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乙女ゲームのチュートリアルキャラに転生。俺、男なんですが!?

異世界にハロウィンを持ち込んだ無自覚転生者へのサプライズ

作者: 松平 ちこ
掲載日:2026/10/31

「本日は快く貸してくださり、ありがとうございます」


「礼には及びませんよ。アディが心ここにあらずなのは、見ていて気づいていましたから」


 学生寮の最上階、ラウンジの入口でセレーヌスが感謝を述べ、ウェルムが微笑んで出迎えた。


「それにしても、生徒会長が授業をサボって良いのですか?」


「三年のSクラスは、今は自習中です。必要なら、これからすることのレポートでも提出しましょうかね。ですが、一年の貴方様にもそのまま返しますよ?」


 セレーヌスは上着を脱ぐとソファに掛け、鞄からナイフを取り出し、片手でくるりと回して微笑んだ。


「ふふ、アディの兄とはいえ、セレーヌス相手にはからかえませんね。私の方は、一年の課程は全て終えてますから。公爵令息としての行動は、学園側から全て黙認されてます」


「アディはあのままで良いんです。感情豊かでも、最低限の公私の切り替えが出来てるので、三男として十分です」


 スパッと言いきり、セレーヌスはキッチンに立つと、付き従っていた侍従から木箱を受け取る。その数、二ケース。


「……ずいぶんと小さいパンプキンも入っているみたいですね?」


「少し肌寒くなるこの時期、昔アディが食べたがったのをきっかけに、領地で栽培してまして、今年は父から私宛に送られてきたんです」


「ああ、アディが入学して領地から出てきたからですね」


 一つ目の木箱の中身は大小のパンプキンに、彩り豊かな野菜と小鍋の中に調味料などが入っていた。パンプキンは小さいもので片手にすっぽりと収まるサイズのものだ。


「食が細いと言っても、昔から食べなれたものなら多少は食べやすいかと思いまして。料理人ではなく、私が作ったものならなおのこと、ね」


「ラウンジのは簡易キッチンですから、設備の意味では厨房や学園の調理室を借りた方がよくありませんか?」


「切って、軽く炒めて、煮るだけのシンプルなものなので、ここで大丈夫ですよ。人の多い厨房で作ったと言えば、アディに食べない理由を与えかねませんし」


 会話をしながら、セレーヌスは手慣れた様子で野菜を洗い、食材の下拵えを進めていった。


「……不思議な切り方をしますね。キャロットですか」


「飾り切りだそうですよ。アディ曰く、星の形だとか。ベースはシチューと同じなのですが、要所要所がちょっと変わってまして……、それも欠かしてはいけない要素だそうです」


「なるほど、アディのこだわりですか。……その切れ端も、何かに使うので?」


「野営なら、可食部は全てスープに入れるものではないですか。ただ、我が家ではこの料理の時には、パンの代わりに焼き菓子を出すので、残ったキャロットはすりつぶしてハチミツと一緒に生地に混ぜ込むんです」


 星形に切ったキャロットと加工で出た切れ端のキャロットが、それぞれ別の器に盛られていく。


「……セレーヌス。焼き菓子を作ると言っても、ここにはオーブンはありませんよ?」


「必要ありませんよ?」


「え? 焼き菓子ですよね?」


「はい。キャロットパウンドケーキですね」


「いや、設備がですね……?」


「昔は……私も確かにオーブンや石窯の代わりに、最低でも土魔法で即席の土窯が不可欠でしたが、今は、鍋さえあれば魔法で補えるようになりました」


「……はい?」


「火と風、無の主に三属性の複合ですね。兄上は火力制御が甘く、生地を焦がしがちで諦めたみたいですが、魔法制御が出来る人ならば簡単ですよ?」


 次の食材へと手を伸ばしたセレーヌスは、ナイフで切りながら、当然のようにさらりと言ってのけた。


「ゆくゆくは鍋も不必要に出来ないかと思っていますが、熱源のコントロールが難しく、少し行き詰まってますね」


「セレーヌスは、やはりアディの兄ですね」


「はい? 何を当たり前なことを仰るのですか?」


 ウェルムが微笑を浮かべたまま、若干頬がひきつっていた。気持ちを切り替えるように咳払いを一つする。


「全員分の夕飯でしたよね。私も調理は最低限出来ますので、セレーヌス指示をお願いして良いですか?」


 寮の最上階に住む人数、おかわりなどの余裕をもってとなれば、そこそこの量になる。


「では、お言葉にあまえて――……」




 ◇◆◇◆◇◆◇




「お、なんかいい匂いする!」


「ウェルム、居ないと思ったらここに居たの?」


「ええ、少し所用がありましたので」


 授業を終えた一行が寮の階段を上って扉を開ければ、いい匂いがラウンジに漂っていた。

 先に入ったフィデスとルナがそれぞれに声をあげ、ウェルムが答えている。


「…………かぼちゃの匂い……?」


「アディ、お帰り」

 

「あれ、セレ兄さん? なんで最上階に?」


 出迎えたセレーヌスを見て、アディは不思議そうに首を傾げた。兄の居室は階下で、最上階に用はないはずなのである。


「おい、アディ! ラウンジがなんかすげぇぞ!?」


「なにこれ、……顔、みたいな?」


「面白いですよね。行程を見ていて、私も驚きましたよ」


 フィデスとルナ、ウェルムの三人の会話を聞きながら、アディはラウンジを見た。

 それは領地の家で毎年行われていて、見覚えのあるものだった。


「……あ、これ……」


「父上と母上から送られてきてね。今年のパンプキンも豊作だそうだよ。今頃、各地の領地の食卓にも並んでいるだろう」


「え、兄上が作ったの……?」


「そんなに意外かい? 毎年食べていたし、冒険者として野営もするからね。調理は一通り出来るよ」


 紫と黒のシックなクロスを掛けられたローテーブルに、料理がいくつも並んでいる。

 テーブルの端の方には、一人一つだと分かる数の小振りなパンプキンが置かれている。中には湯気の立つシチューが入っていた。

 テーブルの真ん中には、大皿に盛った切り分けられたオレンジ色のパウンドケーキ。


 ――ご丁寧に、容器のかぼちゃは顔までくり貫いてる……。シチューのにんじん、星だし。いや、セレ兄さん一人でなにやってんの……?


 家では子ども扱いとして許容できても、学生寮で可愛らしい料理を見ることになるとは、アディは思っていなかった。しかも実の兄の手料理と来た。


「あ、テーブルに保温の付与かかってる? へぇ、すごいね」


「今は、学園に兄上がいますからね。付与の素材には事欠きません。シチューは温かい方が美味しいですし、テーブルクロスに付与魔法を施してみました」


 セレーヌスがルナの疑問に答える。ペタペタと付与を確認するように、テーブルに手を置くルナは楽しそうだ。

 フィデスはパンプキンにご執心で、物珍しそうにしている。


「なんでそんな食い入るように見てんだ?」


「逆にアディは見慣れてるのかよ。俺こんなの食べたことないぞ? これ、入れ物のパンプキンも食べれるのか?」


「いや、かぼちゃなんだから食えるだろ……」


「アディ、私も初めて見ましたよ?」


「ウェルム様も? でも、クストス領では普通に……?」


「ああ、クストス領は行事関係が多いからね。多分国内で一番、かなぁ」


 セレーヌスが、含みのある笑みを浮かべている。アディは疑問符を浮かべるばかりだ。


「――っ!?」


 そこに勢いよく扉が開かれた。現れたのは全身毛むくじゃらの――何か。


「トリック・オア・トリートォォォォ、オオ!?」


「――あ、兄上の声だ」


「あ、ロブル?」


「え?……小隊長?」


「待て待て待て待て、閉めろ、収めろ、危ないだろ!」


 なぜか毛むくじゃらの何かから、長兄ロブルの声がする。全く動かずに呑気な声をあげたアディとは対照的に、剣を抜いて斬りかかったフィデスに、ルナは魔法をいつでも放てるように構えていた。


「えっと、兄上。まさかとは思うんだけど……」


「……お菓子をくれなきゃ、イタズラしちゃうよ?」


 困惑した気まずい空気が漂い始めた中、アディが躊躇いがちに声をかける。

 毛むくじゃらの後ろ、クスクスと笑い声がして、学生服の上に黒マントを羽織ったカリスが現れた。アディへ向けて片手を出している。


「……カリス、何してんだ?」


「カリス様まで……」


「いやなに、ロブルが一応許可を求めてきてね。クストス領の、と言われてもよく分からないから、一緒にいれば面白そうかと思って」


「面白そうって……!」


「いや、小隊長。遊び心がすぎるから」


「兄上、一応生徒会長としての確認ですが、その姿、他の生徒には……?」


 ゲラゲラと笑いながら、フィデスが剣を仕舞った。ルナも構えをといて呆れた顔をしている。

 苦笑を浮かべたセレーヌスが、ロブルへと確認を取った。


「認識阻害を付与してある。物が物だからな。師団長に頼んだから問題ないぞ」


「……うわぁ。口開くんだ、それ」


 口らしきところから、ロブルの顔が出てきた。リアリティが無駄にあるせいだろう。見た目が丸飲みされた何かに見えて、かなりシュールだ。


「アディ。お菓子をくれなきゃ、イタズラするよ?」


「名指ししないでください、カリス様。そんな都合よくありませ……セレ兄さん、グル?」


 ローテーブルに焼き菓子があるな、とアディは気づく。クストス家ではいつも、焼き菓子を差し出していたのだ。聞かれたセレーヌスは横に首を振った。


「兄上が直接何かするとは聞いてないよ」


「弟たちよ、少し考えれば分かるだろう? 臨時教師として着任が決まってから、俺は着々と準備を進めていたぞ?」


「しれっとなに言ってるのかな。誇らしげにしないで、いい歳をした大人でしょう、兄上は」


「うん? そうだな。全員歳を取った。アディも大きくなったからなぁ。リアリティを出して良いかと、コレも実際に狩ってきて加工を施したものだ。よくできていただろう?」


「あぁ、確かに、見せかけだけなら、モンスターそのままだな。気配も殺気もなんにもねぇのに、見た目がリアルだから、思わず剣を抜いちまった」


「……不審者は燃やせばいいかと思った」


 ジト目のアディが一歩引けば、ロブルは腹立たしいことに全く気にしていなかった。

 フィデスが斬りかかった理由を言って、ルナは単純に処理をしようとした行動を明かす。 


「はいはい。話はその辺りにしましょう。全員揃いましたから、食事にしますよ。合言葉には、こちらの焼き菓子を振る舞うことで一件落着だそうなので」


「兄上、そのモンスターの毛皮は脱いで着替えてきてくださいね、人間の姿でお願いします」


 ウェルムとセレーヌスが場を仕切り直すように声をかけた。一同はとくに決めたわけでもないが各々好きに座り始める。


「…………まぁ、ハッピーハロウィン……、でいいのか?」


 苦笑し、戸惑いながら呟いたアディの声は、賑やかな食卓によってすぐにかき消されていた。

もし、この作品を少しでも楽しんでいただけたなら、 ぽちっと応援していただけると、今後の活力になります!


いや、このわけわかんねぇノリの奴らは誰だ!?と思ってもらえたら、本編はこちらです↓

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読んでくださり、ありがとうございました!(*^^*)

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