辰三の話
血の匂いしか、しない世界。
辰三にとって生きるためには仕事と金が必要だった。
自分に辰三という名前以外、何も残してくれなかった両親。彼は彼が生きて自分の名前を守り通すことが、両親への恩返しだと信じるしかなかった。
どうして両親が殺されたのか分からない。
悪い事をしたのか、
いわれもない殺人だったのか、
何も分からないまま、逃げるしかなかった。
自分がどこの生まれだったのかも分からない。
気がついたら刀を持つ仕事をしている。
おそらく才能でもあったのだろう。
畑仕事でもなく小間使いでもない、どうしてこんな闇の仕事をしているのか、経緯はよく覚えていない。
自分のような細腕の子供が、小振りとは言え、太刀を握る戦いの中、どうして生き延びれたのか。
よく分からない。
だからきっと、才能でもあったのだ。
そうとしか思えない。
なぜなら、自分は人を斬ることが嫌いだからだ。
できることなら畑仕事を小間使いをしたい。
このまま人を斬る仕事をしていれば、自分のような子供がどんどん増えてしまうかもしれない。
そういう子どもを自分の手で生み出していると実感しながら、生きている。
両親が残してくれた辰三という名前を、握りしめながら、
血に塗れて生きている。
這いあがれない空を、見上げて泣くのは、もう諦めた。