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さよならノスタルジア  作者: あお
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いっぴきめのヒツジ

 最初に思ったのは、顔は好みってことだった。

 正面に立つ男を前に、私は呑気にもそんなことを思っていた。

 時々思うのだけれど、私って結構肝が据わっている。訳の分からない状況であっても、大抵慌てずに落ち着いていられるもの。例えば意地悪ないたずらだったり、抜き打ちテストだったり、突然のクラッカーの音だったり、そういったことをされても私は焦るってことを知らない。今だってそう。真っ白な世界にぽつんと二人きり、見知らぬ男と見つめあっていたって全然へっちゃらだった。

 でも、まぁ、それは安全であることが大前提でのこと。

 目の前で人が倒れたり、暴漢に襲われたりしたら、それはもう私だってパニックに陥る。けれどそうじゃないなら慌てふためく必要はないと思う。だって死にはしないじゃない?例えば今の状況だと私は安全なの、だってこれはただの私の夢だから。

 夢だと自覚してみる夢を、明晰夢というらしい。夢の統計なんてあるのか知らないけれど、私はたまにそういうことがある。別に珍しいことではないと思う。こういう夢を見るとラッキーで、いつもなら隕石を降らせてみたり、見たこともない大自然の島を一人で散歩したり、夢の中でしかできない最高のエンターテイメントを楽しんだりするわけだけれど、今日は違うみたい。

 目の前に立つ男を観察する。男というよりも、まだ少年という年頃かもしれない。背は私より高い。クラスで一番背の高い男子と同じくらいあるけれど、年若く思えるのは見た目が異邦人だからだ。彫の深い顔立ちで、髪は黒いけれど虹彩の色は不思議な色。この距離だと何色なのかわからないけれど、茶色っぽいように見える。その目がじっと私を捉える。

 私の夢ならばきっと私の意思で消せるはずだけれど、私はこの男に不愉快な感情を抱いていないからあえて消そうとは思わなかった。深く考えてはだめだ。夢の中で思考することは目覚めに繋がる。私はまだ、夢の中でまどろんでいたいの。 



(あなたはだぁれ?)



 口に出したはずの言葉は、声にならずに消えていった。おかしいなあ、今回の夢は話すことができない世界なのかな?もう一度声を出そうと口を開いた時、急に視界がぼやけだした。目の焦点が合わない。ああ、もう朝なのかもしれない。瞼が完全に閉じてしまう前に、もはや霞みかけた男の口元が動いたような気が―――



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