7話 最強の勇者
「ん...」
「もう起きたか。なかなかタフじゃないか。休憩室まで運んだのは余計だったか?とりあえぜ狩猟の試験は明日にしておいたぞ。」
狩猟の試験...
あっ!
「探索試験は!」
「ははは元気そうだな。もちろん合格だ。」
「おれ気絶したのに合格なんですか?」
最後に気を失ったはず。
さっそく無茶したことはリーナさんには秘密だな。
「もともと10分間戦意を失わなければ合格だったんだ。探索依頼は時間がかかるものが多い。粘り強さが必要なんだ。それと攻撃して悪かったな。」
「おれの方こそ噛みつきなんてしてすいません。」
「何言ってんだ、爪も牙もおれ達獣人の立派な武器だろう?教官をやり始めて噛みつかれたのは初めてだったが、気にする事はないぞ。」
「でもほとんど効いてなかったですよね?最後どうして放せって言ったんですか?」
「あれはマスターとの契約だ。」
「新人の鼻を折るってやつですよね?」
「それとは別にもう一つ契約があるんだ」
なんでも、アーサーさんが人からの攻撃で傷をおったら、反撃するようにわざわざ命令されているらしい。
「炭鉱奴隷だった時、おれは不器用でよくミスして周りの奴らから殴れてたんだ。おれは人より丈夫だったんでずっと耐えていたら、いつしか攻撃するのが怖くなってしまってな。マスターはおれを心配して契約で反撃を強制してくれてるのさ。おかげで今は誰からもいじめられなくなった。」
アーサーさんをイジメるような馬鹿がいたのか。炭鉱には近づかないようにしよう。
「最近じゃおれに絡んでくるやつもいないし、新人相手に傷を負ったことなんて一度も無かったから油断していた。本当にすまんかった。」
アーサーさんが頭を下げてくる。
上級冒険者の一撃をまともに喰らったのか。
「おれ、よく無事ですね...」
「正直おれも驚いてる。おれの一撃を耐えた頑丈さもだが、何より殴られて地面に到達するまでの一瞬で受け身をとるとはな。」
受け身?
「おれ受け身なんて取ったんですか?」
「覚えてないのか?」
「はい。全く。」
武術の心得なんてないし、なんでとっさに受け身なんて取れたんだろう?
⦅解。緊急事態と判断し主に無断で身体を制御しました。⦆
ヘルプさん!グッジョブ!
「アーサーさん、どうやらおれのスキルのおかげだったみたいです」
「スキルか。無意識で発動したという事は自動防御系か?あまり頼り過ぎるなよ?技術がおろそかになって他のスキルが身に着かなくなることがある。」
「わかりました。気をつけます」
《アーサーの意見に同意します。》
ヘルプさん自身も同意か。
じゃあ、身体を動かすヘルプは緊急事態のみでお願いな。
《了。》
なあ、ヘルプさん。もしかして初めからヘルプさんが体を動かしてたら勝てたのか?
⦅否。噛みつき時に摂取した血液からアーサーのステータスを仮定...現状の主ではダメージは与えられなかったでしょう⦆
そっか。まあ今のおれがC級冒険者に勝てる訳ないか。
「アーサーさん!おれが勝てるようになるにはどうすればいいんでしょう!」
「勝つというのは一対一の勝負でか?」
「はい。生意気な事言ってすいません。」
「ははは。目標としてくれるのは光栄だ。威力が欲しいなら攻撃スキルを覚えるのが手っ取り早い。だが力が弱いとスキルの威力も低くなってしまう。ユウキはまだ若いしまずはたくさん食べて体を鍛えるののがいいだろう。獣人はスキルを覚えやすい。後からでも大丈夫だ。」
よし、まずは体を鍛えよう!
「ちなみに魔法はどうなんですか?」
「魔法を覚えたいのか?あまりオススメできないが...」
リーナさんもそんな事を言っていたな。
「獣人は魔法を覚えられないんですか?」
「そんな事はない。不器用なおれでも発動に時間がかかるが肉体強化の魔法を使えるし、A級冒険者の中には誰にも教わらずに3属性の魔法を覚えてしまった天才もいる。ただ獣人は精神力が上げる訓練が苦手で魔法制御に手間取るのと、教わりたくても獣人を弟子に取ってくれる魔法使いが少ないんだ。」
精神力がBのおれは最初の段階はクリアできてるな。お祈りも苦じゃないし今後も上げていく予定だ。
「どうして獣人は弟子に取って貰えないんです?」
「あまり知られていない話なんだが、おれ達のご先祖様がやらかしてるんだ」
アーサーさんが獣王国の歴史について教えてくれた。
この世界には定期的に魔王と勇者が現れる。
魔王は魔族から生まれ、勇者は人間、エルフ、ドワーフ、巨人、小人、そして獣人の6種族の中から女神によって選ばれる。
今も昔も、魔王討伐はその時々の現れる勇者によってなされて来たが、6種族の国が団結して支援する。
各々クセの強い種族間の協力関係は、魔王討伐によって維持されている。
しかし、1人の獣人の勇者によって関係が壊れる。
彼はプライドの高い獅子獣人で、他の獣人すら寄せ付けない身体能力に加え、強力な魔法まで使えた。
一匹狼で各国の支援を使わず、パーティすら組まずに単身で魔王軍を壊滅させた彼は、今も歴代最強の勇者と言われている。
獣人以外の5種族は感謝しながらもあまり良い顔をしなかったが、逆に力を信奉する獣人達は彼を崇め、彼を信仰し魔法を覚えようとする獣人が急激に増えた。
獣人国の王族も勇者の血族を積極的に取り込み、国名を獣王国と改め女神教を国教から取り下げた。
獣人は他の種族を見下すようになり、獣人と他種族に軋轢が生まれる。
獣王国以外の5か国は、獣人に魔法を教えないように規制して獣王国の力を削ごうとしたが、獣人達はこれに反発しついに他国の町から魔法使いを誘拐する事件が起きる。
そして獣王国が出来て2年後、他5か国の連合軍と戦争が起こってしまう。
勇者不在の獣王国では勝ち目もなく、1月足らずで獣王国は敗北した。
そう勇者は獣王国にいなかった。
そもそも彼の考え方は女神教に近く、肉体と精神力を共に重要だと考え鍛えていたからこそ強力な魔法を使えた。
女神から勇者に使命されるような人物が女神教に敵対するはずもない。
むしろ一匹狼の彼は自分を信仰する獣王国を避けた。
魔王を倒した後も魔族領にとどまり、魔王軍から助け出した人間種の女性と結婚したと言われている。
今の獣王家は獅子獣人ではあるが勇者の直系ではなく、あくまで勇者の親族の血筋となる。
最終的に獣王国と獣人は立場を失い、魔法を覚えようとする獣人は獣王国以外では危険視され、今では獣人に魔法を教えてくれる魔法使いはほとんどいなくなってしまったのだ。
「だからこの国で魔法が使いたいなんて、口に出さない方が良い。」
そう言えば、教会でおれが肉体と精神どっちも大事って言った時、一瞬リーナさん言葉に詰まっていたな…こういう事情があったのか。
「あれ?でもアーサーさんは魔法使えるんですよね?」
「おれは人種のマスターの奴隷だからいいのさ。」
「分かりました。今後は気をつけます。」
「(どうしても使いたいと言うなら、おれがこっそり教えてやるがどうする?)」
「(いいんですか!ぜひお願いします!)」
「(ああ、危うく殺しかけたんだ。それぐらいお安いご用だ。おれもマスターからボコボコにされながら教えて貰ったしな)」
「(ありがとうございます!…えっ?)」
契約で手加減できないアーサーさんにボコボコにされたら今度こそ死なないか?
ヘルプさん!頼んだよ!
⦅了。⦆
「今日はもう休んでおけ。狩猟試験は明日にする。ギルドには流れの冒険者が寝泊まりする用の場所があるから泊まっていくといい。夜飯はおれの奢りだ。」
「何から何までありがとうございます!」
ギルドの料理は美味しかった。
スモールボアという猪型の魔獣らしい。
お小柄になったのに前世より多く食べたが、アーサーさんはさらにおれの5倍は食べていた。
満足するまで食べたあと、感謝を言って別れて、流れの冒険者用の寝床にやって来た。
ちょっと狭いがお腹いっぱい食べたおかげか、すんなり寝落ちできた。
反応いただけたら幸いです。
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