16話 白の群狼
前の扉から礼拝堂に入る。
50人を超える狼獣人達が集まっている。
一気に集まる視線に圧迫感を覚えるが、負けていられない。
リーナさんも、アーサーさんも凄いな。
全然、物怖じしてない。
いったん心を落ち着けるために女神像に祈る。
まだ精神力がAになってないので、女神様と話すことはできないが、女神様は全ての種族を見守っているという。
(もう仲間を傷つけたりしない群狼に生まれ変わらせたいんです。どうか見守っててください。)
⦅…⦆
よし、ちょっと落ち着いた。
もしかしたら、石像にも癒しの効果があるのかもな。
もうひと頑張りだ。
「みなさん、お集まりくださりありがとうございます。僕はユウキです。先ほどカギルを倒した者です。」
「本当なのか?」
「あんな子供が!」
「カジルさんの話だと、ボロボロのはずじゃあ…」
「鎮まれ!」「礼拝堂ではお静かに願います。」
アーサーさんとリーナさんの声で静かになる。
「カジルさん、僕がカギルに勝ったのは事実ですね?」
最前列のど真ん中に座っていたカジルが立った。
「みんな、残念ながら、こいつが言ってる事は本当だ。」
こいつ、ねー
また群狼達が少しザワつくが、アーサーさんの睨みですぐ静かに戻る。
「カジルさん、僕は正々堂々とカギルと闘った。何か文句でもあるんですか?」
「カギルは怪我を負っていた!無傷なら確実にお前なんかより強い!」
「そんな言い訳が通用するわけないでしょう?」
「何だと!」
「あなた達は、これまで相手の条件なんて無視して、問答無用で闘いを仕掛けて従えて来たんでしょう?僕の時だって決闘を申し込んで来たのはそっちだ。」
「ググッ」
「皆さんいいですか?僕はカギルから群狼を預かるよう頼まれました。そして僕はカギルから正式に黒の群狼を受け継ぎました。」
「その話はおれも横で聞いた。ギルドが保証しよう。今の黒の群狼のリーダーはユウキだ。」
「「「おー!」」」
え、そこは喜ぶんだな。
やっばり狼獣人にとって、強いリーダーというのは必要な存在なんだろうな。
苦々しい顔をしてるのはカジルだけだ。
「僕は新たな群狼のリーダーとして宣言します!黒の群狼は、白の群狼に名を改め、今後暴力による勧誘や、依頼の総取りは禁止します!」
群狼には、ホワイトな群れに生まれ変わってもらう。
「「「わー!」」」
盛り上がる狼獣人達。
なんて言うかアレだな。
すごく単純な種族だ…こりゃ頭の切れるリーダーが必要とされる訳だわ。
「待て!」
「何ですか?カジルさん?」
「依頼の総取りは群狼の維持に必要だ!止めればおれたちは飢える事になる!それにギルドのルールにも抵触してない。止める必要などない!」
「これは群狼だけじゃなく、獣人全体のために必要な事です。それにリーダーの命令は絶対なんでしょう?」
獣人に奴隷が多く立場が低い原因は、かつて他種族を軽んじたからだ。意識改革は必須だと思う。
獣人の意識改革と立場向上。
それが、今おれができる最善だと思う。
「うっ」
「それに群狼は飢えさせません。白の群狼には狩猟だけじゃなく、探索と採取も行ってもらいますから。」
「そんなの、おれたちに出来る訳が…」
「おれは資格持ってないぞ?」
「おれもだぞ。」
「大丈夫、出来ます。森の木剣のニーナは採取のD級だし、僕だって採取と探索の資格を持ってる。狼獣人は鼻が効くし穴を掘るのも得意だ。この中にだって何人か資格持ちがいるでしょう?まずはその人に教えて貰いながら技術を身につけてもらいます。」
群狼のメンバーはほとんど狩猟以外の資格を持ってないが、ゼロじゃない。
そのメンバーに教えて貰いながら技術を身につけ、広めていけばいい。
この街は基本的に狩猟に偏っていて、採取、探索の依頼は常に余り気味だ。
困ったらニーナもいる。
「待て!」
「今度は何ですか?カジルさん。」
「資格を取って依頼をこなせるようになるまでには時間がかかる!それまでどうやって食っていけばいい?こっちには怪我人だっているんだぞ!」
言い方はともかく、当然の疑問だな。
というか、そこにいたらない他の狼獣人達がちょっと心配になる。
今までカギルに絶対服従で、任せっきりだったんだろうな…
「それなら、
「それは僕が受け持つよ。1週間で採取のF級までは上げてみせる。ニーナを教育した経験もある。」
「セロンさん!」
こっちでも対策を考えていたけど、セロンさんが協力してくれるらしい。
「教会もしばらくは受け入れるわよ。ただし!毎日の礼拝と、教会と孤児院の掃除、水汲み、洗濯、料理はしてもらうけどね。」
「リーナさん…2人ともいいんですか?」
「大丈夫だ。これぐらいはしないと僕が納得出来ない。すでに森の木剣のメンバーからも君を助けるために動く了承は得ている。その代わり…僕がB級になる事も飲まされたけどね。」
「私は元から助けるつもりだったわ。しかも、この人達ってユウキ君に絶対服従なんでしょ?なら安心して孤児院の仕事も任せられるわ。」
「セロンさんも、リーナさんも、ありがとうございます。」
ありがたい。
最悪、おれが皆んなのために馬車馬のように働く覚悟を決めていた。
おれなら疲れるまで採取→狩りでレベルアップ→疲れるまで採取→狩りでレベルアップ…を繰り返ば、疲れ知らずでしばらく働き続けられるのだ。
「お前達!リーダー命令だ!お世話になっている間、森の木剣とリーナさんの指示に従え。孤児院の子達には優しく接しろ!」
「「「分かりました!!」」」
よしっ。
これで大体片付いた。
あとは、この男だ。
「おれは認めないぞ!お前はカギルさんより弱い!黒の群狼のリーダーに相応しくない!」
もう黒じゃなくて白だっての。
「はぁ…そろそろ身の程をわきまえてくれませんか?カジルさん。いや、カジル。」
「何だと!」
「じゃあ、こうしましょう。カジル、あんたに決闘を申し込む。」
「なに!」
カギルとも話し合った結果、これが一番だとなった。
カジルはカギルの信奉者だ。
長年カギルの強さを見て来た。
万全のカギルはおれより強いと分かっているから、おれに従わない。
それにカジルは群狼のNo.2。戦闘力でもD級冒険者の上位レベルらしい。
万全じゃないカギルになら勝ってもおかしくない。
つまり、おれとほとんど差が無いどころか、負けてもおかしくない相手だ。
カジルがおれに決闘を挑まない理由は1つ。
今カジルまで倒れたら群狼が完全に崩壊してしまうからだ。
「いいんだな?」
「僕もカギルとの戦闘で消耗していますから、決闘の日は1週間後でどうです?まさか、尻尾巻いて逃げたりしませんよね?」
カギルの敗北を怪我を理由に受け入れないんだから、おれの提案は断れないはず。
「当然だ!受けて立つ!」
よし。これで全部整った。
反応などいただけたら幸いです。
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