9 ダンの帰省〜side〜
冬休みに実家に帰ってすぐ、挨拶もそこそこに父の執務室に駆け込んだ。
「父さん!マリンとの婚約解消をしてくれ!」
執務室で仕事をしていたらしい父は、顔を上げて俺をみた瞬間、グッと眉間に皺が寄り、険しい顔になった。
そして仕事机からツカツカと無言でやってくると
「お前という奴は!!」
バシっ!!
父が俺の横面を引っ叩いた。
「何すんだよっ!」
左頬がジンジンと痛む。頬に手をあてて、崩れそうになっていた体勢を戻し、父を睨む。
父は仁王立ちしながら、穢れたものを見るように俺を見ていた。
「お前…王都騎士団に行くそうだな」
「そうだよっ!名誉あることなのに、何故殴られなきゃいけないんだっ!!」
「ダン…婚約解消だと?私の手紙を読んでないのか?」
「手紙?」
「年末に送ってあるはずだが?」
最近はリリアンと一緒に夜を過ごす為に、寮には帰らずに、宿場で過ごすことが多い。
寮に届く手紙は、大体がマリンからだったから、手紙類は読まずに、まとめて捨てていた。
その中に混ざっていたのかもしれない。
「……手紙の確認もしないとは、貴族として救いようがないな。……で、話とはマリン嬢との婚約解消だったか?」
「俺はマリンとは結婚しないっ!俺はリリアンと婚約する!リリアンは伯爵令嬢なんだ!子爵家に婿養子になるより、ずっといいだろ!?それも、騎士団に入ってからの王都での生活も保障してくれるって言ってるんだ!俺の将来は俺の好きに生きる!マリンなんて、クソ喰らえだっ!!」
「…………そうか、三男だからと好きにさせていたが、貴族との繋がりがどんなものかも知らんとは……。もういいっ!そこまで言うなら、好きに生きればいい。学園卒業までは支援をしてやるが、卒業後は勝手にしろ。その代わりに、イオート子爵家としての名の使用は、卒業後禁じる!」
「なっ!父さん!?なぜだ?!伯爵家に、王都騎士団なんだぞっ?!」
「ふざけてるのはお前だっ!!婚約は貴族にとって契約と一緒だというのに。当主の私に相談もせずに、当人同士でどうにかなるものじゃない!そんな事も分からんのか!!」
父の顔には青筋が浮かび、握った拳をプルプルと震わせながら怒声が飛ぶ。
「……王都騎士団に行くのなら、それなりの筋の通し方というものがあるのを…、お前はマリン嬢を虐げ、他の女にうつつを抜かすとはっ!契約違反もいいとこだ!!既にマリン嬢との婚約は解消してある!!本来ならお前の有責で婚約破棄のところを、マリン嬢の恩情で解消ですんだというのに……、それすら何も分かっていないとはな。話にならんな」
父はそのまま執務室を出ていってしまった。
その後、冬休みの実家にいる間は、自室での謹慎を言い渡された。
俺はイライラしながら自分の部屋へと向かった。
廊下の途中ですれ違った兄貴達から、蔑むような視線を送くられた。実家に久しぶりに帰ってきた弟に、声の1つもかけないのかよっ!
母も遠くで見かけたが、やはり何も言わずに俺を無視するかのように、顔を背けるのが見えた。
「くそっ!!」
ダンっ!!と廊下にあった柱を蹴りつける。
傍にいた使用人がビクッとなったのがわかり、機嫌が悪い俺は「なに見てんだよ!」と怒鳴りつけた。
―何だよ!褒められるはずが、腫れ物扱いかよ!
王都騎士団への入団が決まったとなれば、家族も鼻が高く、褒められるだろうと思っていたのにっ!
こんなド田舎の子爵家の実家なんて、2度と戻ったりするもんか!
俺は都会の王都で騎士団で活躍して、いつか見返してやるっ!俺を馬鹿にしたこと、後悔するがいい!
マリンの恩情だと?!そもそも、王都騎士団への推薦状が出ると分かった時点で、俺の為にマリンの方から婚約者解消を願い出るべきだろう!!
そうしなかったマリンが悪いのに、何故俺がこんの目にあわなきゃならないんだ!!
「全部マリンがいけないんだ!あいつのせいで俺がこんな目に!!」
――俺は何もその時知らなかった。子爵家の名前を名乗れない辛さも、王都騎士団から手紙がきていた事も………。
お読み頂き、ありがとうございます。
もし良かったら☆で評価して頂けると嬉しいです。
また別作品の【私達、裏庭だけの関係なのに】が3月6日にコミカライズ発売予定です。
そちらもどうぞよろしくお願いします。




