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第二話 あーこれは所謂……アレだよね。

 そう思っていた時期が俺にもありました。


 いや、実際死んだのだろうとは思うんだが、まだ俺は生きている。まぁ言葉が矛盾しているわけだが俺にもまだ良く分からない。


 とりあえず今分かる範囲で状況の整理をしたい。まず、あの事故から一か月ほどが経過していると思われる。随分曖昧な表現になってしまうことはお詫びしたいが、そうとしか言えないので仕方ない。どこかの木造の建物の中にいるのだが、如何せん時計やカレンダーの類いがないのだ。


 そして次に。周りに人はいるのだが何故か言語が理解できないし、こちらから言葉を発することもできない。更に文字も読めない。というか確実に日本語ですらない。ほんの僅かな時間しか見てないが、アルファベットでもないしハングルでもなければ漢文でもなかった。一番近い書体はアラビア系のミミズが這ったような文字なのだが、見たことがある程度でさすがに読めるわけないのでひとまず置いておこう。そもそもほんとにアラビアの文字か?


 更に自分の体がかなり縮んでいる。赤ちゃんになっているわけだ。そりゃ言葉を発せるはずもないよな。記憶も思考もはっきりしているので間違いなく福島庄太郎の精神だと思われる。退化したと言えばいいのだろうか? 鏡を見れば自分の幼い頃の写真と比べることができるのだが、鏡が見当たらないのでまたいずれ。


 で、俺が今いる場所は、ベッドの上だ。赤ちゃんだからな。部屋はだいぶ殺風景。全体的に木造で、必要最低限の家具しか置いていないと思う。装飾らしい装飾といえば、見るからに安っぽそうな花瓶らしき陶器に、どう見てもそこらの道端から摘んできたのであろう野花がちょこんと活けてある程度。時々、俺の姉だろうか? 小学生にあがるかどうかくらいの年齢の女の子が、恐らく両親であろう男女と共に花を差し替えに来る。


 ちなみに俺が顔を知っている人間はその三名だけだ。たまにそれ以外の人物の声も聞こえるが部屋に入ってきたやつはいない。


 極め付けに俺の名前であるが、どうやら福島庄太郎ではないようだ。希望的観測で言語が理解できないだの退化したのだろうかだの言ってはいたが、もうほぼ答えは出ているのだ。なにせ一か月近く悩んだ末の今なのだから。


 俺の名前はシャルという、福島庄太郎とは全くの別人であるようだ。またしても曖昧な表現なのだが、まだ言葉が理解できないのだから勘弁して欲しい。とはいえ、毎日のように俺に向かってそう呼びかけられていれば予想は出来る。何故か『シャル』という言葉だけ理解できるようになったのだ。加えて、それが俺に向けられている言葉なのだと。肉体的な知能レベルが乳幼児相当まで落ちていて、それが原因で理解できないということなのだろうか? それにしてもこうしてまともな思考が出来ているのだからそれはおかしいと思うのだが……。


 などと取り留めのないことばかりを考え続けた一か月間だった。とはいえこの体では動くこともできず。我が身に起きたことを整理し続けるくらいしかやることが無かったのもあるが。


 いろいろと思うことはある。前世――もう『福島庄太郎』は死んでいて、今は生まれ変わった『シャル』であることを前提にしてしまうことにする。流石に一か月もすれば諦めもつくと言うものだ――での俺はどうなったのかとか。百歩譲って輪廻転生があるとして、何故前世の記憶がそのままで転生してしまったのかとか。そもそもここはどこなんだとか。今は西暦何年なのかとか。


 しかしだ。なんせ今の俺はかわいい盛りの赤ん坊なわけで。自分で動いて情報収集など物理的に不可能なわけで。言語の理解も追いつかない上にベビーベッドにくぎ付けにされているのだから、考える以外には寝るくらいしか仕事がない。


 なのでここは前世で培われたふてぶてしさで、一旦思考を全て放棄して思いっきり開き直ってしまうことにする。


 どうせなにも出来ないんだからガキはガキらしく爆睡してしまえ! と。














 ご無沙汰しております。『福島庄太郎』こと『シャーロット・オルクス』です。はい、フルネームが判明いたしました。シャルというのはどうやら愛称だったようですね。シャーロットか……。前世の影響でも受けているのだろうか? 


 しょうたろう、ショータロー、ショーロート、シャーロット。


 アホか。


 あれから更に月日が経ち、俺は遂に一歳になった。随分端折った感じはあるが、特筆すべきことが無かったため十一か月間は割愛させて頂く。もちろんその間に分かったことはある。当然ここは日本でないことも既に理解した。


 まず盛大に笑い転げた、ここが前世とは違う別の世界なのだということについて話をしよう。


 あれから言語の理解が進み、家族達の会話に聞き耳を立てた。それくらいしかやることがないからね。そこで、この世界は日本でも地球でもないとこが判明する。


 手っ取り早く説明するなら、異世界転生。これに尽きる。そりゃ笑いもするさね。実際にはニコニコ笑っていて、両親からすれば可愛らしかったのだろうが。 


 この世界の名前はセルヘイムと言うようである。更に俺が住む大陸の名前はクルシアス大陸。細かく言うとクルシアス大陸のリセリア王国にあるアライア領クゼット村。大変に、覚えるのがめんどくさいと思う。どうせなんとか国のなんとか領にあるなんとか村ってのが大陸各地にごちゃごちゃしているはずだ。領……ということはそれを治める貴族様がいて、あちこちで領地争いをしていたりとかそういう『お決まり』が俺を待っているのかもしれん。だって所謂、異世界転生だし。


 まぁ、幸いにして俺の両親は貴族ではなくただの農民でしかなかったので、そういう面倒な争い事に巻き込まれる可能性は限りなく低くなった。生活面では苦労しそうだがな……。とはいえこの領地……と言えばいいのかはまだ不明だが、あまり困窮しているわけでもなく、裕福ではないが生活には困らない程度には潤った土地、という認識でよさそうだ。それでも、この世界の生活水準がどれくらいなのかは知らないが、かなり質素な生活をしているのは間違いない。


 さて、異世界転生してのお決まりといえばもちろんアレがあるはずだ。


 魔法の存在である。


 家族の会話の一端に魔法という単語を確認したので、この世界にももれなく魔法が存在することが分かった。そうと分かればすぐにでも魔法を使ってみたい衝動に駆られるのだが、如何せん俺はまだ一歳児である。


 いきなり、まだ赤ん坊である俺がファイヤーボールでもぶっ放した日にゃ……どんなことが起こるか分かったもんじゃない。天才と持て囃されるのならまだいい。ことによっては異端児だとか言われて処分されないとも限らない。


 まぁそもそもいきなりそんな派手な魔法は使えないんだけど。どうやらチート能力は得ていないようだ。但し、才能はあるらしい。


 使い方なんて分かるはずもないのだが、いろいろなアニメやゲームなどから得た知識を使っていろいろ試してみた。


 まず魔法陣を描くというものは却下された。物理的に書けないからだ。詠唱に関しても、どういう言葉を紡げばいいのか分からないのでこれも却下。というかこっちも物理的にうまく喋れないので無理。一番簡単な想像力による行使であるが、意外とこれでうまくいった。


 といっても、当然攻撃の類いになりそうな魔法は避けた。とりあえず極弱い威力の風を発生させて、花瓶に活けられている花を揺らしてみただけだ。窓も閉めきってあるので、自然発生した風に揺られることはないはず。意識を集中させて、風をイメージするだけでちゃんと風も発生したし花を揺らすことができた。


 この世界における魔法使いの詳しい事情は良く分からないが、ある程度まで成長した者は異端として迫害されているわけではないようなので、ひとまず俺の人生は安泰なのではないかと胸を撫で下ろす。


 後は俺の人生をイージーモードにするために、これからしばらく魔法の訓練をすることにする。魔法が上手く使えれば強い魔物を討伐して、その素材で暮らしていけるだろうし、身の危険も守ることが出来る。


 あぁつまり、当然と言えばいいのか、この世界には魔物がいる。父親も度々ぼやいていたのだが、この村周辺でもたまに出没するらしく、討伐の度に被害が出ていて悩みの種なのだとか。


 強さはそうでもないので死人は滅多に出ないそう。それでも村の働き手が怪我でもすると面倒であるので、魔物など出ないに越したことはないのだとは父親の言葉である。狼などの動物の延長線みたいな魔物で、一応はぎ取った素材なども金にはなるのだが、どこにでもいるような魔物なので大した金額ではないようだ。


 家族構成は、二十二歳の両親に五歳の姉の四人家族だ。十七歳で子供って前世の感覚で言うと遊んでんなーなどど思うのだが、この世界では割と普通なのだろう。前世においても、世界的には成人として認められる年齢は十八歳くらいが多かったことを考えると別に不思議でもない。それ以下の年齢の国もあったくらいだ。ちなみにメイドなどいない。さっき言った通り、我が家は農家である。


 農家とはいえ、どちらかと言うと裕福な方ではあるらしい。豪農とまではいかないが、それなりに収入があり、果ては馬の飼育もしているそうで。両親が若い頃……今も若いが、冒険者として多少稼ぎがあったらしく、それを元手に種馬を買ったらしい。馬は高値で取引されているし、村の農業の手伝いに貸し出しもする。ちょっとした牧場を経営している状態だな。我が両親ながらうまく稼いでいると思う。


 村についてだが、人口は四百人ちょっと。主に農業を生業とする家が多く、近くに森もあるので狩人も多少。鍛冶屋や小さいが商店もあるし、普通に生活するには特に不自由はない。小さい教会もあり、重い病気に罹るとそこで治療してもらう。ただし、料金はそれなり。慈善事業ではないようだ。


 村長というか、統治しているのはやはり居ました貴族様である。アライア領とのことなので、アライア様なのかと思ったら違うらしい。アライアというのはこの辺りの土地を広く統治している伯爵で、さすがに広大な領地を一人で統治するのは不可能であるため、いくつかの領地を分与しているような状態とのこと。


 村を直接統治しているのはエイブラム男爵様だ。元はアライア伯爵に仕えていた騎士で、過去の戦争で武勲を上げた際の報酬として土地を分与されたのだとか。直接姿を見たことはないが、戦争で名を上げるほど勇猛な人物には見えないくらいの優男だそうだ。村人達からの評価は上々。村の問題に真摯に向き合い、時には共に汗を流すこともあるくらいに真面目であるようだ。


 まぁ貴族に関しては今は置いておこう。多少なりとも関わる機会はあるだろうが、一農民の子である俺との接点はそれほど多くないはず。必要になればその時に慌てることにする。前世でも夏休みの宿題は、休みが終わってから慌ててやるタイプだったし。馬鹿は死んでも治らないね。


 他にもいくつか報告できることもあるが、それは必要に応じて話していくことにして、今俺がなにをしているかなんだが……。正確にはなにをされているか、である。


 俺は今見たことがないおっさんに抱き上げられていた。おっさんは目を閉じて、右手を俺の額に翳している。後ろには両親も控えていて、心配そうに俺を眺めていた。


 白髪交じりの茶髪を短く切りそろえた初老のおっさんで、着ている服は白を基調に青いラインの入った、おそらく神官服。たぶん神官で合ってる。村の教会から来たのだろう。


 父親の目鼻立ちはくっきりとしていて、少し癖のある金髪を無造作に跳ね飛ばしたイケメンだった。頬に切り傷があるのは冒険者時代の名残だろうか。母親はたれ目で、父親とは対照的に腰まで伸びたストレートのピンクの髪が印象的な美人である。ここにはいないが、姉は母親の特徴を受け継いで入るようだが、今まで眺めていた感じからすると、母親のおっとりした雰囲気は胎内に忘れてきたようで、お転婆のじゃじゃ馬娘と言った言葉がしっくりくる。目つきも少々キツイ。


 おっさん……もとい神官が手を翳して数秒後、その手が青色の光で淡く発光した。額がじんわり熱を帯びるのを感じる。それもものの数秒で収まり、それと同時に神官も目を開けた。


「ふぅ……。魔法の素質は十分なようですね。この年齢の割には、魔力も多い方ですよ。さすがはオルクス夫妻の子、といったところですか」


 抱き上げていた俺をベッドにおろすと、後ろにいた両親に向き直って微笑んだ。少々厳つい顔面からは予想できないくらい優しげな声をしていることに少し驚いたが、それより今やっていたのはなんだったのか。


 言葉から察するに、俺の魔法使いとしての素質を確かめていたようだが、それになんの意味があるのだろうか? 別にそんなことしなくても魔法を使えるやつは使えるだろうし使えないやつは使えないだろうに。


 そんな俺の疑問に答えるかのように、母親が言葉を発した。


「そうですか。これでシャーロットにも助成金が出るのですね」


 少し嬉しそうにしているのは経済面で楽になるからなのか、魔法使いとしての我が子の才能に喜んでいるのかは分からない。後者であることを願うが、おそらく両方なんだろうな。金銭的な問題も生きていく上で重要ではあるので、前者の考え方を否定するつもりもないが。


 助成金といえば要するに国からの援助だと思うんだが、どういう意図があっての助成金なのだ。魔法に関することだとして考えられるのは……若いうちから魔法使いとして英才教育をするための金かな? 非常にありがたいことだが、スパルタは勘弁な。


「ええ。この後王都の教会本部に連絡をして、向こうで王家に対して手続きを行ってもらいます。今回は二人目の魔法使い候補ですから、銀貨で三枚が支給されると思いますよ」

「助かりますよ。我が子が貧困の末に死ぬようなことになるのは避けたいですからな。村で多少は金を持っているとはいえ所詮は田舎の農民。懐具合は寒いですから」

「王家としても、将来有望な魔法使いの芽を摘むことは避けたい。オルクスさんのところは大丈夫だと思いますが、これくらいの支援はしておかないと帝国に出し抜かれては堪りません」


 神官と父親の会話から察するに、姉さんも魔法使いの素質があるようだ。そして助成金とは、教育のためというよりは死なせないため、と言った方がいいのだろう。


 しばらく二人の会話を聞くと、魔法使いについて多少情報を得ることが出来た。


 この世界では、生まれて一年経つと教会から神官がやってきて魔力の量を量るのだそうだ。魔法使いとして素質がない者は、ごく微量の魔力しか持たない。逆に素質がある者は、無い者と比べて圧倒的に魔力が多い。といってもまだ赤ん坊なので、その総量は大人と比較すれば大したことはないが。


 またさっきのように手を翳した際、実は魔力を流し込まれていたそうだ。その時、素質のある者は魔力を吸い取ろうとする。額が熱を帯びたのはそのためだったようだ。若いうちは成長が著しく、とにかくたくさんの魔力を蓄えようとしているらしい。ただ、他人から受け渡された魔力は当人の体に定着せず、一定時間経過すると体外へと流れ出てしまう。


 魔力を増やすにはいくつか方法があり、成長と共にある程度は増える。もちろん魔法を使えば使うほど、それに比例して増えていく。


 意外だったのが食事による増加であった。要するに生物無生物問わず、世界に存在するあらゆる物質には魔力が存在していて、食事によってそれらの魔力を摂取することで魔力が増えるということ。まぁ食べた分がそのまま増えるわけではなく、またその魔力は微々たるものなので、意図して食事による魔力増強を図ることは無駄とは言わずとも現実的ではないそうだ。


 食事による魔力の変換には好みも関係していて、好きな物を食べるのと嫌いな物を食べるのでは効率が違うらしい。美味い物ほど魔力が貯まりやすいということだ。


 ならば、ここは元料理人として腕を振るわずにはいられない。美味い物を食えば、それだけ魔法使いとして成功できる可能性が増えるというものだ。


 現実的ではない。そう言った人物に異を唱えたいものだ。食事とは毎日行わねばならない、生きていく上での最低条件だ。それを蔑ろにするなど勿体ないではないか。


 それとさっきちらっと出ていた帝国という名前なのだが、どうやら現在冷戦状態にある、我が国の敵国なのだそうだ。多少の小競り合いは、国境付近の貴族達の間ではよく起こっていて、いつ戦争になってもおかしくない状態だとか。


 一応、国境線上の大半に大きな砂漠があり、その移動に莫大な費用と手間がかかるため、全面戦争は避けれている。貴族達の小競り合いも、砂漠が面していない一部の地域で嫌がらせ程度に行われているもので大したことはないようだ。


 両国での交流はほとんどないのだが、スパイや商人といった一部の人間は互いに行き来している。商売するにあたっては、敵国にいる間は多少の制限がかかるようではあるが。ただし、裏の世界というのはどこにでもあるもので、奴隷を扱う商人や、通常のルートでは販売できない品を扱う商人などは問題なく商売しているとのこと。政治的には問題アリだが。


 助成金の話に戻るが、この帝国が存在することが問題なのだった。同盟でも結べていればよかったのだが、あろうことか帝国は侵略戦争をふっかけた。その時は互いに痛み分けで終わったらしいが、完全に敵対した帝国を相手に王国としても黙っていることなど出来ず。戦力の増強を図る目的で魔法使いの育成に力を注ぐようになった。


 その一環が助成金なのだ。産まれてくる魔法使いも、全員が恵まれた環境にいるわけではない。子を育てる余裕もない家などは、人身売買に手を出す愚か者もいたりする。そうでなくとも、子が重い病に罹ったときなど、治すための金が無くてそのまま……なんていう話も珍しくはない。そうならないための助成金なのだった。


 幸運にも我が家は多少稼げているので、捨てられる心配など不要なのだが。


 魔法使い育成のために学校もあるようだが、さすがにここまで援助できるほど王国も余裕があるわけではなく、結構な金額の入学料を取られる。うちの懐具合では、入学など夢のまた夢なほどに。


「それでは私はそろそろお暇いたします。手続きの件もありますのでね」


 しばらく談笑した後、そう言って神官は出て行った。ここから王都までどれだけ距離があるのかは分からないが、車などがあるわけではなさそうなので、それなりに時間がかかりそうだ。あまりゆっくりもしてられないのだろう。


 神官が去ったあと、両親はそれぞれの仕事に取り掛かった。父はおそらく馬の世話か農作業に外へ、母は食事の支度を始めた。日が登って結構時間が経っている。昼飯だろうな。


 今の俺は一歳なのであまり凝ったものは食べられない。離乳食のようなものが大半で、茹でたジャガイモに塩を振っただけだったり、大豆やトマトのスープのようなものだったりで、正直物足りない。


 この世界でも食材の名前が同じなのは不思議だが、そこは気にしてはいけない部分なのだと自分に言い聞かせる。


 あと、これはかなり由々しき問題なのだが、味付けが塩しかない。コンソメや中華系の調味料などは無くて当然だと思っていたが、醤油や味噌なども存在しなかった。


 考えてみりゃ当たり前だったのかもしれないが、正直そこまで考えていなかった。自分で作るのはかなり骨だと思う。発酵させるのにかなり時間がかかるし、そもそも酵母がない。


 とにかく自分で発酵させて麹を作るしかない。大豆はあるのでとりあえず出来ないことはないと思う……。萎えるわ。


 ここは一つ魔法の力でポンと出来ないかな。そんな都合のいい魔法があるわけないんだけど。せっかく剣と魔法のファンタジー世界に来たのだからそれくらい夢見てもいいと思うんだ……。


 とりあえず一歳の体ではままならないので、しばらくは後回しにするしかないわけで。今は将来のために魔法の訓練でもやっておくことにする。あまりでっかい魔法を使うわけにはいかないが、小規模の魔法なら親がいない間にこっそり練習できる。


 成人した大人の精神を持って生まれたアドバンテージはうまく活かすべき。才能はあるのだから、それをどこまで伸ばせるかが勝負所である。


 そういえば今後なにをしたいのかって明確に考えてなかったな……。申し訳ないが、両親の後を継ぐのは勘弁。魔法が使える身の上で、何が悲しくて農家の後を継ぐのか。


 別に農家をバカにはしてない。これでも元料理人。食材はもとより、それを作る生産者の人達には敬意と尊敬を抱いている。ただ、魔法使いが農家をする必要性はあるのかって話。さっきの話からも察するに、もっと別の職業があるだろう?


 そしてやっぱり冒険者に憧れるのだよ。危険は承知。だがそれでも夢を見る価値はある。俺だって男なのだ。様々な冒険譚には憧れたものである。やはり冒険者だな、うん。


 そう決意し、翌日から魔法の訓練を始めるのだった。

シャーロットは主に女性名だと思うんですが、響きがよかったので採用しました

稀に見られる、性別が逆転した小説とは違って彼は普通に男の子です

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