁああ!」

 唐突に結界から放たれた電撃が、俺の体を貫き、全身に激痛が走り渡る。やはり魔王である俺を殺すために集められた勇者パーティ、本気を出しても命の保証はない。だが、彼女を、勇者を手に入れるまで、諦めるつもりはない!

「あああああああっ!!! 『ブレイズ・インパクト』!」

 白い閃光と共に、耳を劈く轟音が響きわたり、魔王城の一角が吹き飛んだ。俺が最も得意とする上級魔法だ。あーあ、城の修理費どのくらいになるんだろう……。

 瓦礫の山の中から、黒髪の少女の手が這い出てきた。

「くっ……み、皆は……」

 俺は勇者に近づき、髪を掴んで持ち上げる。彼女の顔は苦痛に歪んでいた。

「お前の仲間は死んだ。いや、死んでいなくとも、あと少しの命だろう。我が軍が駆け付け、お前達の息の根を止めに来る」

「何ぃっ!」

「もう終りなんだよっ!」

「ぐは!」

 俺は口元の笑みを浮かべ、勇者を地面に叩きつけた。仰向けにさせ、胸を踏みつける。

「お前達人間のしたことは許される事じゃない。魔族の王に剣を向けたんだからな」

「お、お前らのせいで、どれだけの人が苦しめられたと思ってる!」

「さあ、知らないな」

「ガルードの村で、罪のない人々を虐殺したことを、忘れたとは言わせんぞ!」

 ガルード……? ああ、魔王領と人間界の境にある村だ。確か、三年前に魔物の大量発生によって壊滅的な打撃を受けた。魔物とは、魔素の多い魔王領で発生することが多い。恐らく、それが魔族の、俺の仕業だと思われたらしい。いや、あながち間違ってはいないか。俺の器から出る魔力によって、この魔王領の魔素が過密になっているからな。

「ふんっ、それがどうした? あれはあいつらの自分の身も守れないくせに、危機管理能力が低いせいだろう。それにあんな小さな村、お前らからしたら、あっても無くても関係のない村じゃないのか?」

 俺がそう言うと、彼女の顔が憤怒の形相に変わった。

「あの村はっ……あの村は、私の故郷だ!」

 え、うそ、マジで? 

「お前らのせいで、お母さんは、お父さんは……う、うう」

 ……やばい、泣きだした。どうしようどうしよう、泣かせちゃった。どうしたらいいのか分からない。おいおい何が全知全能だ、女の子の扱い方も分からないじゃないか! 謝るか? いや、それじゃあ魔王としての威厳が地に落ちる。何だこのすさまじき罪悪感は……!

「っ……ふはは、泣いているのか、愚かな勇者よ」

「お前に何が分かる!」

「分からんな。どうせお前達の負けは覆らんのだ。ダン!」

「はい魔王様」

 背の小さい俺の執事が、音もなく現れる。俺でもいつもどこに居るのかわからない。

「こいつの仲間はどうした?」

「はっ、全員捕えました」

「そうか、ご苦労だったな」

 振り向くと、そこには十字架に張り付けられた勇者パーティの姿があった。哀れだな、今まで積み上げてきた物が、こうもあっさりと幕を下ろすとは。

「皆!」

「ふふ、よく見るがいい。これが勇者、お前の仲間の最期だ」

 俺はもう一度勇者を持ち上げ、仲間に突きつける。

「うぅ、こ、ここは……シルヴィア!?」

「ヴァン!」

「お目覚めかい? 勇敢な戦士君」

 赤い髪の戦士は、自分の置かれている状況を把握したらしく、額に冷や汗を浮かべて抵抗しだした。

「シルヴィアを放せ!」

「ああ、いいよ」

 俺が手を放すと、勇者は力なく地面に崩れ落ちる。

「シルヴィア!」

「くっくっく、他の奴らも起こせ」

 兵士は他の二人に水を浴びせ駆け、強制的に覚醒させた。二人は即座に魔法を使おうとするが、十字架に施してあるアンチマジックに気が付いたらしく、早々に諦めた。

「勇者よ、よく見ておくがいい、仲間が死にゆくのをな。『スタン』!」

「ぐああ!」

「う、ぐぅ!」

「キャアァア!」

「皆! やめろぉ!」

 もがき苦しむ仲間たちに、勇者が立ち上がろうとするが、すかさず彼女の背中を踏みつけて動きを封じる。勇者はやっぱり甲冑よりドレスが似合うと思うんだけどなぁ、何で男みたいな鎧を着ているんだか。

「わ、私はどうなってもいい! 皆に手を出さないでくれ!」

「ほう?」

 待ってました! これで俺が交換条件として彼女の身柄を出せば……。

「駄目だシルヴィア!」

「やめなさい! そんなこと!」

「絶対、ダメ……」

 ちっ、まだそんなこと言える体力があったのか。

「勇者よ、そこまで言うのならお前の願いを聞き届けてやらないこともない。しかし、条件がある。取引をしようか」

「取引……?」

「何考えてやがる魔王! シルヴィア、俺達のことは構うんじゃない!」

「そうです! 何をされるか分からないんです。私達は大丈夫ですから――」

「――自分達の立場を分かっていないようだな、勇敢で愚かな人間諸君。お前達を生かすも殺すも、すでに我の匙加減なのだ」

「っ……!」

 俺は勇者に向きなおった。

「勇者よ、言ったとおりお前の仲間を解放してやってもいい。条件を呑んでくれたらな」

「分かった。条件は何だ」

「それは、お前自身だ」

 ………………あれ、何この空気。変なこと言ったのかな。勇者も、その仲間も、ダンや魔王軍でさえ、唖然として俺を見つめていた。何だよ。だって仕方ないじゃん、好きになっちゃったんだからっ!

「……駄目だ。駄目だシルヴィア!」

「戦士、お前には聞いていない。勇者に聞いているのだ。どうする、ここで仲間を見殺しにするか、我の物になるかだ」

 勇者はまたも泣きそうな顔になった。その眼は恐怖に歪み、敵意に満ち、そして決意を宿していた。恐らく、もうすでに答えは決まっているのだろう。

「……わ、分った。私は、お前の物になろう」

 俺は不敵に笑みを浮かべながら、心の中で盛大にガッツポーズをかましてやった。



ちょっと主人公が酷いですね。僕は嫌いです(笑)

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