エデンの園
そこは、父なる神が創りし場所――エデンの園。
苦しみも悲しみも存在せず、風はやさしく草木を揺らし、動物たちは静かに共に生きていた。
何よりもそこには、神との深い信頼が根づいてる。
まさにすべてが調和し、永遠の安らぎに包まれた世界ーー理想郷だった。
しかし、アダムとイヴが善悪の知識の木の実を口にしたとき、エデンの園は私たちの手の届かないものとなった。
現実は、意味のない殺し合いや罵り合いが絶え間なく世界を覆っている。
大切な人も、いつかは息を引き取り、別れが訪れる。
私たちは、そんな悲しい世界で生きているのだ。
けれども、あなたの人生は哀愁と呼ばれるものだけではなかっただろう。
悲しみの合間に差し込む、かすかな光を覚えているはずだ。
誰かの笑顔に救われた日、差し出された手のぬくもり、名前を呼ばれるたびに確かめられた、「ここにいてもいい」という実感。
たとえそれが儚く、過ぎ去ったものであっても、
そのひとときは確かにあなたを支え、生かしていた。
エデンは失われたかもしれない。
だが、私たちの心の奥底には、その面影が今も残っている。
それは希望と呼ばれ、信じる力となり、ときに絶望のただなかで、再び立ち上がる理由となる。
神がかつて人と共に歩まれたように――
あなたもまた、誰かと手を取り、歩むことができる。
たとえこの世界が完全ではなくても、誰かと共に見る景色のなかに、失われた楽園のかけらは、きっと息づいている。
『エデンの園』
ヒュー・ゴールドウィン・リヴィエール
今日もロンドンの公園で若い2人の男女が手を取り合いながら愛を囁き合っている。
たとえ色彩を失ったような世界であっても、愛する人が隣にいる事で、その場所はかつて私達が愛した“エデンの園”となるのだ。
この作品は、ヒュー・ゴールドウィン・リヴィエールの『エデンの園』をイメージしたものとなっています。ラストのシーンは絵画のワンシーンを読み取ったものです。争いに満ちた世界で、とても楽園とは言えない世の中でも、愛する人が隣にいる事でそこは二人にとっての"エデンの園"になる。というのが、とても美しい表現だと思いました。いつか本物を見てみたいですね。