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異変

「僕の話は創作一切なしの純度100%だから」


 異世界転生物で作家デビューした人物の発言とは思えない。


「でもさ、ここから話が展開するんだろ。視聴者もでかいの待ってるみたいだぞ」

 配信が長時間になることを危惧したジンが、巻きで頼むとオブラートに包んで伝える。

 その願いが通じたのか否か、春道は一つ咳払いを挟んだ。


「住み始めて一年が経過した頃、クラクションで目が覚めた。マンション前の道路は、朝になると信号待ちの列ができるんだ。青信号で動き出さない車に対してクラクションを鳴らす光景は過去にもあったけど、今回は一度だけじゃなかった」


 話のテイストが変わったことで、ジンは姿勢を正す。


「カーテンの隙間から外を覗いた。行列の先頭には大型トラックが止まっていて、クラクションを鳴らしていた二番目の人が、車から降りてトラックのドアをノックしたんだ」


 視聴者も再び話に引き戻される。


「運転手はぐったりと項垂れていた。すぐさま緊急通報があって警察と救急がほぼ同時にやってきた。警官が交通整理を行い、救急隊員は運転手を見て、『こりゃダメだね』と本音を漏らしたんだ」


 興奮気味の春道は、自らを落ち着かせるために水を飲む。


「嘘みたいな話だけど、運転手は信号待ちの間に心臓発作か何かを起こして亡くなった」


「いや、まさか……」

「本当だよ。僕の脳裏には、あの時の光景が鮮明に焼き付いているからね。顔はもちろん、服装やドリンクホルダーに飲みかけの炭酸飲料があったことだって!」

「わ、わかったから落ち着け……誰も疑ってない」


「それがトリガーとなったのか、僕の周りでは妙な出来事が起こるようになった」

 春道はスイッチを切り替えたように、スンとした態度を取る。


「水道修理とかのマグネットタイプの広告あるでしょ。あれを数枚ポストに放置していたんだけど、ある日郵便物を取ろうとしたらそれが無くなっていたんだ」

「管理会社が掃除したのか?」

「ポストが溢れそうならともかく、僕のポストはそれ以外何もなかった。入居者のポストを許可なく開けたことが知られたら炎上するよ」

 春道の言うことはもっともだった。

 何よりもマグネットを回収することで、ポストを開けた確固たる証拠を残す理由がない。


「異変はまだあって、朝になると赤ちゃんの鳴き声が聞こえてくるんだ」

「それくらいは別にあるだろ」

「おかしいのは時間だよ。夜泣きは一切ないのに、決まって早朝6時に泣き出す。まるで録音した音声を流しているみたいに……しかも聞こえてくる場所が一定じゃない。横もあれば上もあって、向かいの時だって」


 不思議でしょう? と春道はカメラの向こうの視聴者の反応をうかがう。


「結局原因は不明のまま。だから早朝に起きるのが当たり前になって、健康な生活を送るようになったよ」

 春道は皮肉めいた笑みを浮かべた。


「小さな異変を言えばキリがないけど。一階の廊下部分に、一ノ瀬さんの部屋から原因不明の水漏れがあったり。それが治るまで無料のホテル暮らし、あれは羨ましかったなあ」

 これが本来の春道なのか、最初の頃の恐縮しきった姿は微塵も感じられない。


「突然管理会社が変わったりもした。住人より先にそっちが音を上げるのかって、笑っちゃったよ。しかも和風だったマンション名が、急に洋風な名前に変わるし」

「なんか、春道楽しんでないか?」


「部屋に幽霊が現れるとか、原因不明の高熱にうなされるとかもなかったから。アトラクション気分で異変探しを満喫してたかな」


『ヤバい奴じゃん……』

『こいつ霊に憑りつかれてるだろ。最初と顔つきが違う』


 怪談話そのものよりも春道の人となりが注目され始めたが、ジンとしては盛り上がるならどちらでもよかった。



「後は二宮さんが死んだ」

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