3 伯爵家訪問
「お久しぶりです、マリン嬢。姉さん、おかえり」
キラキラの笑顔でルート様が、玄関でお出迎えをしてくれていた。
ルート・ロジヤータ伯爵令息。
サーヤにとても似ていて、サラサラな金髪と爽やかなブルーの瞳を持っいる。
出会った頃は私より少し低かった身長が、年々どんどん背を抜かされ、今ではスラッとした長身となっている。
一見クールそうな見た目とは裏腹に、弟独特の人好きそうな雰囲気がある。
「お久しぶりです、ルート様。」
挨拶とともに、スッと手を出されたので、そっと手を軽く乗せると、ルート様に流れるようにエスコートされながら、伯爵家の中へと案内される。
「ちょっと!私は放置??」
チラっとだけルート様がサーヤを振り返るが、真顔で、
「姉上も相変わらずお元気そうで何よりです」
そう言うと、すぐに私にニコニコと目線が戻り、「さぁ、どうぞ」と、気にもせずにエスコートを続けた。
相変わらず仲良しな姉弟のジャレあいに、私もクスっと笑いが溢れる。すると、
「マリン嬢の笑顔は、今日も可愛らしい」
トロっとした微笑みで、ルート様が私をみてくる。
「あら、お世辞でも嬉しいわ。歳上の私でも可愛いって思って貰えるなんて」
「本心ですよ。」
人懐っこい笑みを浮かべて微笑むルート様は、相変わらず人たらしである。学園でもファンクラブがあるって噂で聞いたけど、確かにって心の中で頷く。
案内された所は、いつもの談話室ではなく、応接間だった。中には、ロジヤータ伯爵夫妻が待っていた。
まさか伯爵夫妻がいるとは思わず、一瞬ドキっとしたが、マリンは子爵家令嬢として、マナーに沿って挨拶を述べた。
「ディズル子爵家長女、マリンが挨拶申し上げます。本日は伯爵家にお邪魔させて頂いております」
「あぁ、ディズル子爵嬢。まずは座ってくれ。いつもサーヤとルートから君の話しを聞いてる。それに、今回の事もサーヤから事情は聞いたよ」
「大変だったわね…」
優しく労りの言葉と共に、伯爵夫妻から正面のソファに座るように促される。
夫妻とは以前夜会でサーヤの紹介で挨拶をしたことはあっても、こうして伯爵家で改まって会うのは初めてなので、緊張する。
「マリン嬢、こちらに」
ルート様がソファまでしっかりエスコートしてくれる。「緊張しなくて大丈夫です」って小声で囁かれ、目線でも大丈夫だと、優しく微笑んでくれた。
そして私の隣の空いたスペースに、流れるような仕草で、そのままルート様が座ろうとした瞬間に、
「貴方はあっちよ!」
サーヤがルート様をシッシッと手で追い払うようにしてルート様を退かし、改めてサーヤが私の横にササっと座った。
ルート様は渋々とした様子を見せながら、斜め前の1人掛けの椅子に座った。
そんな姉弟のやりとりを、穏やかな微笑みで夫妻が眺めていたので、ルート様がサーヤ様にちょっかいを出す様子は、いつもの仲良し姉弟のじゃれ合いだと、私も微笑ましく感じる。
見た目は大人びてきたけど、いくつになってもルート様はお姉ちゃん子だなぁ。
「サーヤからの手紙だと、ディズル子爵嬢は婚約解消して、跡継ぎを弟に譲るという話だったが…本当かね?」
「……はい。お恥ずかしい話ですが。昨夜父へ手紙を書いたので、まだ正式にとは言い難いですが、そのつもりでいます」
「…そうか。卒業後に住み込みで働ける場所を探しているとのことだが………うちはどうかね?」
「えっ!?」
思わず声が出てしまった。
伯爵夫妻、ルート様もニコニコと微笑みを浮かべている。隣を見ればサーヤも笑顔のまま、そっと私の手を握ってきた。眉尻を下げながら
「卒業後は、私も婚約者のカルビン様の所に行ってしまうから、私が居なくなると、うちには父とルートだけになってしまうでしょ?だから母の話し相手として、マリンに母の侍女はどうかしらと思ったの。それに、卒業後も私の家なら、私もマリンにちょこちょこ会えるのは嬉しいわ」
「サーヤ…」
「そうなのよ〜。娘が居なくなると、うちには男ばっかりでしょ?もし貴女が良かったら、私の侍女として来てくれると、とても嬉しいわ」
コテっと首を傾げ、頬に手を置きながら、困ったわ〜という仕草をする伯爵夫人。
「そーだよ!マリン嬢!是非ともうちに来て!そしたら俺も嬉しい!!」
椅子から身を乗り出し、サーヤとは反対側の手を取られ強く握りしめられた。
――ど、どうしましょぅ……。
突然の予期せぬ提案に、考えがまとまらない。
伯爵家の侍女として、仕事が決まるのは喜ばしいことだけど。それでも……私一人の判断では難しい。
「ありがとう御座います。…お返事は子爵家の父の意向を聞いてからでもよいでしょうか?」
そう言って私は頭をさげた。
この時に、伯爵家の皆が獲物を狙った微笑みをしていたことを、私は全然気づかなかった。
「ええ、ええ。勿論よ。お父様と相談してみてからで大丈夫よ。いい返事を待っているわ」
「ゆっくりしていってくれ」
そう言って伯爵夫妻は笑顔のまま、応接間から退出していった。
ほぅ……思わず、一息ついた。
サーヤの両親とはいえ、伯爵家の目上の方に、失礼がないよう、思っていたよりも緊張していたみたいだ。
呼吸とともに身体から強張りが消えるのがわかる。
「マリン。私達も裏庭の温室ガーデンに移動しない?」
緑をみながら気分転換しようと提案されたので、承諾の意味を込めて頷くと、サッと目の前に手を差し出された。
どうやらルート様のエスコートはまだ続くみたいだ。流石、伯爵令息。スマートにジェントルマンだ。
「ありがとう。ルート様」
ルート様の手を取り立ち上がると、サーヤは苦笑いしながら、「ルートはブレないわね」と、ルート様を見ていた。
伯爵家の温室は冬でも、素晴らしく管理されており、ポカポカと温かく、緑を眺めながらお茶を頂き、姉弟との楽しい会話から笑みが溢れる。
とても穏やかな時間に、昨日までの事が嘘のように、悩みや不安が溶けていった。
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