志乃の話
いつ見ても隙だらけの男。
殺すなら殺せばいいと誘っているのか開き直っているのか、よく分からない。
有耶無耶で曖昧で、理解できない。
それが私の主だ。
主とは名ばかりで代々仕えてきた、忠誠深い忍びの一族…
という訳ではない。
私の里は、この男の一族によって殲滅された。
いわば一族の仇の存在。
しかし私はこの男に自ら従った。
弱みを握られているわけでも、心奪われたわけでもない。
この男に忠誠を誓うことが自分の一族にとっての背徳行為だということも承知の上で。
「私の寝首でも掻けばいいものを。つまらぬ奴だ」
なぜならこの男は、私に殺されるために、私を控えさせているから。
清光は周りの反対を押し切って、男以外の忍びを生かした。たった一人和平に乗り出して……血を流すことなく、全員を城下町に住まわせた。
表向きは和平を結んで不可侵の協定を交わしたとなっているが、実際は違う。
清光は老長にこう申し出たのだ。
『お前達に期待するのは、私達を始末することだ』
質の悪い政治をして世にはばかる悪将軍が出たのなら、一族総出で殺しに来ればいい。
それまでは自由で豊かな城下町に住めばいい。
――だから、私は絶対に殺さない。
他の誰にも殺させない。
弱音を吐いて泣き喚いても、最期まで生かす。
これが私の優しい復讐なのだ。
「つまらぬ奴だが、恐ろしい奴だ」