真相の行方
視聴者の間に動揺が広がる。あれだけ脚色なしを謳っていたのだから当然だろう。
「真相を思う存分語っていただきたいと思います。常夜怪談帳スタート!」
「最初に一つ。私が話すことには全て証拠がなくどちらを信じるかは自由です。その上で忠告をするのなら、彼のファンの方はここで視聴を止めることをおすすめします」
揺さぶるような前置きをしてから、一ノ瀬は淡々とした口調で話し始めた。
「告発に至った理由は単純で、彼に腹が立ったからです」
一ノ瀬は言葉とは裏腹に穏やかな表情でそう言った。
「作家デビューや、この場で賞賛を浴びていたことへの嫉妬ではありません。お金を貸していたのに、返ってこなかったことへの不満です」
「いくらですか?」
「5万円です。みなさんからしたら大した額ではないかと思いますが……」
「いやいや、中々な金額ですよ。お金を貸した経緯を聞かせてください」
「最初は電気代が止められたとかで、数千円だったんですけど。それが何回も積み重なった形ですね」
自分の責任も感じているのか、一方的に怒り狂うという態度ではない。
「返済を迫っても小説が発売されたら返すの一点張りでした。しかし今も連絡はありません」
ジンは別れ際の春道とのやりとりを思い出す。
ギャラとして渡した5万円を返済に充てていない点から、春道が金にだらしないという情報は確かなようだ。
「帰宅したのを見計らってチャイムを鳴らしたのですが、居留守を使われました」
ジンは同級生として情けない気持ちになった。
「奇妙だったのが、扉越しに気配がしたんです」
既視感を抱くようなエピソードに、不穏な空気が流れる。
「扉が廊下側にわずかに膨らみました。彼はドアスコープを通じて私を見ていたのです」
点と点が繋がったことでコメント欄がざわめく。
「確か似たようなことをここで話していましたよね。引っ越しそばを渡しに行った際に、二宮さんから扉越しに覗かれたと」
「あれは春道があなたにしたことだった……?」
「偶然同じことが起こったのか、それをされたから私にもしたのか、はたまた創作か」
一ノ瀬は呆れたようにこめかみを掻く。
胡散臭いと思っていても、こうも含みを持たせられては春道派の視聴者も離れられない。
「間違いを正すと、私は201号室の住人ではありません」
「…………はい?」
「私が住んでいたのは203号室。彼のエピソードは、全て私の体験談です」
理解するのに時間がかかって、ジンは反応できなかった。簡単な言葉の羅列なのに、別の言語のように複雑に聞こえてしまう。
「えーっと、すみません。どういうことでしょうか?」
「そのままの意味です。あれらは二人で食事をした際に、私が彼に話した内容です」
「一ノ瀬さんは春道と一緒に食事をするような仲だったんですか?」
「彼の方から誘われました。今思えば、金がないので奢ってもらう算段だったのかも」
それがきっかけで金を貸してくれと頼まれるようになった。
そう語った一ノ瀬の顔には、後悔の色が滲んでいた。
「待ってください、春道はどこに住んでいたんですか?」
「201号室です」
「最初から一ノ瀬さんから聞いた話として喋ればよかった気もしますが……」
「自分のエピソードと他人から聞いた話では受け手の印象がまるで違います。なので自分自身に起こったことに変更したのではないでしょうか」
大胆かつ狡猾な手口に、数千人の視聴者がまんまと騙されていた。
「あれは全て私の体験談です。創作なしと豪語していたのに呆れますよね」
コメント欄は春道派と一ノ瀬派で議論が交わされている。ジンも同級生と見ず知らずの当事者を名乗る男のどちらを信じるべきかで揺れていた。




