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配信終了後

「いやーお疲れ。普段とは違ったテイストだったけど、面白かった」

 ジンは手元のタブレットを覗き込み、視聴者の反応をうかがう。

「ほら、面白かったって声多いよ」

「ありがとうございます」


「お、いいコメントあった。『売名とか言ってた奴、謝罪しろよ』だって」

 冗談交じりに言うと、コメント欄も空気を読んで春道に謝罪する流れになった。

「悪気はないからさ。許してやってよ」

「もちろん。全然怒ってないから」


「今日の話がよかったと思ったら、春道のデビュー作も買ってくれよ!」

 編集スタッフが春道の書籍をズームで映す。

「それは……はい。本当によろしくお願いします」

 春道が深々と頭を下げるともうひと笑い起こった。


『赤ちゃんの声はなんだったの?』


「分かりません。赤ちゃんの声も、僕の部屋だけエアコンやインターホンが古かった理由も謎です。突然死されたトラックの運転手さんと二宮さん、二人の死に関連性があるのかも」


『は? なにそれ。色々考察してたのに、肩すかしくらった気分』


「過去に処刑場だったとか、いわくつきのマンションだったとか捏造は簡単です。それは僕のポリシーに反するので、真実だけをお話させていただきました」


 春道は最後まで信念を貫き通した。

 その姿勢にコメント欄で再び賞賛の投げ銭が送られる。

 最後に改めて小説の告知がされて、常夜怪談帳の生配信は終了した。



「マジでありがとう! 超盛り上がったわ!」


 ジンが春道の背中を加減なしに叩く。

 編集スタッフからこの後飲みに行こうと誘われたが、下戸な春道は丁重に断った。


「本当にノーギャラでいいのか?」

「……うん。こっちも本の宣伝してもらったし」

「そんなの友達として当たり前だろ」

 ジンは満面の笑みで胸を張る。


 片付けを終えて、ジンの住むタワマンを出た三人。


「じゃあ、また何か恐怖体験あったら連絡して」

「あ、あの──小池君!」

 繁華街に向かって歩き始めたところを呼び止める。


「……ギャラの件だけど、やっぱり貰えないかな」

「ん?」


「こ、交通費だけでいいんだ。その……執筆に集中してたからバイトもしてなくて、最近厳しくてさ」


 ジンは財布から一万札を五枚ほど取り出すと、春道に差し出した。 


「なんだよ、金に困ってるなら正直に言ってくれよ」

 背中を叩く力はさっきよりも強かった。

「ありがとう小池君」


「配信終わったからって本名で呼ぶのやめてくれ」


「あ……! ご、ごめん……」

「じゃあな」


 表面上は穏やかなジンだったが、その目にはしっかりと侮蔑が込められているのを春道は見逃さない。


 編集スタッフとジンの姿が消えるまで、蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。

 ようやく呪縛から解放されると、服の袖で額の汗をぬぐい、手汗で汚れた一万円札をポケットにねじ込んだ。


 配信の効果もあってか、春道のデビュー作は新人としてはそこそこ売れた。

 しかし内容は手垢のついたベタな話であったため評価は得られなかった。


 常夜怪談帳のコメント欄には春道の第二弾を希望する声が見られたが、ジンは自らアプローチをすることはしなかった。

 このまま普段通りの怪談路線に戻るかと思われたその矢先、ジンのSNSに一通のメッセージが届く。



『春道君の話に出てきた、201号室の一ノ瀬です』



 緊急生配信! 201号室の一ノ瀬襲来!

 そう題された生配信が行われたのは、メッセージが届いてから二日後のことだった。

 熱が冷める前に行おうというジンの判断は正しく、今回の生配信には前回以上の視聴者が集まっている。


「みなさん、こんばんは。常夜怪談帳のジンです! 今日はタイトルにもある通り、緊急です。先日春道が話してくれた怪談話に登場していた一ノ瀬さんが来てくれました」


 ジンに呼び込まれる形で一ノ瀬がフレームインした。背が高く体格はがっしりしている。


「仮名で一ノ瀬さんと呼ばれていましたが──」

「それで大丈夫です」

「一ノ瀬さんは先日の生放送、見てくれたんですよね」

「はい。それでジンさんにメッセージを送らせていただきました」

「なにか気になったんですか?」

 事前に大まかな内容は把握しているが、主役である一ノ瀬に喋らせるよう仕向ける。



「彼は嘘をついています」

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