4 手紙
数日後、父から手紙が届いた。
事態を知った父が、学園での私達の様子を短期間で調べ上げ、ダンの実家のイオート子爵家を交えて、領主同士で話し合いが、急遽行われたらしい。
今のダンの学園生活の様子や、騎士団への入団のこと等、ダンの御両親も把握していなかったらしく、終始頭を下げて「マリン嬢に申し訳ない」と謝罪があったとのこと。
そして……手紙には、
ダンとの婚約は無事に解消された…と書かれていた。
「婚約解消」の文字を指でなぞる。
じんわりと目頭が熱くなる。
ここで泣いたらダメよ…。
あの日に、いっぱい泣いて終わりにしたじゃない…。
泣いたら、負けのような気持ちになる。
それでも、私の、私達の想い出が頭の中で駆け巡る。幼かった頃からの様々な想い出。
2人の共に過ごしてきた時間は、決して短くない。
咄嗟にグッと上を向いて、涙が流れるのを堪える。
もうダンの為に流す涙は残ってないのよ、私っ!
前を向かなきゃ…!!
手紙には、卒業後は伯爵家へ行くにしろ、子爵家としても、私を向かい入れる準備は出来てるから、いつでも帰ってきてもいいんだよと、私が幸せになれる選択をしなさいと……、卒業後の進路は、好きに私が決めていいと書いてあった。
両親の優しさに、今度こそ涙が溢れた。
私が不甲斐ないばっかりに…両親には心配ばかりかけているが、それでも温かく見守りながら支えてくれる。そんな家族が味方で居てくれて、本当に有難いと思った。
そっと父からの手紙を閉じると、私は新しい便箋を取り出し、実家と伯爵家宛に、今後のことについて手紙に書いた。
――明日はいよいよ終業式だ。
ダンにも実家から、婚約解消の手紙が届いているだろうか。
少しでもいいから、向こうにも思うところがあって欲しいと思うのは、私のエゴだろうか。
未練はないし、寄りを戻したいとは思わない。
前に進むと決めたから。
それでも、心が傷付いていないってことじゃない。
相手にも同じように傷付いて欲しいって思う私は、善人にはなれない……悪い女なのかもしれないなって思う。
思いはするけど、彼に対して、こちらから何かしようとは思わない。
もう彼と私の進むべき未来が違うから。
――決してもう重なることはない。
☆☆☆☆☆
書き上がった手紙を持って私室からでると、共有スペースでサーヤが読書をしていた。
「サーヤ、何読んでるの?」
「これ?これは、最近流行りのアラキン先生が書いた恋愛小説よ。マリンは読んだことある?」
「ないわ。確か…クラスの女子が騒いでた本?」
「そうそう!私も今まで恋愛小説って読んだことなかったんだけど……これっ!!読み出したら止まらないのよっ!!」
キラキラした瞳で、何かを思い出したのか、ウットリしているサーヤ…こんな顔もするのね。
「えっ!そんなにいいの?」
ガシっと両手で手を取られた。
「マリン!貴女、冬休みは実家に帰るのよね?」
「え、ええ。そうよ」
「移動に時間がかかるって言ってたわよね!!」
「ま、まぁね。丸々1日くらいには…」
「貸すから、読みなさい!!移動中に!」
あ、圧が凄いっ!断れる雰囲気は微塵もない。
「え、ええ。分かったわ」
そう言うと、満足そうにホクホクした様子でサーヤは自分の私室から5冊持ってくると、ドサっと私に手渡した。
「しっかり勉強するのよ!!」
……勉強?これって確か、恋愛小説って言ってたと思うんだけど。
さっきまで婚約解消の文字に落ち込んでいた私。
―当分、恋愛なんて考えられる気がしない。
少し困ったわと思っていると、サーヤが私にこう言った。
「この本の中には、理想の男性像が盛り沢山よ。これを読んで、心の底から、あんな男と縁をきって本当に良かったって、マリンには思って欲しい。そしてキラキラキュンキュンして、輝いてちょうだい。マリンが幸せに輝いていることが、相手にとっての1番大切な復讐よ」
フンスと鼻を鳴らす勢いで、サーヤがまくし立てた。
そんな様子がとても愛おしくて、私はサーヤに飛びついて抱きついた。
「…ありがと!」
――私は愛されてる。家族にも、友人にも恵まれてる私は幸せだわ。




