14話 アンデット犬
カギルは、姿勢を低くして四足獣のような体勢で飛び込んで来た。
速い!
剣筋どころか、踏み込みすら見えない!
気付いた時には足元から、「狼牙」と聞こえていた。
極限まで感覚が研ぎ澄まされ、脳がカギルの体を捉えた。
はやく動け!
ゆっくりと時間が流れる中、必死に体を動かしてカギルの方を見る。
覚悟の決まった顔だった。
メルさんに絡んでいた時と全然違う。
コイツ、こんな顔が出来るのか。
おれを叩き殺してしまえば、試合は反則負けでも、勝負には勝ちだ。
強ささえ示せば狼達は着いて行く。
背筋が凍って体が動かない。
おれは覚悟が足りてなかった。
殺される!
そう思った。
《オートモードに移行します。》
聞こえた声に安堵し、おれは意識を手放した。
ーーーーーー
目を覚ます。
以前にも運ばれた訓練場横の休憩室だ。
外は…夕方か。
全身が痛い。
痛いと言う事は命があると言う事だ。
おれは生き残った!
「起きたかユウキ?」
「え、アーサーさん?」
「おう。カギルにぶった斬られたって聞いて、さすがに慌てたぞ。」
「ユウキ君!無茶しちゃダメって言ったのに!!」
「リーナさんも!?どうしてここに!?」
「おれが呼んだ。重症だったんでな。今この街で一番優秀な治癒士だ。まさか知り合いだったとはなぁ。」
「以前、教会の前で生き倒れるところを助けて貰ったんです。」
「なんだそりゃ?あー以前言ってた命の恩人ってシスターの事だったのか。」
そういえば探索試験の時に口走ったかも?
「僕ってそんなに重症だったんですか?」
「やっぱり覚えてないか、ということは自動防御が発動したんだろうな。 お前は狼牙で左手が切断され、お腹もバッサリ。ついでに右手もズタボロだった。」
「なっ!」
慌てて自分の体を見る。
「安心しろ、全部くっついてる。傷もほとんど残ってないはずだ。」
よ、良かったぁ…
ヘルプさん、ありがとう。
《…。》
ん?
あ!
「カギルはどうなったんですか?」
「あいつは殺し技を殺意を持って放ったとして、ギルドでしばらく監禁する事になった。お前と話がしたいそうだぞ?どうやらお前が死ぬとは微塵も思ってない様子だったな。」
群狼の今後についてだろう。話したくないなぁ。
「ユウキ君、約束破ったね?」
「ごめんなさい。」
「はぁ。無茶する子だとは思ってたけどこんな早くとはね〜。」
「ユウキ、シスターにもだが、森の木剣の奴らにも感謝しろよ?あいつらは持ってた最上級ポーションを全てお前に使ったんだからな?」
たしか薬屋で売ってたのはめちゃくちゃ高かったはずだ。
やばい!
どんどん借りが増えてる!
リーナさん、アーサーさん、武器屋に加えて、森の木剣まで。
「分かりました。セロンさん達は今どこに…」
「ニーナの見舞いで教会に行ってるぞ。」
「教会?」
「カジルさんって人が訪ねて来てね。カギルさんが動けなくなっちゃって、傷を負ってた狼獣人達の治療費が稼げなくなったから、どうか教会で預かって欲しいって。」
ひぇ、またリーナさんに迷惑が…
「おかげで毎日礼拝堂も獣人達でいっぱいよ!」
「そ、それはおめでとうございます!」
これはトントンでいいかな?
さて、カギルと森の木剣、どっちを先に済ませようか…
「あ、カギルなら隣の部屋にいるからすぐ会えるぞ。」
「え?」
「あいつも重症だったんでな。ついでに治療してる。」
「カギルも重症?」
どういう事だ?おれの攻撃なんてほぼ当たってなかったぞ?
「それも覚えてないのか。セロンの話じゃあ、お前は左手と腹で狼牙を受けた後、右手でカギルを滅多打ちにしたらしいぞ。」
「なっ?!」
ヘルプさんがカギルを滅多打ちにした??
「セロンが止めなきゃ、カギルは死んでたかもしれないと言ってたぐらいだ。」
「ほんとに無茶するんだから!!」
「先にカギルに会います。」
カギルの部屋はすぐだ。
「失礼します…」
ガチャ
カギルはボロボロだった。
これを…おれがやったのか?
ヘルプさん?
《…》
後でじっくり話そうか。
《かしこまりました。》
まずはカギルからだ。
「…ガキか」
「…」
「…」
気まずいよ!
何か喋れよ!
お前が話したかったんだろう?!
「すぅ…おれの負けだ。おれはお前を殺す気で狼牙を放った。お前は狼牙を受け止め、さらにおれを殴り倒した。試合にも勝負にも負けた。完敗だ。」
おれが倒したと言っていいのかなあ。
それにしても、やっぱりおれの事を殺そうとしたのか。
アーサーさんとリーナさんから強烈な殺気が出てる。
「うっ…ニーナは解放した。それで…群狼の次のリーダーをお前に頼みたい。」
「お断りします。ニーナさんの解放と、依頼の制限だけで十分です。」
「なぜだ!!」
そんなに驚く事なのか?
「お前は力を見せた!群れのリーダーになれるんだぞ??何が足りない!」
「落ち着けよ。カギル」
アーサーさんがカギルを静める。
狼獣人にとって、群れのリーダーはそんなに重要なものなのか?
なら、なおのことおれには無理だ。
それに…
「僕の理想の群れ…パーティはそういう形じゃないってだけです。」
あんなブラックな組織も、付き従う子分も欲しくない。
「…分からねぇ…」
「なので、黒の群狼は引き続きカギルさんがリーダーをしてください。僕の命令には絶対服従なんですよね?」
「…分かったよ。だが、それはみんなの前で宣言してくれ。おれは負け犬だ。ガキの…ユウキの宣言がないともう誰も着いて来てくれないだろう。」
そうかなぁ?おれに負けてもカギルに着いて行きそうな人がいた気がしたけど…
あと、「負け犬」って言葉あるのかあ。
なんかやだなあー。
「それと、いくつか条件をつけます。」
「…従おう。」
追加条件について少しカギルと話をして、おれとアーサーさん、リーナさんは教会へ向けて出発した。
〜〜〜
教会に向かう途中、アーサーさんが話しかけて来た。
「それにしてもお前のタフさは異常だぞ。」
「アーサーさんのおかげです。」
「おれの?」
「足さばきを参考にしました。」
「なるほどな。ユウキ、いちおう聞くが、お前アンデットじゃねぇよな?」
「はい?」
「かなり深い傷を受けてたのに出血が驚くほど少なかったからな。野次馬どもはお前のことを本気で吸血鬼かと疑ってたぞ。」
また新しい噂が!
「何でそんなデタラメが…」
「身に覚えはないか?
アンデットは斬撃に強い。毒や麻痺、眠りなんかの状態異常も効かない。完全に壊れるまで動いて血もほぼ流れない。おまけに高位の吸血鬼はポーションが効かない。…しかも、教会の前で倒れてたらしいな?」
驚くほどぴったり!
「違いますよ?僕は頑丈なだけの…狼獣人です」
チラッとリーナさんを見る。
「あ!安心して?私はユウキ君が犬獣人だって知ってるから。」
「気付いてたんですか?!もしかして最初から?」
「ちょっとおかしいと思ってたけど、確信したのは今日ね。
最初に教会に運んだ時から毛がフワフワだったからおかしいと思ってたけど、今日たくさんの狼獣人達を治療してる時に全然毛質が違うって気付いたわ。」
「ま、そうそうバレないさ。おれも犬獣人の冒険者は聞いた事がない。メルとの会話も聞かれてないだろうしな。」
あー、受付嬢達の殺気がすごかったからなー。
「アンデットならシスターと仲良しなのもおかしいし。何もしなければ噂も落ち着くだろう。」
それは群狼の件で無理そうなんですけど…
反応いただけたら幸いです。
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