20話 犬と狼
「悪食のゾンビ狼よ、お前に話がある。」
いきなり悪口言われたぞ?
なんだこのおじさん。
《悪食のゾンビ狼は主の2つ名前です。》
くっ知ってるよ!
もう手遅れかもしれない…
「指名依頼?ユウキ君にですか?」
「セロン君か、B級昇格おめでとう。その通り。私はそこの悪食の…」
「ただのユウキでお願いします!」
「…そこのユウキ君に依頼を出したい。」
「どんな依頼ですか?」
「ここでは言えない。領館へ来て貰いたいのだが。」
「群狼の件がゴタついていまして…いったん片付けた後でもいいですか?日が暮れる前には向かえると思います。」
「構わん。群狼の安定はこの街に必要だ。守衛には伝えておこう。悪」
「D級冒険者のユウキが行くと伝えておいてください。」
「ふふふ。分かったよ。」
領主のおじさんは、こっちが目的でゲストとして来ていたのかもな。
「なあ、ユウキ。そんなに2つ名が嫌ならパーティでも組んだらどうだ?」
「パーティですか?」
「あぁ、パーティを組めば基本はパーティ名の誰々って言われる。例えば"森の木剣のセロン"とかな。まあ、おれみたいに個人で動いてたり、二つ名が有名になり過ぎたら無駄だけどな。」
なるほど…パーティか。
良い考えだ。
ただ…
「さすが師匠!でも僕は群狼以外に仲間になりそうな冒険者がいませんよ?」
「ならスカウトだろう。」
…おれのスカウトに答えてくれる冒険者なんているかな?
おれはD級だけど、新人だし2つ名は悪食のゾンビ狼だぞ?
スカウトして断られたらショックだし。
「考えておきます…」
話を終え、カギルの元へ向かう。
ガチャッ
カジルはまだ眠っているようだ。
「どうでしたか、僕の決闘は?」
おれはカギルに、カジルとの決闘の後に群狼の今後を決めるように命令していた。
「やはりユウキには群狼は任せられない。」
「そうですか。」
始めから返すつもりだけど、ちょっと意外だ。
カギルは狼獣人の伝統を守る男だ。
力を示しせば、群狼を任せてくる決定を下すと思っていた。
「お前は強い。おれよりも、カジルよりも。」
以前ならともかく、今のおれはそうだろうな。
「ただな、いくら強くともお前に群狼は任せられない。お前みたいな甘い奴が群狼を率いていたら街の外に出たら皆死んじまう。この街は特殊だ。アーサーがいて、おれもいる。セロンも他種族を差別しない奴だ。だが他の街は違う。強いだけじゃ獣人は生きていけない。」
おれはこの街以外の獣人の待遇を知らない。
そんなに酷いものなのか?
「この街で産まれ育ったお前には分からないだろうがな。」
あぁ、そう言う設定だったな。
「外はそんなに酷いんですか?」
「セレーナ王国でこの街が一番獣人に甘い。少なくとも、この街以外に獣人が自由に子供を産める所なんておれは知らない。お前みたいな自由に生きてる子供なんて、他の街じゃいないぞ。」
それほどか…
「…おれはな、あえてC級依頼をミスったんだよ。」
「え!」
おれも不思議だったんだ。
最近分かったが、カギルやカジルは決して馬鹿じゃない。
セロンさんや師匠も、カギルに対してある程度の信頼があった。
群狼達もだ。
しかも、ミスったのに誰も死んでない。
「炭鉱奴隷は危険な職だ。怪我人が出れば真っ先に捨てられるのは獣人だ。だが救いたくても普通は奴隷の引き抜きは出来ない。が、上級冒険者パーティになれば言い訳次第で強引に引き抜ける。例えば、皆んながボロボロで、駒不足で引き抜くしかないって状況とかな。」
だから、全員を無理矢理戦わせて、死なない程度にボロボロにしていったのか?
おれをボロボロにしてまで仲間に入れようとしたのは、おれを助けるため?
「この事はおれとカジルしか知らない。」
どうりで、カギルの攻撃がおれの首に行った時、人一倍動揺してた訳だ。
「カジルのことは許してやって欲しいんだ。おれもそうだが、本気でヤリに行っても、お前なら絶対に生き残るって直感があったんだ。」
「構わないですよ。実際そうですしね。」
ヘルプさんがいるからな。
「ユウキ、恥を承知で頼む!群狼をおれに返してくれないか?これまでのような無茶はしないと約束する!奴隷になったっていい!」
そう言ってカギルは床に頭をつけた。
「事情は分かりました。群狼はお返しします。というか、始めからあなたが復帰したら返すつもりでした。奴隷も結構です。」
「そうなのか?ずいぶん積極的にいめちぇんとやらをしていたみてぇだが」
うっ。
本当はちょっと楽しかった。
「仕方なくですよ。」
「そうか。本当にいいんだな?」
「はい。よろしくお願いします。」
「任せてくれ。と言いたいところなんだがよ、お前は強さを示し過ぎた。皆んなおれよりユウキの力を信頼してる。厚かましいが、お前が群狼のリーダーのまま、おれをリーダー代行にするってのはどうだ?」
「いいですよ。僕もだいたい同じような計画でした。」
カギルがおれにリーダーの座を譲った場合は、そうするつもりだった。
「今回は僕も甘かったです。反省してますし、僕も名でよければ使ってください。」
おれも頭を下げた。
(知らない事が多過ぎた。半端な覚悟で勝ってしまって事が大きくなった。すぐに頭を突っ込まないように反省しないとな。)
「おいおい、リーダーが頭を下げるなよ。」
「そう言う訳にはいきません。僕は自分に非があると思えば頭を下げます。それがダメならリーダーは辞退します。」
カギルの傲慢な態度は、狼獣人を守るためなのかもしれない。
ただそのままじゃ、いつまで経っても獣人の立場が改善しない。
実際、他の冒険者の黒の群狼へのイメージはかなり悪かった。
おれはこの街の事しか知らないが、この街では傲慢な態度を取らなくたって獣人は受け入れて貰える事は身をもって知っている。
カギルは良くも悪くも他の街の事を知り過ぎていて、ここでも同じような態度を取ってしまった。
「頭を下げたいからリーダーを辞退する?!はぁ…分かったよ。ただ、力に屈して下げたりしないでくれよ?」
「分かりました。約束します。それじゃあ、他のメンバーにあなたに群狼を一任すると伝えておきますね。他の冒険者に迷惑をかけないように注意してくださいね?」
「任せてくれ。」
教会の群狼達に報告してこよう。
ついでに女神様にも…
反応などいただけたら幸いです。
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