5 実家帰省
学園がある王都から、段々と実家がある領地に近づくにつれ、外の景色が街並みから農園へと移り変わっていった。
冬の領地には、薄っすらと白い雪がかかっている。
空気がリンと澄んでいる気がする。
王都からの移動中に、サーヤから借りた本の第1巻を読んでみた。
――こんなに心揺さぶられるなんて。
私は、ほぅ……と息を吐きながら、読み終わった本をパタンと膝の上で閉じる。
読んだ後にくる高揚感と、続きが読みたくて堪らなくなる中毒性があった。
本の内容は、ある姉妹の話だった。
姉は聖女として、妹は悪女として、生きる運命が生まれたながら神に与えられていた。
主人公の聖女の周りには、王子様や優秀な執事、魔法使いや、騎士がおり、皆で苦楽を共にして冒険を進めていくなかで、各々の過去やトラウマが明らかになり、聖女に癒されていく。
そして1巻では、各々が密かに聖女に恋焦がれるも、想いを打ち明けないまま、冒険の途中で終わっている。
―あぁ!これからどうなるんだろうっ!?
とくにキュンキュンしたのは、聖女が魔物に攫われた時、王子は怪我を負っても必死に駆けつけ、『俺が必ず守るから。どうか隣りに居てくれ』そう言って抱きしめ、彼女に安心を与えるところ。
作品に出てくる男性陣は、優しくて誠実で、強くて、格好良くて…、無条件にどんな時も彼女のことを愛していた。
私とダンは、特に恋愛での婚約ではなかったけれど、お互いに確かに想いはあったと私は思う。
だけど……もしかしたら、この本のような恋愛とは違っていたのかもしれない。
読書後、思考の中に浸っていると、ガタっと馬車が停まった。どうやら実家に着いたようだ。
馬車から降りると、懐かしい我が家が見えた。
「おかえり」
「おかえりなさい、マリン」
「姉さま〜!おかえりなさい」
玄関を開けると、エントランスに家族総出で出迎えてくれた。うちは家族皆が仲がいい。
安心してなんだか、涙がでそうになる。
手紙を出したら、両親は今の私の事情は知っているが、弟の前では…泣けない。
「ただいま戻りました」
――笑顔で。私は大丈夫って見せないと。
ちゃんと笑顔を作れていたと思うんだけど、父と母が手を広げているのが見えて、私は思わず駆け寄って両親の腕の中に飛び込んだ。
ギュッっと強く抱きしめられた。
「……マリン。おかえり」
「お父様、お母様……」
ポンポンっと頭を撫でられた。
涙が溢れないようにするのが、精一杯だった。
しばらくすると父がゆっくりと離れた。
「疲れただろう?まずは荷物を置いておいで。皆で夕食にしよう。マリンの好きなものばかりだぞっ!!」
「はい!準備してきますね」
久しぶりの自分の部屋で、荷解きをしていると、ふと1つの棚が目についた。
――ダンとの想い出の品々。
誕生日プレゼントで貰ったブローチや髪飾り、お祭で買ったお揃いのミサンガ、メッセージカード等が綺麗に並べられていた。
――チクっ。胸の奥が痛い。まだ見るのが辛い…。
私は1枚のスカーフを広げると、そっと上から隠れるようにかけた。これから夕飯になるから、着替えもしなきゃだし、今はこれを気にしてる場合じゃない。
軽く湯浴をし、着替えてから、楽しく家族と夕飯をとった。
本当に私の好きにものばかりが、テーブルいっぱいに並べられていて、久しぶりに食べ過ぎてしまった。
弟のロバートは、久しぶりに帰ってきた姉が嬉しいのか、「姉さま、姉さま!聞いて、聞いて!」と、あれこれとマリンに話たいことがいっぱいあるらしく、初等部の生活のことや、友人のことなど、色々教えてくれた。
一生懸命に話す様子を、微笑ましく見ながら、正直、うちの弟は世界一可愛いと思ってしまう。
――真っ直ぐで明るいロバートなら、きっといい跡継ぎになるわね。
お腹いっぱいになり、さすがに移動で疲れたのか、夕食後に部屋へ戻ると睡魔が襲ってきた。
ベッドに横になりながら、スカーフで隠した棚をみる。
――処分しなきゃね。婚約解消したんだから…。
さよなら…。私の初恋…。
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