静謐(せいひつ)
朝。
夏の、八時を過ぎたころの、強い日差しをまとった、さわやかな朝だ。
私は勉強机でうたたねをしていた。
私服。
学校は夏やすみにはいっていた。でも受験生だから、根をつめて勉強をしなければならない。
数学の問題集。ノート。――きのう。
きのうは私の誕生日だった。家が貧しいほうだからか、プレゼントは無い。ケーキも。
私はきのう、十五歳になった。
しかし十四歳から十五歳になったところで、急になにかが変わるわけでもない。
いや、あった。
私が変えた。
――静謐。
きのうの夜、父が帰ってくるなりいつも通りうるさくて、母と口論になった。私は自分の部屋に篭もって勉強をするフリをしながら、両親が互いを口汚くののしり合うのを「なんでこの人たち、結婚したんだろう」と思いながら聞いていた。
けんかが終わったのは一時間ほどが経ったころだった。夜の十一時をまわっていた。
私は水を飲むために台所に行った。リビングには母がいて、「あんたなんか産まなきゃよかった」と、何度聞いたか知れない呪詛を私に向かって吐き捨てた。そこから八つ当たりと愚痴がはじまる。
私はてきとうにあいづちを打って、自分の部屋に引っ込んだ。卓上のカレンダーを見たら、今日の日付に華丸が描いてある。私の誕生日だ。
なぜ私は毎年毎年、だれに祝われることもない日にめでたいマークをつけているのだろうと不思議になった。
深夜一時。
私は両親の部屋をそっと開けた。どちらも眠っていた。
けんかばかりしているのに、寝るときは父も母も同じ部屋なのだから、あきれるやら滑稽やら、ふっと笑いが漏れる。
私の手には包丁があった。
それで私はふたりの喉を突いて殺し、心の安寧と静寂を手に入れた。
※このものがたりはフィクションです。
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