僕は公園で恋をする
ずっと気になっていた。
帰り道の公園にあるベンチで、ずっと動かずにどこかをじっと見つめている君のことが。
「あの、なにしてるの?」
最初のうちは何度話しかけても反応してくれなかった君だけど、最近は視線をくれるようになった。
だからつい、大胆になって
「何か言ってくれるまで、今日はずっとここにいるから」
そう言ってベンチの端にちょこんと座りこんだ。
そうしてじっと君を見つめていたら、君は二時間くらいして漸く小さく息をついた。
「省エネ」
「え?」
初めて聞く君の声は澄んだ水のようで、その声ばかりに気を取られたせいで、何を言われたか解らなかった。
「え?何?」
「後で沢山使うから、今は体力の金庫にエネルギーを貯めてるの」
だから邪魔するなー面倒くさそうに言い捨てて、君はまた物言わぬ地蔵に戻ってしまう。
けれど君の声を聞いて、会話を交わしただけで十分だった。
嬉しくて、嬉しくて、小躍りしそうになりながら家に帰ると、調度お姉ちゃんが出かけるところだった。
「お帰り、緑。あたし、ちょっと二泊三日で旅行に行ってくるからね」
いってきまーす―わしわしと頭を撫でられて、行ってらっしゃいと見送った。
お姉ちゃんのいない部屋で、君の真似をして”省エネ”をしてみる。
だけど次から次へと君のことを考えて、エネルギーはちっとも貯まらないまま、気付いたらぐーすか夢の中だった。
今日も君は、いつものようにベンチにいる。
嬉しくて走り出しそうになった途端、動かないはずの君が、動いた。
飛び出すようにベンチから、一目散にかけていく。
君を同じくらいうれしそうな顔で抱き上げたのは、金色の髪のお兄さん。
「いい子にしてたか?」
頭を撫でられる君は、ちっとも省エネ中じゃない。
あのお兄さんのためだけに、君は省エネしてるんだ。
「あら、緑。なんだか元気ないじゃない。疲れた時には甘いものよ」
お土産の生チョコ食べる?―どこにも行かずにしょんぼりしていると、旅行帰りの楽しそうなお姉ちゃんに抱き上げられた。
包みから取り出された四角い真っ白なチョコレートは、真っ白な君を思い出させる。
「おかーさん、緑に生チョコあげていい?」
猫にチョコなんて、良いわけないでしょ―お母さんの呆れたような声が、ぼんやりした頭に微かに響いた。
【三題噺】省エネ、金庫、生チョコ