運命のその先で
だれも信じない、おとぎ話のような本当の話をしよう。俺はいわゆる転生者という奴だ。最近のよっしゃ新たな人生がんばるぞ的なものではない。いや、一度目の転生には確かにそういうことも思ったかもしれない。だって一番最初の人生は、あまりいいものではなかったから。けれども喜んでいられたのも2度目の人生が終わるところまでだ。確かに2度目の人生だっていいところばかりじゃなかった。むしろ1度目の人生よりも過酷な環境だった。けれど多くの人に支えられ、政権をひっくりえし、老後は穏やかに、満足して死んでいった。それなのに。
俺は何度もそんな人生を送っている。
運命が見えるという人間に言わせると、俺の魂にそういう運命が刻まれているのだという。そういった魂を持った人間は、何度も同じ運命のもと生まれてくるらしい。前世の記憶はもっていたり持っていなかったりするようで、なぜか何度も俺の妻になる彼女は記憶を持っていないことが多かったし、多くの仲間たちもおおむねそんな感じだ。だが中には俺も持っていないことがあったという奴がいるので俺もまぁ似たり寄ったりなんだろう。
そんな俺の転生人生だが、必ずといっていいほど存在する人間がいる。本来別に同じ時代同じ世界に生まれる可能性は低いはずなのに。まぁ妻にも言えることなんだが。そして大抵の仲間が5回に1回はいるのだが。
そいつ等は時に仲間として、時に敵として、ある時は手の届かない存在だが、彼らは必ずと言っていいほどその時代の中心にいる。俺の人生のほとんどは戦乱の世を鎮めることにあるらしいのだが、その戦乱を起こす、もししくは悪化させるのがその二人なのだ。これまた運命の見える人間(実はこいつも必ずいる)に言わせると、彼らは別に破滅の運命に生まれてくる訳でも戦乱を引き起こす運命にあるわけでもなく、ただ互いに殺し合う運命にあるのだという。ただその運命に巻き込まれやすい人間が多いと言うだけで。まぁ俺もその一人のようだけど。
そんなわけでまぁそんなわけで。現代(普通生まれた時代が現代ではあるかもだけど、一度目の人生の感覚からここは平成の時代であると言っておく)に新たな人生を送り始めた俺の前に、あの二人。新たな命芽生える季節、桜降る中で、二人は出会ったー。
いや冗談ではなくマジで。高校の入学式で出会った。転生してもある種の波長が出ているのか、最近の生では、あ、こいつそうだわという直感があるのだがこいつ等だけはわかりたくなかった。今回の人生ちょうおだやかと思っていたのに。
ちなみに今回の生は大判振る舞いだった。ほぼ俺の仲間とか敵対してた奴らとか全員そろってるもん。でも大元がいないせいかそこまで険悪じゃない。今回は全員記憶があるらしく、転生してまで前の人生を引きずるのが馬鹿らしいと思える奴が大半である。
そういうわけで、この出会いに全員が戦々恐々としていた。平和が・・・!と今まで戦いに明け暮れていた世界から穏やかな世界に満足していた俺の心が訴えている。けれどこの出会いをなくすことなど出来ない。そう、奴らは出会ってしまったののだ!
ざり、と革靴で地面を踏みしめる音とともに、この間まで中学生をやっていたとは思えない、けれどやはりまだ発展途中の体を学ランで覆った男子生徒がおもむろに近づく。それに相対する側はピンと背筋を伸ばし、ひるむことなく迎えうつセーラー服姿の女子生徒。二組の男女がにらみ合うのを、俺たち転生組ははらはらと見守っている。
下手をすれば核戦争くらい起こるかもしれん。そう思った俺たちは大げさでないほど彼らに巻き込まれてきたのだから。
一歩一歩奴らの距離が近づく。もはや彼らの距離は3歩もない。
男子生徒が口を開く。それを俺たちは固唾を飲んで見守った。
「約束だ。」
そういうと、奴はおもむろに彼女を抱きしめた。
抱きしめた!!!!
抱きしめただと!?
これには全員が驚愕した。息をするように違いを憎み歩くように殺し合う、それが彼らだったのだ。
「迎えにくるっていっただろ?」
「待ってた、何百何千の生を、このときの為に」
熱く抱き合う二人に総ポカンしてしまっていたが、後ほど晴れて恋人になった二人に話しを聞くと、二人とも1度目の人生で一目惚れをしていたが、時代と家がそれを許さなかった。そして最終的には、互いに殺し殺し合う運命に翻弄去れ続けていたのだとか。
しかし。
今回は違った。万の殺し合う運命を終えた時、彼らの運命は薄れ消えていったそうだ。今の彼らにあるのは、そう、ただの現代のバカップルの称号だけだった。
「もう離さない。」
「私だってそうよ」
「他のところでやれよおまえら!」
かくゆう俺は、彼らとの因縁は切れないらしい。
幾百幾千を越えた万の先、ただ、人の人生が待っていましたとさ。