休日二日目
俺は後悔していた。
悪の組織の一員にもかかわらず不良を更生させ学校に行かせるだけでなく、正義の味方が悪の道に踏み入れていたのに救出してしまった。
俺はその日は後悔とこれがバレたらという不安を胸に抱いて眠りにつくつもりだったのだが、7時に先輩と上司に呼び出されていたので俺は待ち合わせ場所の支部に向かった。
支部の前ではすでに先輩と上司が待ち構えていた。
俺達は食事と少しお酒を飲んだ後に先輩おすすめのお店へと向かう予定でいたのだが、食事をしたところがまさかのそのお店だった。
食事をしてお酒を飲み、最後は一発抜いて帰ることができるという素晴らしいお店なのだとか。
「じゃ3時間コースで。」
先輩が店員にそう言って席を立つ。
俺と上司もそれに続いて席を立つのだが・・・ 3時間って長くね?
それとも俺がこういうところが初めてだからそう感じるだけなのだろうか?
俺はオドオドしながらついて行き二階へ上がるとそれぞれ指定された部屋へと向かう。
通路内では誰ともすれ違わない。
俺は一人になり寂しさを感じながらも指定された部屋へと入った。
部屋の前で入るか少し考えたからだろうか。
中で待っていた女の人が「遅かったね。帰っちゃたのかと思った。」と笑って言った。
その後、俺は初めての風俗で初めての体験に最初はオドオドして途中からは女の人に身を任せてなされるがまま快感に溺れていった。
約三時間後、もうすぐ終了の時間が来るというタイミングで携帯にメールが入っていた。
上司&先輩 『延長でもう三時間。』
そう書かれていた。
これは俺もそうしろということでしょうか?
俺だけ帰ってはいけないのだろうかと思いつつ俺はこれも付き合いなのかと思いお姉さんに「延長で」と告げて先輩や上司からのメールを見せた。
「このまま続ける? それとも他の子にチェンジする?」
お姉さんはそう言って俺との行為を一旦止める。
「このままでお願いします。」
お姉さんはその言葉にすごく喜んでいた。
嬉々として室内の固定電話を手に取り事務の人に延長申請を行った後。
先程より熱烈に俺を求めてきた。
「今度は君の方からしてくれない?」
その言葉に興奮したのか。
俺は自分なりに精いっぱい頑張った。
お姉さんは「がっつく子は大好きよ♪」と言って喜んでいた。
余裕を持たれているから駄目なんだろうか?
と一瞬、頭に過ったが考えないことにした。
その後、俺達は店を出るために会計へと向かう。
先輩曰く、入出時は食事の店に出入りするような形になっているので、たとえ探偵に後をつけられても問題がないというのがこの店の売りだそうだ。
俺は会計をするために財布に手をやるとそれを先輩と上司二人に止められた。
奢ってくれるのだろうか?
一瞬そう思ったが二人の顔つきはなぜか真剣だった。先輩だけ涙目だがなぜだろう?
「悪の組織の一員ならば、こんな時どうするかわかるよな?」
「俺も悔しい。こんないい店に来られなくなるのわ!!しかし、俺も悪の組織の一員。ここはやるしかない。」
そう言った瞬間。
二人は一瞬にして俺の前から姿を消すかのように走り去りレジの前を通り過ぎて店の外へと出て行った。
(く、食い逃げだとーー!!!)
悪の組織に勤めているのだから悪いことをするのは当然。
とはいえ、食い逃げなどしたことがなく事前の打ち合わせもなかった俺はただ茫然と二人の消えた空間を見つめる。
俺はその状態で数十秒ほど固まった後、後ろから声を掛けられる。
振り返ると黒スーツを着てサングラスをかけたSPみたいな人が立っていた。
身長は2m近く巨大で服の上からでもわかるほどの筋骨隆々の大男だった。
「会計お願いします。」
俺がそう言うと黒スーツの大男は会計へと連れて行ってくれる。
逃げられない様に見張っているのだろうか?
会計で俺は三人分の料金を払うことになるのだが、三人分を払うとは思っていなかったので、現金が足りず、カードを持っていなかったのでどうしようかと思っていると黒スーツの大男が店の奥を指さして「ATMありますよ。」と教えてくれた。
黒スーツのお兄さんの声は意外と若いのかおっさんというよりもお兄さん系の声だった。
店内にATMがあるだなんて不思議なお店だ。
「所持金は気にせず、好きなだけやってください」という店の行為だろうか?
俺はATMでお金を下ろして支払いを済ませた。
俺はフラフラと歩きながら家へと帰りついて爆睡した。
翌日、俺は目が覚めて身支度を整えた後。
後悔の念に苛まれていた。
(あそこはダメもとでも逃げるべきだったのでは?!)
昨夜、自分一人だけ食い逃げをしなかったことを少し後悔する。
普通の一般人ならばしてはいけないことだが俺は悪の組織の一員だ。
(悪い事ならばなんでも日常的に行った方がよかったのでは?)と少しの間考えた後、朝食。
いや、時間的に昼食を取りながら今度は朝の補導員をしなかったことを後悔した。
(俺が毎朝やってるからあの交差点の補導、誰もしてくれてないだろなぁ~。あそこ交通量が意外と多いから事故とか起きてないかな? 子供達だけで渡れただろうか?)
俺は幼気な子供達の身の安全を案じて頭を抱えて苦悩する。
昨日は帰りが遅かったとはいえ、朝の補導員ぐらいはやるべきではなかったのか?
もし俺がやらなかったせいで子供達に何か起こっていたら?
俺は昼食を食べ終わるといつも子供達を補導している場所へと向かった。
そこはいつも通りの交差点だった。
(よかった。事故などはなかったようだ。)俺は安堵して来た道を帰るために振り返る。
こんなことが心配で来てしまうだなんて俺は神経が細すぎるのかもしれない。
「あ、おにいちゃんだ。 おにいちゃ~ん!」
俺は背後からの声に驚いて振り返るとそこにはランドセルを背負って帰宅途中と思われる子供達の姿があった。
「皆、今日はどうしたんだい? 帰ってくるの早くないかい?」
「うん。明日から夏休みだから早く終わったんだ。」
子供達はそう言ってうれしそうに笑っていた。
俺は子供達の帰りの補導を行って皆を無事に渡らせる。
(そうか。明日から夏休みか。じゃ、明日からは補導に来ても意味ないのか。)
「そういや兄ちゃん。今日は何で来なかったの?」
子供達が俺を心配しているのか。不思議そうにそう聞いてくる。
「い、いや~。今日は寝坊しちゃってね。」
俺は誤魔化すようなに笑顔を浮かべて答える。
「もう、駄目だなぁ~兄ちゃんわ。」
「夜更かしはしちゃダメなんだよ~。」
子供達は笑顔で俺に叱咤激励をしていく。
俺は作り笑顔を顔に張り付けたままそれに答えることしかできなかった。
「そういえば、みんな朝は自分たちだけで渡れたのかい?」
俺の質問に子供達は「あまり前じゃん」と答えた。
むしろ、俺がなぜ毎日立っているのか不思議で仕方がないらしい。
親御さんは安心できるので俺のことを喜んで放置しているらしい。
「ま、かぁちゃんは最初、変態か変質者じゃないかっていってたけどな。」
一人の子供が言うとほかの子供達もうちもうちもと声を上げる。
最初の頃は親御さん達が交代で見張りに来ていたらしい。そういえば、最初の三か月ほどは親御さんがついて来ていたなと思いだす。
(何てことだ。あれは俺を疑っての行動だったのか。)
子供達の身を案じて町内会の親御さんで引率しているのだと思い込んでいた。
最近見なくなったのは街の治安が良くなったからで無く俺のことを安全だろうと判断したためなのだろう。
(そういえば、最初のことは不審なものを見る目を向けられていたような・・・)
俺は過去を振り返り少し悲しくなった。
まぁでも、入ったばかりの頃は子供達を視姦するという重要任務をこなす為に少しばかり俺自身も挙動不審だったかもしれない。今でこそ、心の中だけで視姦することができるようになったが・・・
ただ、今は昨日の出来事のせいで賢者タイムに突入しているし俺は子供に欲情したりはしない。
そんなわけで朝の重要任務『JSを視姦せよ!』は俺にとってかなり高難易度ミッションだ。
悪の組織の一員も決して楽ではないのさ!
ちなみに、逆に小さい子が好きな人は重要任務『子供達の親御さんを視姦せよ!』が地獄のように感じるそうだ。
若ければ20代後半の人もいて美人もそれなりにいるので俺としてはこちらの方がありがたい。
俺は子供たちと別れた後、帰路につく。
すると今度は昨日会った紫ちゃんと同じくブレザーハートのオレンジちゃん、さらにはブレイブハートのリーダー ブレザーブラックがいた。例の如く本名を知らないので黒ちゃんと命名しよう。
(支部の人達も戦隊名と顔写真だけじゃなくて名前も教えてくれればいいのに・・・)
そう思う俺だったが、悪の組織としても初対面の人間が名乗っていないにもかかわらず名前を知っているなどという奇妙な状況を避けるために名前の公開は避けているのだ。
特殊な訓練でも積んでいない限り、名前を聞く前につい名前を言ってしまうという状況に陥り易い。
特に仮入社の新人はそれで命を落とす可能性もある。
最悪の事態はそこから悪の組織の支部、もしくは本部の場所がばれることだ。
そんなわけで俺は彼女たちの名前を知らないし出会ったからって声をかけるような仲じゃないのでその横を通り過ぎようとする。
「あ、お兄さん。こんにちは。」
「・・・! ああ、こんにちは。」
横を通り過ぎようとした瞬間。オレンジちゃんが俺を見て挨拶をしてくる。
俺は一瞬遅れて挨拶を返した。それを見て紫ちゃんと黒ちゃんも挨拶をしてくれるので何とか笑顔で挨拶を返した。
「今日は早いね。今日は終業式かい?」
「いや、まだですよ~。今試験期間でそれが終わってからですね。」
「へ~、そうなんだ。」
俺の質問にオレンジちゃんは平然とした様子で返してくる。紫ちゃんは昨日のこともあって怯えているのか俺と眼を合わせようとしない。黒ちゃんは初対面なので反応に困っている。
「そっちの子はお友達?」
「ええ、彼女は黒条 美咲でこっちは紫原深歩です。」
オレンジちゃんはそう言って彼女たちを紹介してくれた。まぁ、俺はオレンジちゃんの名前を知らないんだけどね。
「はじめまして、俺の名前は智坂 徳だよ。えっと・・・・」
オレンジちゃんの知り合い? と言っても名前を知らないので言い淀んでいると黒条さんが俺を不審そうな目で見てきた。ブレザーハートのリーダーとして仲間の交友関係をチェックしているのかもしれない。
「あ、すみません。名乗ってませんでしたね。私の名前は城崎 橙子って言います。」
俺が言い淀んでいる理由を察してくれたのかオレンジちゃんは自分から名乗ってくれた。
「ああ、えっと。城崎さんの知人です。」
「橙子とはどこで知り合ったんですか?」
俺が自己紹介を終えたと同時に黒条さんがそんなことを尋ねてくる。
橙子ちゃんがバイトしていることは言ってもいい事なのだろうか? 最近の学校はバイト禁止とかしてないのだろうか?
そんなことが頭に過って言い淀んでいると橙子ちゃんが黒条さんに知り合った経緯を話し始める。
「えっとほら、この前痴漢にあって撃退した話したじゃない。その時に駆けつけてくれた人がこちらの智坂さんなんだよ! あ、そういえばあの時は名乗りもせずに本当にすみません。それからありがとうございました。」
橙子ちゃんは最初は黒条さんに話すように、最後は俺に振り返り頭を下げながらそう言った。
橙子ちゃんがバイト中のことを言わなかったのは学校ではバイトが禁止だからだろうか?
「ああ、あの来ただけで何もしなかったっていう。」
話を聞いて「ああ思い出した」とでもいう感じで黒条さんはなかなか手厳しい言葉を俺にかけてくる。
確かに何もしていないが、駆け付けた時に痴漢はすでに瀕死状態だったから何もできなかったという側面もあるのだが・・・ まぁ、気にしてもしょうがないだろう。
「もう、美咲は何でそんな言い方するかな。それに警察に連絡したり私のことフォローしてくれたりしたんだよ?」
「それにどうせ、橙子だけで痴漢はほぼ死にかけだろう? それ以上やってたら死んじまうよ。」
橙子ちゃんが俺のフォローに回ってくれ。紫原さんがさらに口添えをしてくれる。
「痴漢など死んでしまえばいいのよ。」
だが、黒条さんの機嫌は良くならず俺に「止めを刺してくれればよかったのに」と言わんばかりに言葉をはき捨てた。なかなか物騒な子だ。こんなに手厳しい子が正義の味方とはとても思えないが、勧善懲悪という概念からするとそうでもないのかもしれない。
慈愛と救済、そして相手の罪を許す寛大なお心も使いどころを間違えればただの馬鹿だ。
ただ彼女は少し悪事に対する罰が重すぎる気がする。
まぁ、説教臭いことを悪の組織の俺が言うわけにもいかないので何も言わないでおこう。
俺は不意に紫原さんに視線を送り、その豊満な胸に目がいってしまう。おっといけない。こんなことは彼女に失礼だ。俺が彼女を見ているとこちらの視線に気づいた彼女はぺこりと頭を下げてくる。
俺も思わず頭を下げるとそれを見ていた二人が俺達を見て頭の上に?マークを浮かべていた。
俺と紫原さんは顔を合わせてどちらがこの状況を説明するかを考え戸惑う。
「あの、実は昨日・・・」
結局、紫原さんが昨日の経緯を話すことになった。
黒条さんもいるし初対面の俺が話すよりも友達である紫原さんから聞いた方が二人も納得するだろうという判断だ。
二人は話を聞き終わると二人して腕を組んでうんうんと頷いた。
「ああ、だから昨日から不良の子達も真面目に学校来てたんだ。」
「あなたが心を入れ替えたようで安心したわ。事情が事情だけに私は何もアドバイスしてあげれないから本当に良かったわ。」
二人はひとしきり感心した後、俺にお礼を言って来た。
俺はほとんど何もしていないので頭を下げられても困ってしまう。
その後、俺は彼女たち三人と他愛もない話を少しした後、解散する。
解散後、俺は自宅に向かって歩いていたのだが、不意に背後から声を掛けられた。
振り返るとそこには橙子ちゃんがいた。
「どうしたんだい?」と橙子ちゃんに話しかけると彼女は真剣な眼差しで俺に相談事を持ちかけた。
なんでも黒条さんは今ストーカーの被害に遭っているらしい。
ストーカーの物陰からいつの間にか見つめられていたり、後を付けられたり、フラッシュを当てられたりといった軽い犯行の身らしい。
フラッシュを当てられた行動は明らかに写真を盗撮されているはずだが、それを送りつけたりはしてきていない。
なので警察に連絡しても取りあって貰えなかったそうだ。
物証がないので警察も動くわけにはいかないのだろう。
そんなわけで彼女は今、気が立っているらしい。
彼女のあの言動は精神的ストレスからきているらしく、本来は優しい子だという。
「あのそれで・・・」
彼女はそこまで言ったところで口を閉ざしてしまう。
ほとんど話をしたことがない人に彼女は今、助けを求めようとしたのだ。
正義の味方であるはずの彼女たちが悪の怪人でもなんでもないはずのストーカーを恐れている。
彼らは大々的に悪事を働かない。それ故に彼女たちの力では悪事を裁くこともできない。
いや、面と向かってこないため対峙すること。見つけること自体が困難なのだろう。
俺も助けてあげたいのは山々だが、彼女達は正義の味方で俺は悪の組織に勤める会社員だ。
彼女たちを苦しめているストーカーはもしかしたらうちの会社から派遣された工作員かもしれない。
もしそうだった場合、俺は会社と対立することになる。
そうなれば当然、会社をクビになりまた路頭に迷ってしまうだろう。
俺は別に彼女達とそこまで親しいわけではない。
話を聞いたからって手助けをする義務もない。
だが、目の前の少女は眼元に涙を浮かべて俺に懇願するような顔を向けている。
それを振り切って自分には関係ないと断じるのは人としてどうなのだろう?
悪事を働く悪の組織の一員がこんなことを思うのは間違っているのかもしれない。助けてあげたい。
だが、一時の感情で今ある生活を壊す勇気は俺にはない。
「メアド・・・ 教えてくれない?」
「え・・・?」
俺がようやく振り絞って出した言葉に彼女は驚きの声を小さく上げてこちらを見上げる。
「いつもそばにいることはできないから、何かあったらメールして・・・ 力になるよ。」
俺の言葉に彼女は眼元に貯めた涙を溢しながら「ありがとう」と頷いた。
俺は橙子ちゃんとメルアド交換した後、帰路についた。
前回のあとがきで風俗店の話は書かないと言って書いてしまって本当に申し訳ありません。