レムナンツ - Remnants - 【シナリオ形式】
■登場人物
ダミルファ:修行中の賢者。頭を剃り上げた痩身の、年齢不詳で長身の冷静な男。
物語中に名前は出ません。(敢えて謎のままにしてます)
ザラフネッド:ウェレーゼルルランド王国軍の一部将で若き騎士。ただし会戦に
敗れて逃亡中につき、負傷して鎧も傷み汚れている。(国名は作品中に出ません)
グラモンド:新王軍(反乱軍)の騎士で、豪傑風。
ルシーネ:女傭兵隊長。金髪で長い髪、肩のマント止めは百合を咥える鷹の模様。
外見イメージとしては善玉の女戦士風。(悪女風は断固拒絶します)
兵士達:グラモンドやルシーネの部下。
○岬
怒涛が寄せる岬。
その突端の近くに、小さな塔(三階建てくらい)が立っている。
塔の一室(三階)では、幾何学模様の曼荼羅を広げて、痩せた僧形の男・ダミルファ
が瞑想中。
○森
一人の兵士が断末魔の悲鳴を上げて倒れる。
斬ったのはザラフネッド。落ち武者の騎士である。頭から血を流し、目が血走り、
膝をつき、息が荒い。
ザラフネッドは、刃こぼれしたの剣と傷んだ鎧の姿。彼の周りに惨殺死体が3体。
ザラフネッドは悲しそうに死体を見て片手合掌してから、
顔を上げる。
木々の隙間から、波の音が聞こえ、岬と塔が見えている。
○塔の入り口
ザラフネッド、激しく扉を叩く。
ザラフネッド「頼む! 開けてくれ! 頼む!」
ダミルファ、うさんくさそうな表情で覗き窓を開ける。
ザラフネッド「……追われて、怪我をしているんだ。休ませてくれないか? すぐに
出て行くから。」
ダミルファ「……昨日、東の方で激しい喧燥が聞こえました。」「大軍どうしの野戦が
あったのですね?」
ザラフネッド、緊張した目でダミルファを見る。
ダミルファ「察するところ、あなたは負けたほうの落ち武者。」
ザラフネッド「王党派の騎士、ザラフネッド=マ=ロールモント。妖しい者じゃない。」
ダミルファ「…私は穏者です。戦や政には関わりません。
お引き取りを。」
ダミルファは覗き窓を閉めてしまう。
すると、扉の外から「ドサッ、ガシャガシャッ」と音が。
ダミルファ「?」
ダミルファ、ふたたび覗き窓を開ける。
と、血まみれのザラフネッドが倒れている姿が。(失神)
○塔の一室(二階)
ザラフネッドが気がつくと、粗末なベンチの上に横たえられていた。頭と肩に
包帯もされている。
ザラフネッド「ここは?」
その部屋は書庫のようなところだった。
ダミルファ「瀕死の怪我人を門前払いにするわけにはいかないでしょう。」
分厚い本を読んでいたダミルファ、しおりを挟んでパタンと閉じた。
ザラフネッド「助けて……くれたのか?」
ダミルファ「歩けるようになったら出ていってください。」
ダミルファ、念を押すように
ダミルファ「この岬には『気』が集まっていて、一人で修行するのに最適なのです。
邪魔はしないでほしい。」
ザラフネッド「修行? なんの?」
ダミルファは不機嫌になり、
ダミルファ「説明する必要はありません。承知か、不承知か?」
ザラフネッド「承知した、明日にでも出ていく。それにしても……」
ザラフネッド、寝たまま周囲を見回す。
ザラフネッド「すごい蔵書だね。まるで王城の図書室のようだ……。」
ダミルファ「隠者は学問と思索、そして瞑想の日々を過ごすのです。」
ザラフネッド「それでどうやって食ってるんだ?」
ダミルファ「庶民たちに読み書きを教えたり医者の真似事をしたりして。」
ザラフネッド「……勿体無い。」「これだけの学問があれば、王室の御用学者も
つとまるだろうに!」
ダミルファ「戦や政には関わりたくないのです。」
その時、激しく扉を叩く音。
ダミルファは立ち上り、
ダミルファ「また誰かが来たようだ。」
ザラフネッドは剣に手を伸ばす。
ダミルファ「静かにしていてください。」
○塔の入り口
ダミルファ、覗き窓を開ける。
ダミルファ「…何か御用ですか?」
扉の外には、ルシーネ率いる数人の傭兵達が。
ルシーネは、機能的なデザインの鎧を着た女傭兵。
ルシーネのマント止めが目につく。
ルシーネ「ここに騎士が来たでしょう?」
ダミルファ「ええ、来ました。」
○塔の一室
緊張するザラフネッド。
○塔の入り口
ルシーネ「どこにいるの!?」
ダミルファ「さあ?」
ルシーネ「隠すと為にならないわ。でも素直に味方すれば新王陛下から報奨金が出る。」
「その騎士はザラフネッド=マ=ロールモント男爵、王党派では指折りの名将よ。」
ダミルファ「私は穏者、戦や政には関わりません。」「その人も、先ほど訪ねて来た
が、飲み水を求めて来ただけで、それからどこに行ったのかは知りません。」
ルシーネ「飲み水を与えたの!? すると貴方は王党派…!」
ダミルファ「戦や政には関わりません! 王党派でもなければ新王派でもない。」
「あなたにも水が必要なら差し上げます。どうぞお引き取りを。」
ルシーネ「この塔に火をかけることもできるのよ?」
ダミルファ「賢者の塔は、どんな小さな物でも、皇帝マルディリアス1世陛下の時代
より兵火不入の権利を勅許されています。軍人ならばご存知でしょう?」
グッ、と黙ってしまうルシーネ。
ダミルファ「ではこれにて失礼。」
○塔の一室
ダミルファが戻ってくる。
ザラフネッド「今の声は…ルシーネ!」
ダミルファ「は?」
ザラフネッド「金髪で、肩に鷹のマント止めをつけた女傭兵じゃなかったか?」
ダミルファ「百合を咥えた鷹の意匠でした。」
ザラフネッド「やはり…」
ダミルファ「お知り合いで?」
ザラフネッド「信頼する我が部下…いや、昨日まで愛し合った女だ!」
ダミルファ「ははあ…寝返ったようですね。」
ザラフネッド「なんてことだ……死ぬまで一緒にと誓ったのに……。」
ダミルファ「ベッドでの誓いだったのなら、本気にするほうが間抜けです。」
ダミルファ、あきれて立ち上る。
ダミルファ「人はすべからく、勝ちそうなほうに味方する。あなたも名誉ある降伏を
してはいかがですか?」
ザラフネッド「降伏なんかできない!」
ザラフネッド、思い詰めたように
ザラフネッド「私の作戦どおりにすればいつも勝ってた!」「今回も私の進言どおり、
将軍閣下が脇街道に予備隊…いや斥候だけでも出しておけば、あんな奇襲は受けなかっ
たんだ!」「こんな結果に納得できるか!」
ダミルファ「納得できなくても負けは負けです。」「独断専行で布陣を変えて軍を救う
チャンスはあったのでしょう?」
ザラフネッド「作戦を決めた将軍閣下の名誉を傷つけるわけには……」
ダミルファ「では、その敗けはあなたにも責任があります。」「…どれ、麦粥でも作っ
てきましょう。」
ダミルファ、出て行きながら
ダミルファ「腹が減ったり異性を失ったりすると、人は怒りっぽくなりますから。」
○塔の窓。
夕闇が迫っている。
ダミルファが塔の窓から外を見る。
すると、森の前に、岬を孤立させるように布陣している50人ほどの一隊が。(新王
派の軍隊) かがり火も焚かれてる。
○塔の一室(二階)
ザラフネッド、食べ終わった椀を手にしている。
ザラフネッド「御馳走になった。」
ダミルファは冷静に、
ダミルファ「ザラフネッド殿、この塔は包囲されています。」
ザラフネッド「なに!?」
ダミルファ「あの紋章はたしか、グラモント=マ=ベレル。」
ザラフネッド「新王派の騎士だ。」「生き延びて国王陛下のためにもう一戦と思っ
たけれど、もはやこれまでか……」
ダミルファ「…一階のかまどの下に、崖下へ降りる梯子があります。崖下には……」
○塔の入り口
完全に夜が更けている。
たいまつを手にした新王軍の一隊が、塔の入り口で戦闘態勢。
グラモントが扉を叩く。その後ろにはルシーネ。
ダミルファ、覗き扉から
ダミルファ「またあなたがたですか……」
グラモント「ザラフネッド=マ=ロールモントがここに来たことはわかっている。そして
ここから先の足取りはない。」「この塔にいるはずだ。出さなければ、踏み込むぞ。」
ダミルファ「賢者の塔には、兵火不入の権利が……」
グラモント「寝ぼけてるんじゃない!」「皇帝などいまどき、なんの実権も無い!
各地で群雄が勝手に王を名乗る時代だ、帝国法などはもう、紙に書かれた文字に
すぎんのだ!」
グラモント、指で合図。
グラモント「やれ。」
兵士達が、丸太を抱えて扉に突進。
破壊音とともに扉が破られる。
○塔の一階
兵士達が、ダミルファを突き飛ばし突入。
兵士達「それっ」「金目のものを奪えっ!」
グラモント、壁に倒れこんで
ダミルファ「危険ですよ?」
○塔の一室(二階)
兵士達「本も金になるぞ!」「それっ!」
床が崩壊。兵士達が落下する。
床下には槍の穂先が。兵士達は悲鳴をあげて串刺しに。
○塔の一階
ダミルファ「危険だと言ったでしょう。ここには盗賊除けにさまざまな仕掛けがあるの
です。」
グラモント「貴様ぁ!」
グラモント、怒って賢者を剣で刺し殺そうとすると、
ダミルファの目付きが変わり、急に肩からオーラが発生する。
グラモント「!?」
ダミルファ「ヌォォォオオウ!!」
気合いに続いてドン、と衝撃が走り、グラモントは腹を光の固まりに突き貫かれる。
ルシーネ「……オーラ術士!?」
ダミルファの両手から、剣のような形の光の固まりがひとつ。
ダミルファ、逃げ惑う兵士達数人の手足を切り裂く。
ルシーネ「オーラ術士…本当に存在したのね!」
ルシーネ、必死に剣を振るうがオーラの剣に両断されてしまう。
ルシーネはダミルファに追いつめられ、壁際で絶望の表情。
しかしダミルファの顔に疲労の色が。
ダミルファ(心の声)「くっ、今日はひとつ嘘をついたから、オーラが弱い……」
ダミルファの手の光の剣は次第に小さくなっていく。
ダミルファは背を見せて逃げ出す。
ルシーネ、ハッと気がつき
ルシーネ「追え!」
○岬
次第に明るくなりはじめている。
ダミルファ、岬の突端に追いつめられている。
息が荒く、手から出るオーラも弱々しく、形にならない。
ルシーネ「降伏しなさい。オーラ術士や精霊術士は
めったにいない…味方になれば地位を与え優遇されるわ!」
ダミルファ「精霊術士に金銀への欲望が許されないように、オーラ術士にも地位への欲は
ない。」
ダミルファ、崖の方を一瞥。
ルシーネ、ハッと気付くが、
ダミルファ、崖から身を躍らせる。
ルシーネたち、崖際に駆け寄り下を見下ろす。
ダミルファ、衣をはためかせ、体にオーラを纏いながら、海へと落下。
その落下していく近くに、小さな帆掛け舟が。
船の近くに水柱が立つ。
ルシーネ「しまった……! ザラフネッド!?」
○帆掛け舟
洞窟から帆掛け船で出てきたザラフネッドが、ダミルファを海から助け上げる。
ザラフネッド、崖の上をちらっと見上げるが、
すぐに視線を進路へ。舟は三角帆に風を受けて、明るくなった空の下を岬から離れ
て行く。
○岬
ルシーネ、剣を鞘に収めて見送りながら、
ルシーネ「ザラフネッド…もしかして、運は…あなたにあるの!?」
○岬(海からの景観)
塔が燃えている。
○帆掛け舟
ザラフネッドとダミルファが、それぞれ帆綱を操る。
ザラフネッド「本が残念だったな。」
ダミルファ「なに……ほとんどはもう暗記しています。」
ザラフネッド「まことか? …オーラ術士にして賢者たる貴殿が味方になってくれれば
実に心強い!」
ダミルファ、無視するような表情で
ダミルファ「…私は、戦と政には関わりません。」
ザラフネッド、傷付いた体で帆を操りながら空を見て、
ザラフネッド「北にはまだ王党派がいるはず。まずは北へ向かおう。」
ダミルファ「私は、戦と政には関わりません!」
ザラフネッド「戻ったって殺されるだけだ。だけどこの戦さに勝ったら、新しい塔を
建ててさしあげよう。」
ダミルファ、溜息をつく。
ダミルファ「やれやれ……どちらにしても、私は巻き込まれる運命ですか。」
だがザラフネッドの顔にも緊張が。
ザラフネッド「まずは……この海を無事に渡ることができれば、だけどな。」
舟の行く手には黒雲と激しい風が。そして波も荒れはじめている。
~ 終 ~
事実上では、未完成長編の敵・小ボス(?)の後日にあたる外伝的物語ですけれど、独立した作品として成り立っていると思います。