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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

童話っぽいお話

幽閉された妖精

作者: 榎本あきな

冬の童話祭のために考えていたお話です!!


書くのめっちゃくちゃ時間かかりました。


まあ、動画みたりゲームしたりな自分が悪いんですけど…


ちなみに、おかしな所が多々あると思います。


初めて一万文字超えたので…


そこらへんは、指摘を下さるか目を瞑っていただけたら…


できれば指摘がいいですけど。


ちなみに、童話になってないかも知れません。


ご了承下さい。



それでわ↓

ある惑星の


  ある一つの大陸の


    ある一つの大きな国


その国の真ん中に、大きな塔があった。


その塔には、一つの伝説があった。



「あの塔に、幽閉されたとても美しい妖精がいる」…と…。



だが、その伝説は時と共に消えていった……



ある時代に、欲深なモンスターがいた。


欲深なゆえに、古い書庫をあさって宝の情報を集めていた。


それがどんなに大変でも…己の欲望のためなら…



そんなモンスターが、ある日、幽閉された妖精の伝説が書かれた本を見つけた。


塔の中ならきっとお宝があるだろう。そうでなくとも、妖精なら高く売れるだろう。


そう考え、モンスターは塔を目指し歩き始めた…



モンスターが塔を目指し歩き始めて数ヶ月。


どんなに歩いても縮まらない距離に苛立ち、それでも欲のために歩いた。


そして…ようやく辿り着いた塔。


その塔は…非常に高かった。背が高いモンスターでも首が痛くなるほどだった。



モンスターは、塔を上っていた。


もう何千段という階段を上っていった。


その道中にも部屋はあったのだが、お宝など金貨一つもなかった。


やっと一番上にまで辿り着き、やっとお宝にありつけると思ったそのとき…



金色の長い髪


  先がとがった耳


    光によって色が変わる羽


      ふっくらとした唇


        すらっとした長い手足


          彫刻の様に整った顔


そして…


この世界には無い色をした真っ黒な瞳



それは…まさしく妖精だった…。


たくさんの本に囲まれ、唯一窓から光が差し込む場所に座り本を眺めている。


ふと、何かに気がついたように目線を上げ、モンスターと目が合う。



その双黒の瞳には、感情のすべてを写していた。



モンスターは、永遠とも一瞬ともいえるような時間を立ち尽くしたあと、我にかえった。


そして…思った。



宝なんかよりも…こいつが欲しい。



そして、妖精に近づき、妖精の腕を強引につかむ。


抵抗しないのをいいことに、モンスターは妖精に魔法をかけて塔に縛り付けた。


自分が塔の番人となり、(妖精)を盗まれないように…


だが、モンスターが欲しいと思った妖精は、何も写さない人形の様な瞳になっていた……







大きな塔が聳える近くに、これまた大きな国があった。


その国には、「勇者」と呼ばれる存在がいた。



勇者は青年だった。


ある日、勇者は大きな塔が気になった。


今まで気にかけたことすらなかったのに…というのに。


これも若者特有の好奇心だろうか?と自分で思いながら誰にも告げずに旅に出た。


塔に向かって…



道中人助けをしながら、勇者は塔に辿り着いた。


だが、いくら勇者といえどもこれまでの道のりでは宿はなく安心できる寝床が無い。


それが何ヶ月も続いて、勇者は精神的にボロボロだった。



塔の入り口を漸く見つけ、塔に足を踏み入れようとする。すると…



そこには、醜い巨漢の豚のモンスターが立っていた。



モンスターの目には欲望の色しか写っていなかった。


しかし、欲望のためなら死をも厭わない…そんな目だった。


そんなモンスターに精神がボロボロの勇者が勝てるはずもなく…


勇者は戦略的撤退(逃げる)を選んだ。



勇者はモンスターから逃げ切った。


だが、何故か勇者はあの塔へ入るのを諦め切れなかった。


何故か?わからない。


そんな自問自答を続けていたが、やがて続けていても無駄だと感じ、勇者は歩き始めた。


勇者はまず、あの入り口の他に入り口はないかを探した。



しばらくして、勇者は塔の天辺の部屋かと思われる所に、窓がついているのを見つけた。


しかし、勇者はあそこまで上る術を持ち合わせていなかった。


物語の勇者ならば魔法や自身の脅威的な身体能力を使って上るのだろうが…



しかし、ここは現実。



そんな非現実的なことは何も無いし、勇者もそんな力を持ち合わせていない。


勇者は、今までに無い以上頭をフル回転させた。そして…



「見つけた」



勇者はベルトについていた針金をはずし鉤爪の様に曲げる。


それをもう一本作り、二つの針金を長いロープに結ぶ。


そして、出来上がった。


通常の窓だったらこんな物では無理だが、あの窓はガラスの代わりに鉄格子を使っている。


そこに勇者は目をつけ、鉄格子に引っ掛けようとしたのだ。


しかし、最大の欠点があった。



勇者は、そこまで高く投げられない。



他のものよりも高く投げられる自信はあるが、あの塔は高すぎた。


ふと、勇者は気づいたように周りを見渡し…閃いた。



そうだ。届かないなら、そこ距離を縮めればいい。



塔の周りは、木が所狭しと生えた森だった。


勇者は、窓に近い木に登りその距離を縮めようというのだ。


勇者は窓に近く、それでいて高い木を探し始めた。



歩き回りながら探し、やっと条件を満たしている木を見つけた。


勇者は早速木を登り始めた。



窓に近い木だ。そうとう高い。


だが、何故か恐怖を感じない。


そして、疲れも感じない。


何かが自分の心を突き動かしている。


そんな思いを感じながら、勇者は木をずんずんと登っていった。



勇者の胸は、今までに無いほど気持ちが高ぶっていた





登り始めてだいぶたち、やっと、勇者は木の頂上までたどりついた。


そこで見渡す風景は、とても爽快な気分にさせる物だった。


だが、我に返りこんなことをしている暇は無いぞ。と、自分を叱責する。


そして、窓に向かってロープを構え…投げる。



ひっかかった。



別にロープは引っ張りあげればいいので何回も失敗してもいいのだが、勇者は喜んだ。


一発で成功したことではなく、何か自分でも分からない別のことに…


喜びすぎてちょっと落ちそうになったのは勇者の胸のうちにしまっておくらしい。



とにかく、ハプニングはあったが鉄格子にロープをひっかけ終わった勇者は、下に下りた。


そして、下に垂れ下がっているロープをつかみ、上へと上っていく。


やっと窓につき、勇者は鉄格子をつかむ。


そして、力任せに体を窓へと引っ張り上げる。そこにいたのは…



『少女』だった。



背中には妖精の羽が生えている。


それだけで少女が「幽閉された妖精」だというのははっきり分かるのだが…


なぜか少女としか認識しない。いや、できない…のか?


勇者がそう考えていると、日陰がさしたのに気がついたのか少女が顔をあげる。


少女と顔を合わせた勇者は、息を呑んだ。



双黒の瞳が、感情を写していないのだ。



その姿はまるで人形の様だった。


勇者は、少女から目が離せなくなった。


そして…この少女の感情を取り戻したいと思った。



「中身が空の…人形みたい」



勇者は、自身の口を抑えた。


何故、この言葉が出てきたのだろう。普通はもっと、賛辞の言葉じゃないのか!?


勇者は恐る恐る少女を見る。



その瞳には、絶句が写っていた。



何故か勇者は喜んだ。


きっと、絶句という感情でも、この中身が空の人形(しょうじょ)に感情を取り戻したからだろう。


勇者は「またね」と声をかけ、下へ降りる。


勇者が最後に見た少女の顔は、とても晴れやかだった。


***


私は、小さいころから孤独だった。


この塔にはもともとたくさんの私の仲間たち(ようせい)がいたんだけど…


みんな、私を残して逝ってしまった。


ずっと…長い間ここで過ごしていた。


神様から不憫だと言われ、たくさんの本をもらった。


その日から、塔に閉じこもるだけでなく、心までも私は閉ざしていった…



ある日、モンスターが現れた。


しかし、そんな些細なことで、私は揺れ動かなかった。


モンスターは、一瞬魂が飛んだようになり…すぐさまその瞳に欲望の色を浮かべた。


そして私の腕を強引につかみ、私にある魔法をかけた。


解くなんて神様にもらった本がある私には造作も無いことだった。


けれど、私はそれに素直に従った。



もう…ここから離れたいなんて思わないように…自分を縛り付けるために…


だって…ここは、みんなの(お墓)なんだから…



私の感情は、消えた。









何か、私の知らないモノがこの塔に入るのを感じた。


だが、私は特に興味も持たず、持っていた本に視線を落とした。



数時間がたち、何かが私のこの部屋…最上階に近づいてくるのを感じた。


おかしい。そんな感情も抱かず、また本に視線を落と…そうとした。


ふと、何かの視線を感じた。


いつもだったら見向きもしないのだが、何故か見なければいけない気がした。


そして、私は窓の方へ視線を向けた。



『青年』だった。



青い髪色に赤い瞳。普通の青年だった。


だが、その内側にある「心」は透き通っていた。


ボーッ としながら彼を見ていると、いきなり声を出した。



「中身が空の…人形みたい」



私は、絶句した。


何故、いきなりそんなことを言うの?わからない。わからない。


私が絶句している間に、彼は「またね」と言って、いってしまった。


私は、感情を無くして初めて外に出たいと思った。



―――私を連れて行って



そう願った。



―――中身が無い…人形みたい


―――いつか…勇者になるんだ!!


―――待ってて…。必ず…迎えに来るから…××××



大切な何かを…忘れている気がする…。


感情とともに無くした、大切な…宝物(記憶)を…


***


次の日、勇者は少女に会いに行くため、木に登ってロープを引っ掛けた。


一日中掛けていれれば良かったのだが、夜はモンスターが外を見回りしていた。


そのため、見つからないように外さなければいけなかった。


だが、少女に会うためなら苦にもならなかった。



勇者は、昨日の様に少女の元へ上っていった。


少女は、昨日の様に本を読んでいた。


数秒くらい見つめていると、少女がこちらに気がついた。


だが、こちらを見るだけで反応が無い。


ためしに手を振ってみるが、何も反応が返ってこなかった。


勇者はがっくりと肩を落とすが、まだ始めたばかりだ!と気合をいれた。



その日から、勇者のお話会が始まった。



もちろん、聞くのは少女だけ。


そして、話すのは勇者の冒険の旅のお話。


勇者の実話である。


勇者がいるのは、このお話が一区切りついたら。


それ以上はモンスターに察知されそうなので明日に持ちきりになる。


そんな状態が何日も何日も続いた。



だが、成果はあった。



勇者の冒険を聞くうちに、どんどんと感情を取り戻していったのだ。


その証拠に、最近ではよく笑うようになった。



そんなある日…。


勇者はいつも通りに話をしていた。


鉄格子越しだが。


すると、少女が言葉を発した。泣きながら、笑いながら



「ゆ、うしゃに…な、れ、て…よかっ、た。ゆめ、かなえ、た…ね」



ずっとしゃべっていない反動だろうか…たどたどしい口調だった。


それでも、勇者の心は不思議と暖かい…懐かしい感覚になった。


だが、それと同時に、とても不安になった。


少女が、今にも消える。そんな気がしたのだ。


不安になって声を出す。しかし、その声は違う『言葉』となって出てきた。



「シェ、リー?」



突然口をついて出てきたこの『言葉』


なにか…とても慣れ親しんだ名前のような気がする。


そんな名前の人など、会ったこともないのに…


何かを思い出せそう…そんな気がした。


頭の片隅に残る疑問に没頭したまま、勇者は下におりた。


***


最近、よく私に物語を聞かせてくれる彼を見ながら、私は思い出していた。


昔、私は孤独じゃなかったときが一回だけあったのだ。


私の年が両の手で数えられるくらいのとき…



その頃の私は、みんなが死んでしまい、孤独に耐えていた。


どうして置いていってしまったの?私も連れて行ってよ…


それは、まだ小さい私には苦痛だった。


ある日、もう耐えられない。死んで、みんなの元へ逝こう。


そう思って、屋上へ上がるための隠し階段を開く。


これは…もう使われないんだろうな…


そう思いつつも、私は屋上へ行く。



屋上へついた私を待っていたのは…透き通った青空。


でも…私が死ぬのにこの青空は相応しくない。


私が死んだら…この青空が濁ってしまう…


でも、決めたんだ。だから…ごめんね。


私は、死への道を一歩一歩進む。そのとき…



「いまさら、遅いよ」



そんな声がかかった。


「もうこの青空は濁ってる。いまさら君くらいが死んだって意味無いよ」


そう言う、幼い、私と同じくらいの少年の声に、私は振り向いた。


青い髪色に赤い瞳。


そして、とても透き通った「心」。


そう思っていると、少年が普通の顔でいった。



「中身が無い…人形みたいだな」



その言葉に私は数秒唖然とし…怒鳴った


「あなたに何が分かるって言うの!?」


それにびっくりしたようだが、やがて少年の顔は笑みに変わった。


「うん。怒っていても感情がある方がいいよ」


そういって、嵐のような少年は去っていった。



それからずっと、彼はこの場所に来た。


ある時はずぶぬれで。ある時は所々焦げてやってきた。


なにをやってるの?と聞くと、彼は決まって


「勇者修行!!」


と、元気よく言っていた。



そんなある日、私は見てしまった。


(貴重な妖精)を巡って争っていることを。


私は彼に問い詰めた。


「どうして教えてくれなかったの!?」


そういうと彼は困ったように、悲しそうに


「人間の汚い心なんか…みてほしくなかったんだ」


そういった。


…彼は、自分と同じ人間がこんなに汚いと知っているから…私に知らせなかったんだ…


私に、汚い心を見せないために…


じゃあ、私もそうする…


「私を連れて行って」


私は、汚い心なんてみたくなかった。


けど…みてしまったものはしょうがない。


だったら、見えない所まで私を連れて行って?


私は彼に願った。けど、彼は連れて行ってはくれなかった。


「駄目だよ。君は連れてはいけない」


「どうして……?」


「ごめん…」


そういって、彼は後ろを向いていってしまった。この「言葉」を残して…。



「待ってて…。必ず…迎えに来るから…××××」



それ以降、彼が戻ってくることはなかった。


そして…なによりも悲しいことは、あなたが私のために夢を諦めたこと…。


だから、私は彼の生まれ変わり(・・・・・・)に伝えよう。



「ゆ、うしゃに…な、れ、て…よかっ、た。ゆめ、かなえ、た…ね」



私ももうすぐ、夢を叶えるから…。


***


勇者は数日間、彼女の元へ行かなかった。


あのシェリーという名前が気になっていて、これじゃあ彼女に会えないと思ったのだ。


だが、いつまでもウジウジしていては男の名がすたる!


そう考え、勇者は鉄格子の窓まで上っていった。


だが、上った先には…



誰もいなかった(・・・・・・・)



勇者は彼女を呼び続けた。


何故かシェリーという名前をつかって…


そのとき、勇者に悪い予感が走った。


いそいでロープを下り塔の正面の入り口に走った。


悪い予感が当たらないでくれ!と祈りながら。



だが、悪い予感が当たってしまった。



いないのだ…



あの、モンスターが(・・・・・・)



勇者はいそいでシェリー(妖精)を探す。


だが、どこの部屋を探しても見つからない。


勇者の不安が絶頂になったとき…声が聞こえた。


心の内側に響くような声…そんな声だった。


勇者はその声の元へいそぐ。


汚れた心を…シェリーに見せるわけにはいかないから…








勇者は走る   少女の元へ


少女は叫ぶ   助けてくれると信じて


勇者は駆ける  汚れた心をみせないために


少女は呼ぶ   青年の勇者を








勇者が向かった先は地下だった。


シェリーがそこにいる気がしたのだ。


だが、そこにいたのは…あのモンスター。


モンスターは勇者に言い放った。


「お前が最近俺の(妖精)に付きまとっているゴミか」


そういい放ち、勇者を汚いものでも見るかのような視線を浴びせた。


勇者は怒った。


「シェリーは誰のものでもない!シェリーはシェリーだ!」


だが、モンスターはそんな勇者の言葉を吐き捨てるかのように言った。


「ふん!宝に自己はいらない。いるのは価値だけだ」


勇者はそれに怒り、腰に挿していた剣を抜いた。


「ほう…。俺とやろうというのか。ふん!無理な勝負を仕掛けるなんてな」


そういって棍棒を手に持つ。


勇者は素早い動きでモンスターとの間合いを詰める。


だが、そんなことはお見通しのようでモンスターは棍棒を振りかぶり勇者の頭にぶつける。


なんとかかするだけですみ、すぐさま距離をとる。


「そんな技術で俺に勝てると思っているのか」


それからも戦闘は続き…


先に力尽きたのは体力がモンスターより無い勇者だった。


「勝てない勝負を仕掛けたお前がバカだったな」


そういって去っていくモンスター。


勇者は荒い息をはきながら恨めしそうに唇をかんでモンスターの背中を睨み付ける。


「キャアアァァーー!!」


そのとき、シェリーの声が聞こえた。


勇者はいそいでかける。


そこで見たのは…感情を再び無くしたシェリーだった…


「お前……!!」


「お前みたいなゴミがうろちょろしてるから俺の大事な宝が傷つくんだ」


まぁ、これは応急処置で、後でちゃんと直すがな。そういいながら顔を欲望で歪ませるモンスター


「お前ぇぇぇえええ!!」


勇者は向かっていく。シェリーを助けるために。


「ふん!お前なんか相手にならないといっているだろう」


そういって勇者を軽々と投げ飛ばすモンスター。


だが、投げ飛ばしても投げ飛ばしても疲労の色が見えない勇者に不審に思うモンスター


「くっ!お前、何かしたな?」


そういいながらシェリーの頭を鷲掴みにするモンスター


「まあ、こいつの頭をつぶせばすむことだ」


徐々にシェリーを掴んでいる手に力をこめるモンスター


だが、シェリーは痛いとも叫ばない。感情が無くなっているからだ。


勇者は、それをやめさせる為にモンスターの元へ走る。


すると、モンスターはそれを待っていたかのように顔を笑みえ歪ませ…


シェリーを勇者に向けて放り投げた。


勇者が避けてはシェリーにダメージがいくので勇者はシェリーを受け止めた。


だが、そのせいで勇者は壁にたたきつけられ、地面に血を吐いた。


そして、ゆったりとした歩みでモンスターが近づいてくる。


「大人しくしていない宝なんていらない。ゴミもろとも潰してやる」


モンスターは手に持った棍棒を横にふった。


勇者は、せめてシェリーが殺されないように庇った。


きっと大きな衝撃が来て死ぬんだろう。そう思い、勇者は目を瞑った。


だが、いつまでたっても衝撃がこない。


不思議に思って目を開けるとそこには…



倒れたモンスターとその前に立っているシェリーがいた。



見たはずでもないのに勇者は思った。


ああ…。俺はシェリーの手を汚してしまった。と…


シェリーはクルリと勇者のほうに顔を向けた。


その顔は…ひどく悲しそうだった。


「私には…魔法がかかってる。」


唐突に言葉を放ったシェリー。勇者はわかっているかのように顔を歪めた。


「その魔法は、魔法をかけられた者かかけた者が死んだときに一緒に死ぬ魔法」


「その魔法の名は…」


そのとき、勇者の脳裏に一筋の記憶が過ぎる。


なにか…とても大切な記憶。でも、もともと勇者の物でないもの…。


記憶はどんどん過ぎていき、流星のように流れていく。


そして…一つの言葉が勇者の中の「彼」の記憶を揺り動かした。


その言葉は…




「「一心同体(アウテレスト)」」



勇者の記憶が…蘇る…


***


俺は、戦っていた。


シェリーとの約束を守るために。



俺とシェリーが出会ったのは、あの塔だった。


幽閉された妖精がいると聞き、興味本位でいったんだ。


でも、入って見ても中には誰もいなかった。


ただ、誰もいない無数の部屋があるだけ。


帰ろうかな…。と思ったとき、階段をみつけた。


さっきまではなかったのに…。不思議に思いながら階段を上がっていった。



階段をあがった先にいたのは、少女だった。


金色の髪を風に靡かせている少女。


唯一違うのは、その背中に羽が生えていることだろう。



少女は、酷く悲しそうだった…


そして…この世に絶望したような感情の無い瞳を空に向けていた。


俺は、何故かしらないが少女に言葉をかけていた。


「いまさら、遅いよ」と…


俺ですら、何故この言葉を口に出したのかわからない。


俺の口は、俺の意思とは無関係に言葉を紡ぎ出す…。



「もうこの青空は濁っている。いまさら君くらいが死んだって意味無いよ」



それは、この少女が死のうとしているみたいじゃないか。


だが、俺は否定できなかった。


この少女をみていると、本当に死んでしまいそうなのだ。


そう考えると、少女が俺の方をクルリと向いた。


その瞳は、感情も、心も、何も、写っていない様な瞳だった。


否、写っていなかった。


俺は、本心から思った。



「中身が無い…人形みたいだな」



そのとたん、少女の瞳に感情が戻った。


それが、怒りという感情でも。


「あなたに何がわかるって言うの!?」


少女はそういって怒鳴った。


だが、俺としては怒りでも感情が戻ったことに笑みを浮かべていた。


「うん。怒っていても感情があるほうがいいよ」


そういって、俺は塔を去っていった。







俺はその日から、この塔に通うようになった。


その道中、少女を付けねらう輩がいたから、そいつらは倒した。


子供の俺に負けるなんて、その程度だったってことだよ


少女には、絶対このことを秘密にしていこう。


このことを知ったら…少女は俺の手を離れてしまう。


そんな気がする…。


だから、教えない。



それに、俺の勇者修行ってのもあるからね!!








そんなこんなで、俺はシェリーと仲良くなった。


今日は、何故こんな連中と戦っているかって?


それは…シェリーを汚れさせたくないからだ。


俺は、ある日聞いたんだ。


(妖精)を自分の手に。と叫んでいる奴を。


もちろんそいつは俺の手で倒したが、そんな輩が次々と現れる。


そんな奴らにシェリーを渡したら、シェリーは汚れてしまう。


そんな直感が、しかし確かな確信が俺の中にあった。


それに…それを知ったら、シェリーがどこかへいってしまうような気がした。




今日は、その輩たちが手を組んでシェリーを奪おうとしてきた。


そしてその様子をシェリーが偶然…見てしまったのだ…。


シェリーは、俺に問い詰めた。


何故私に教えてくれなかったのか。と…


正直に俺は自分の気持ちを話した。


シェリーがどこかへいってしまうというのを除いて。


シェリーは、納得してくれた。が…



「私を連れて行って」



そんな言葉を俺に言った。


俺が思っていたことが真実になった。


一つ違うのが、俺も一緒ということだ。


何故連れて行ってなのかは分からない。


だが、それは"今"は出来ない。


だって…あいつらがいるんだから…。


だから、俺は君に約束しよう



「待ってて…。必ず…迎えに来るから…シェリー」



そういって、俺はシェリーに背を向けて歩き出した。









俺がふと考えながら戦っていると、一人の魔導師が行動を起こした。


魔導師といっても、呪文の詠唱とかではない。


この世界には、古代の魔法しかいまは残っておらず、それを扱う者も限られているからだ。


古代魔法を扱う者の今回のために数名いるようだが、


雇われただけで怖くて震えている奴の方が多い。


だが、行動を起こした魔導師だけは何故か違った。


つらそうな顔をしながら、でも何故か勝利を確信したような顔。


嫌な予感を感じ、戦いつつもその魔導師から目を離さずにそのまま見つめる。


すると、塔の中から人影が出てきた。


まさかと思いつつ見ると…



そこには、虚ろな目をしたシェリーがいた。



絶句する俺と周囲の人間。


そして肝心の魔導師は…歓喜に満ち溢れていた。


「宝は俺のものだぁ!!」


そう、高笑いする声が聞こえる。


魔導師はシェリーを自分の近くに来させ、魔法をかけ始めた。




あれは…昔シェリーの部屋にある本に書いてあった…。



そう、一心同体(アウテレスト)



その魔法が脳裏を過ぎったとき、俺は剣を放り出してシェリーの元へ駆け出していた。


あれは…駄目だ!!


あれにかかったら、シェリーは本当に幽閉された妖精になってしまう!!


俺は走る。


直前でつくという所で、地面にあった魔方陣が光る。


俺は手を伸ばし…シェリーの肩を思いっきり突き飛ばした。


シェリーの体は魔方陣の範囲からはずれ、壁に頭をうってそのまま目を閉じた。



きっとこれで…さっきのことは覚えていないだろう。



そのとき、地面の魔方陣の光が消えた。


きっと、魔法をかけ終わったのだろう。


この古代魔法は地面の魔方陣の中に入っている者と自分を一心同体


(自分が死んだらかかった相手も死ぬ)にするという魔法だ。


大変な顔をしているんだろうな~と思いながら魔導師を見ると…



絶望に染まった顔をしていた。



まあ、あと少しだったってのに防がれたんだもんな。


当たり前だ。


俺は魔導師に手刀を叩き込む。


魔導師は気絶した。



「さあ~て。跡形もなく、消しますか」



こうして俺は、また戦い始めた。









朝日が昇り、この塔を真っ赤に照らす。


俺の周りには敵だったものがたくさん転がっている。


もちろん、あの魔導師もだ。


まあ、魔導師を倒しちゃったせいで、俺はもう生きてられないけど。


いまだって体が消えかけている。


倒さなければいいんだけど、そしたらまたシェリーが狙われるじゃないか。


まっ、俺が死んでまたシェリーが狙われる可能性もあるが…


また、そのときが来たら必ず助けるよ。


だから…



「必ず…迎えに来るから…シェリー」



たとえ、生まれ変わっても。




その言葉は、風に吸い込まれていった…。


***


勇者が目を開けると、そこにはモンスターの死体だけだった。


もしかして、シェリーはもう逝ってしまったんじゃないか!?


そう思いながら、しかし、まだ消えてはいないと思いながら階段を駆け上がる。


シェリーは上にいる気がする。いや、絶対そうだ。


確かな確信をもってあがる勇者の目の前に…



あの隠し階段があった。



やっぱり。そう思いながら階段を駆け上がる。


そこにいたのは…



消えかけたシェリーだった。



勇者は呼んだ。


「シェリー」


少女はいつものように、昔のようにクルリとこちらを向いた。


自分の体が消えかけているのに反して、少女の顔は、とても嬉しそうだった。


「来てくれると思ってた」


とても澄んだ声。昔と、まったく変わらない声。


勇者は、いつのまにか微笑んでいた。


「ずっと待ってたの。約束を信じて」


勇者の心は、ズキズキと痛くなった。


前世の記憶でも、今まで思い出せなかったのだ。


もっと早く思い出せれば…。そう思う勇者のシェリーは微笑む。


「そんなに自分を責めないで。私も…心を閉ざした私も悪いのだから…」


悲しそうな顔になったシェリーに勇者は声をかけようとする。


しかし、シェリーが声を遮った。


「でも…あなたは来てくれた。忘れても、思い出して来てくれた。それだけ嬉しい」


綻んだ様な笑顔に勇者もつられて笑顔になる。


「だから今度は…私からの約束。聞いてくれる?」


勇者は頷いた。


シェリーは消えかけの力を精一杯振り絞って、泣きながら、しかし笑顔で言う。



「絶対ここに帰ってくるから…だから…待ってて。私の勇者さん」



シェリーは、最後に言う。


「約束よ?」


勇者が頷いたのを確認して、シェリーは青空の中に消えていった。









この主である妖精がいなくなり、塔は崩れ去った。


王様は、勇者の無事を喜び、その功績を称えた。


勇者は、王様にこう報告した。



「妖精はデマ。本当は凶悪なモンスターが住み着いているだけだ」と…



だが、それでもよいと王様は満足そうな顔でいった。


そんな中、勇者一つだけお願いをした。


今まで願望を一つも言わなかった勇者が急に言い出したので、城の者は驚いた。


しかし、勇者も願望ができたのかと、王様は喜んで承諾した。


その勇者の願望とは…










勇者は、この国では英雄になった。


悪いものをやっつけ、たくさんの国民を救ってきた。


だが、いい女はたくさんいたのに生涯一人だったという。


そんななか、ある日突然勇者は亡くなった。


何の前触れもなく…。


たくさんの者が悲しんだというが、その勇者の死に顔はとても安らかだった。


勇者は、あの塔立っていた場所に埋められた。


そこには、勇者の墓ともう一つの墓が並んで立っていた。








『俺の願いは、あの塔の所に俺の墓ともう一つの墓を立てて欲しいんです。


そのもう一つの墓に、名前を彫って欲しいんです。


その名前は――――――
















                             "シェリー"」

ある惑星の


  ある一つの大陸の


    ある一つの大きな国


その国の端っこに、小さな町があった。


その町に、一人の少女が座り込んでいた。


みんな気がついているが素知らぬ顔で素通り。


そんな中、一人の少年が声をかけた。


「何してるの?」


少女は少年に瞳を向けいった。


「あなたこそ、誰?」


すると少年は、まってましたとばかりに胸をはって答えた


「俺は…勇者!!」






青い髪に赤い瞳の少年と


金色の髪に黒い瞳の少女の





この時代での、新たな出会いだった。

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