12話 黒の群狼
今、おれはちょっと離れた場所から依頼ボードを眺めてる。
あれは戦争だった…
起きてすぐ依頼ボードに直行したところ、集まっていた他の冒険者達に揉みくちゃにされて、依頼を取るどころじゃなかった。
おれ、アーサーさんに褒められて調子に乗ってた…
おれのステータスはレベルにしては高いけど、上もたくさんいるって知れて良かった。
落ち着くまでは安全な場所から見てよう。
あの人達は下位の依頼は受けないだろうしな。
あと、上の方の依頼は物理的に手が届かなかったからイスも用意しよう…
実際は、依頼争奪戦に参加するのは各パーティの猛者達であり、それほどの強者が他にもたくさんいる訳ではないが、ユウキは知る由もない。
眺めていると、後ろから声をかけられた。
「君、黒の群狼のメンバーかい?」
人間の冒険者だ。
「違いますよ?ソロの冒険者です。お兄さんは?」
名前は名乗らないでおこう。
悪食のユウキを知ってたら落ち込む。
「間に合ったか!おれは森の木剣のリーダーをやってるセロン。採取のC級冒険者だ。」
C級冒険者!アーサーさんと一緒だ…
けど採取が中心だからか、圧は感じないな。
もしかしたらおれよりステータス低いかも。
「何の用ですか?」
「君、狼獣人だろ?ここから離れた方がいい。群狼の連中に見つかると巻き込まれるよ。」
「巻き込まれる?」
「彼らは最近C級パーティになったんだけど、調子にのって依頼をしくじって離脱者を出したんだ。それで今は狼獣人狩りをしてるのさ」
「狼獣人狩り?群狼のメンバーも狼獣人なんですよね?」
「だからこそさ。君たち狼獣人は戦って負けた相手の言う事を聞く慣わしがあるだろう?群狼の連中は狼獣人の冒険者に無理やり決闘を挑んで、屈服させて人員を補充してるのさ。」
マジか…群狼は人数が多いって聞いたけど、そうやって人数増やしてるのか…
ま、おれの中身は人間だし、負けても屈服なんてしないけどね。
「いまやタカンの狼獣人の冒険者はほとんど群狼になってる。だからもう補充が上手くいかなくて、他のパーティや浮浪者まで集めてる。君を見たら確実に挑まれる。彼らは朝イチから少し遅くれて来るからしばらく隠れていた方がいい。」
「分かりました!ありがとうございます。」
黒の群狼は迷惑なパーティのようだ…
犬獣人は何かと注目されるし、おれは今後狼獣人と勘違いさせて行こうと思ってる。
だから、この街の狼獣人の評判を下げられるのは困るんだが。
「いいってことさ。実はうちにいた狼獣人のニーナが強引に引き抜かれたんだ。ニーナは鼻も耳も良いし、連携も上手いから助かってたんだけど…決闘を挑まれて、負けて連れて行かれたんだ…君も気をつけるんだよ。」
想像以上に酷いパーティだな。
「ギルドは取り締まらないんですか?」
「負けると序列が出来て従うってのは狼獣人の昔からの慣例だからね…なかなかギルドも口を出せないと思う」
なんて、話していたら狼獣人達が入って来た。
先頭にいるのはカギルだ。
「(隠れときな!)」
「(はいっ)」
スッ
おれは端に行ってテーブルの陰に隠れた。
カギル達が、依頼ボード前の冒険者達を威圧して追っ払っている。
この前見たメンバーと少し違うな。
離脱したんだろう。
「カギルさん、D級の狩猟依頼はもうありませんね。」
「みたいだな…だがC級は今の戦力じゃ危ねえ。仕方ねえな。E級以下の狩猟依頼を全部取ってけ。」
「了解です」
あっ!おれの角ウサギ!
「ちょっ…!」
「なんだ?」
やばい、声出ちゃったよ…
「隠れてないで出てこい!!…ん?クンクン…お前、同族だな?」
あー…やっちまったよ。
「あぁ、同族だよ。あんたらのせいで依頼が受けられないと困るんだ。」
「ガキか。まぁいい、だったらウチに入れ。それで問題ないだろ?」
周りの目が厳しくなった。
商売敵が増えると思ったんだろうな。
おれは3種とも受けられるから最悪潰しがきくけど、狩猟専門の人は死活問題なはず。
このままだと、狼獣人全員の評判が悪くなりそうだ。
そうなると狼獣人(仮)のおれにも影響する。
「断ります。全部取るのはやめてくれませんか?」
「はぁ?依頼はいくつ受けてもルール上問題ないんだよ。おれ達は期限だって守ってる。止められるいわれはねえ。」
んー。
制度上問題ないのか…
「それより、お前に決闘を挑む!」
「?嫌ですけど?」
なんで決闘なんか。
「「「…え?」」」
あれ?周りがすごいポカンとしてるぞ?
「ちょっと!決闘は受けないとマズいよ!」
セロンさんが割り込んで来た。
「そうなんですか?」
「君みたいな若い冒険者が決闘から逃げたら、確実に舐められて立場が無くなってしまう。冒険者同士の殺しは違反だし、君は同族だからそこまで酷くはやられないはず。ここなら他の冒険者も見てる。やるやらここでやった方がいい。」
やるしかないのか…
「ん?採取のセロンかよ。ガキ、セロンの言う通りだ。決闘を受けて、うちに入れ。」
「はぁ…わかりましたよ。決闘は受けます。でも条件があります。」
「なんだ?」
「おれが勝ったら依頼は半分は残す事。そしてニーナさんを森の木剣に返してください。」
反応などいただけたら幸いです。
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