22話 最強の魔王
「その人って1人で魔王軍を壊滅させた獣人の勇者ですよね?」
《うむ。獣人と他種族の関係が壊れたきっかけとなった勇者じゃ。》
獣人は、同族のバハルの強さに調子にのって、他の種族を見下した結果、戦争になって獣人は敗北。
以後、獣人は他種族より下に扱われてる。
「正直言って、あの話だと獣人は自業自得だと思ってしまいました。」
《そうかもしれぬ。じゃがな、お主には分からないかも知れぬが、普通の獣人は力を信奉する種族。そしてバハルは強過ぎた。仕方ないところもあるのじゃぞ?それに今の獣人には罪はない。》
おれの中身は獣人じゃないから、理解できてないところもあるか…
今の獣人に罪がないのは同感だ。
カギルだって今を必死に生きてるだけ。
「それで、それがオルビスの危機とどう関係するんです?」
《魔王システムがバランスを保とうとしておる》
「システム?」
《定期的に魔王という共通の敵を生み出し、協力して倒させることで、種族間の仲を保つシステムじゃ。そうでもしないと皆、勝手に争って滅亡へ進んでしまうからの。》
あー。
地球でもあったなあ。
外国を仮想敵国にして煽って、簡単に国民をまとめるやり方。
神様の場合は本物の敵を作れるのか。
《基本的には6種属全てが協力しないと倒せないほどの魔王になっておるのじゃが、バハルの時は勇者が強過ぎた…》
メルティス様によると、
バハル以降、他種族から選ばれた勇者が、獣人の勇者ごときに負けるかと1人で魔王軍に特攻する例が頻発したらしい。
他にも獣王国からの支援だけ突っぱねたりする勇者もいた。
信託で諭しても、中々言う事を聞かない。
そういった勇者は全滅している。
そしてメルティス様が後始末で魔王を消滅させて来た。
《じゃが、われは力を使い過ぎた》
ついにメルティス様は、魔王を消滅させる干渉を創造神様に禁止されてしまったらしい。
《そして今、バハルの時の返しが起きておる》
「返しですか?」
《うむ。そろそろ強すぎる魔王が生まれる。》
うわあ…
「…魔王軍に支配されるとオルビスの世界そのものも終わってしまうんですか?」
《うむ。魔王は破壊の意思が強い。じゃからこそ、魔王は全ての種族の敵となり協力して倒すしかないのじゃ》
全ての種族の敵か…
「魔族は困らないのですか?」
《魔族は自壊すら望んでおる。彼らは創造神様が創った種族ではない。負の感情と、魔力が集まって産まれる存在じゃ。始めは共通の敵として認識されておったのじゃが…彼らにも知性があるからの、別の大陸を占拠してそこに引きこもり始めたのじゃ。》
「共通の敵として機能しなくなったと…」
《うむ。それで仕方なくあやつらの中でも他の魔族を従える強さと、負の感情の中でも、破壊の意思から生まれた者に魔王のスキルを与えるシステムを構築したのじゃ。そうすれは必ず別の種族へ侵攻するからの》
「たしか、Aランクに天才的に魔法が使える獣人がいるらしいですけど、それでも足りないんですか?」
《残念ながら足りん。それにじゃ、もしバハルに匹敵する勇者が現れてもそれもまた歪みになる。またどこかで強過ぎる魔王が生まれる。どこかでシステムは破綻するじゃろう。》
強過ぎる魔王を倒したいが、強過ぎる勇者に頼ったら、同じ事の繰り返し…
メルティス様の助けも、もう来ない…
うん。
詰んでるな。
「ところで。犬獣人には戦闘力はないんですか?」
《勇者になりたいのか?》
「いえ、そんなんじゃないです。ただ立派な獣人になりたくて、色々な人に恩も返したいですし。」
《犬獣人でも強くなれるぞ。ただ犬獣人はわれがちょっとカスタマイズしただけじゃ…》
「カスタマイズ?」
《うむ。一時期犬獣人に特有の病気が蔓延しての。凶犬病と言うんじゃが、それから救うためにわれが干渉したのじゃ》
「あの、どんな風に干渉したんですか…」
《まず病気に強く頑丈な身体にして、》
ふむふむ
《生き残れるように五感を少々強化して、》
なるほどね
《皆から愛されるようにラブリーな見た目に変更して、》
ん?
《例えば体毛はピンクや水色、オレンジ、虹色。》
おいおい!
《ふわふわで撫で心地も最高にしたのじゃ!》
「メルティス様の趣味が出過ぎ!!」
《いいではないか!おかげで犬獣人はちゃんと生き延びたのじゃぞ!》
「まあ、そうかもしれないですけど…」
《性格を捻じ曲げるような事だってしておらんぞ?犬獣人達は元から協調性が高く、優しい種族なのじゃ》
「うーん。」
それなら許容範囲なのかな?
《当時の犬獣人の代表にも許可を得てある》
「あ、本人の許可まで得てるんですね。」
《無論じゃ。それに戦う力は奪っておらん。頑丈になった代わりに、毛色が派手になって潜伏はしずらくなったがの》
「わかりました。じゃあ、自分なりに頑張りたいと思います。」
《うむ。無理はするでないぞ?》
リーナさんみたいな事言われたな。
「あと、ヘルプさんの事なんですけど…感情ってあるんですか?」
《感情か?うーむ。魔法で作られたAIのようなものじゃからなあ。正直わからぬな。それにお主にとっても、ヘルプにとっても感情があるかどうかは重要ではあるまい?》
「どういう事です?」
《感情があろうかなかろうが、お主はすでにヘルプを大事に扱うつもりであろう?》
「まあ、確かに…」
《ヘルプよ、お主もどちらにせよ、ユウキを守るつもりなのじゃろう?》
《はい。その通りです。》
「ヘルプさん!」
《うむ。なら問題ないのじゃ》
「分かりました。」
《ヘルプもユウキを頼んだぞ?》
《お任せください。ところで主様。》
「ん?なんだい?」
《ヘルプさんではなく、何か別の呼び名が欲しいのです。》
「呼び名か…」
《はっはっはっ!これは感情が宿ってそうじゃなー》
「ですよねー。ヘルプ…ヘルさん?は地獄っぽいな。ルプさんはどう?」
《かしこまりました。以後私はルプさんとお呼びください。》
「分かったよ。」
《主様は主様で問題ないでしょうか?》
「そうだな…問題ないけど、ちょっと恥ずかしいな。」
《では、ユウキ様では?》
「その方がいいかな。あと敬語は崩せない?」
《崩せますが……それでいいの、ユウキ様?》
なんか。すごい印象変わるな!
《われの声で言われるとなんか恥ずかしいのじゃが!》
《どうしますか?》
「…しばらくは敬語で…」
《わかりました。ユウキ様。》
《うむ。それでルプよ、お主は何か聞きたい事はあるか?まだ少し時間があるぞ?》
《ユウキ様は世界を救えるのでしょうか?》
どストレートで来たなぁ
《分からん。運命までは読めぬからの。じゃがバハルはシステムを破った。つまり、われの予測する未来も確実ではない》
「なるほど。分かりました。メルティス様の予測を破れるように、後悔しないように頑張ってみます。」
《ありがとうございます。》
《うむ。それぐらいの気持ちでよい。お主もこの世界の住人も、自由に生きればそれでよいのじゃ。お主達が自由に生きたうえで、世界を存続するように上手く管理する事こそ、われらの役目なのじゃ。そろそろ教会へ返すぞ?》
「はい。」
《次に会うのは、精神力がSになった時じゃな》
「分かりました。それではまた〜」
最後に《もうひと撫で》とか言いながら、撫でられて、おれは教会へ帰された。
反応などいただけたら幸いです。
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