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GAME8 『コール』


『ちょっと事件が立て込んでてな。すまん、滅多に帰って来れなくて』


 仕事で数日家に帰ってこないこともありながら、それを苦にせず誇りを持って警察官を務めていた父。


『あなたが頑張っていることは分かっていますから』


 夫を支えることを当然として、おっとりとして怒ったところを一度も見たこともない貞淑な母。


『僕、将来はお父さんみたいな警察官になりたい!!』


 そんな二人の間に警察官、高橋は産まれた。




 昭和気質な父は事あるごとに『男は女や子供を守るべし』と言い、高橋はその教えに薫陶を受けて自分のポリシーとした。

 中高一貫の男子校に通い、勉学やスポーツに励み、警察学校に入り、警察官となった。


 トントン拍子に進んでいった人生。


 ――だからこそ高橋は自身から欠けているものを気付くことに遅れてしまった。




『高橋先輩、どうしたんですか?』


 順調に昇進した高橋が初めて教育係として受け持つことになった後輩婦警、吉田莉子。


『へへーん、すごいでしょ。私お手柄じゃ無いですか』


 男性の方が幅を効かせている警察で、女性であることをものともとしないガッツがあり。


『夢は犯罪者のいない町です!!』


 信念を持って日々戦っている。




『………………』

 いつも父を支えていた母くらいしか女性と関わりの無かった高橋にとって……『男は女や子供を守るべし』をポリシーとする高橋にとって彼女と関わることはとてもストレスだった。

 だから。



『え……』


 どうしたんだ、これくらいの仕事こなせるだろ?

 徹夜してようやく終わるような仕事を課して。


『どうしてこんなことを……』


 それでもめげずに頑張って……生意気だったから3倍の量を課した。


『私が悪かったんですか?』


 何言ってんだ、おまえは悪くない。

 ただ犯罪者がいない町を作りたいんならこれくらい頑張るべきだろ。




 高橋は手を変え品を変え負荷をかけ続けて――――その結果押し潰された吉田莉子は自ら死を選んだ。

 その様子は傍目から見ても事態の経緯がハッキリしていた。原因がパワハラをしていた高橋にあることは分かりきっていた。

 しかし身内の事件、事態を大きくしたくない警察は高橋を閑職に飛ばしただけでその事件を闇に葬った。






 そんな吉田莉子の名前を目前のフリーターの鈴木は出した。自分の後輩、自殺したということも知っていることから事情も把握済みだろう。


「どうしてその名前を知っている……!?」


 このデスゲームに巻き込まれて初めて出会ったはずの鈴木に対して、思わず高橋はその胸ぐらを掴みかかろうとして。


「…………そのまま手を出してくれれば楽だったんですが」


 すんでのところで踏みとどまった。


「ちっ、暴力禁止か」

「舌打ちですか、行儀が悪いですよ」

「知るか。そっちが先に攻撃してきたんだろう! 人の唯一の汚点をあげつらって……君に心ってものはあるのか!?」

「ただ僕は名前を出しただけですよ。……しかし唯一の汚点ですか」

「何だ、何が言いたい!! 俺はもうあんな失敗をしない。次こそはちゃんとやるんだ!」


 自身の若かりし頃の失敗、高橋の中ではもう既に終わった過去のことをほじくられて荒れた様子で叫ぶが。




「自殺した吉田さんに次は無いんですけどね。それにずいぶん思い込む力が強いんですね。全然唯一なんてものじゃないでしょう?

 だって吉田さんの件から数年後、もう事件の記憶も風化したことで高橋さんにも新たに後輩が付くことになって。

 そんな後輩婦警の山田紗菜さんも――自殺させているんですから」




「……………」


 今度こそ高橋は黙った。




「こっちの事件はどうやら警察内でもただの自殺と片付けられているようですね。よほど上手くパワハラしていたみたいですね」

「…………」

「一人だけならまだしも二人は確信犯ですよねえ。……しかもより悪質だったみたいですし」

「…………」

「……って、そんな静かにならないでくださいよ。僕がいじめているみたいじゃないですか」

「…………」

「はぁ、まあいいですけど。大体事態は理解出来ましたし」


 ため息を吐くと鈴木は自身の端末を取り出す。




「黙っているみたいですから勝手に喋りますけど、僕はあなたがパワハラで人を殺すような悪人だってことを知っていました。

 それなのにまるで自分が善人であるかのように振る舞い、自身の命も省みずにナンバーを開示する。

 罠だと思いました。僕は嘘を吐いてましたけど、あなたも嘘を吐いていて、本当の『運命の数フェイタルナンバー』2は他にいるんじゃないかと。

 でも……どうやらその様子だと違ったみたいですね。自身が善人だと本気で思い込んだ……狂人だったと」


「っ……何を……するつもりで……」


 意気消沈している高橋だが、ただならぬ危機を感じ取ったのだろうか、防衛反応が働くが。


「僕が『プレイヤー全員を殺すつもりだ』と自分の意図を何故明かしたのか考えたりしなかったんですか? これまでの会話はあなたのナンバーが本当は何なのかを探るためで……こうして二人きりで会いたかったのはあなたを殺すためです」


 時は既に遅く、鈴木は端末を操作した。






『『コール』が実行されました。対象のプレイヤーの『運命の数フェイタルナンバー』を宣言してください』


「警察官、高橋陽翔。あなたの『運命の数フェイタルナンバー』は『2』だ」






 端末から鳴り響く電子音に続いて鈴木は命を絶つ宣告を下した。


『コール』

 デスゲームプレイヤーに与えられた二つのアクションの内の一つ。対面するプレイヤーの『運命の数フェイタルナンバー』を当てれば死亡、外せば逆に自身が死ぬ。


 鈴木の宣言は『2』。

 高橋の『運命の数フェイタルナンバー』は――――『2』だ。




『コール成功、コール成功』


「ぐぁぁぁぁっ、ぎぃぃぃぃぃっ……!!」


 高橋の首輪が作動して内部へと締め付けていく。デスゲーム開始前に脅しで絞められたときとは比べものにならない強さで苦しみのたうち回ることしか出来ない。




(駄目だ、駄目だ!! くそっ、ビクともしない!!)


 全然緩みもしない首輪に死を感じ取った高橋。


(死ぬわけには行かない!! 俺は警察官だ!! だから――)


 苦悶の中最期に高橋は呻くように。




「みんなを……守らないと…………」






=================




「本当に……自分を心の底から模範的な警察官だと思い込んでたみたいですね」


 ピクリとも動かなくなった高橋の姿を見下ろしながら鈴木はボソリと呟いて。




「うっ……ぐっ……………ふぅ、はぁはぁ………」


 衝動的にこみ上げてきた吐き気を口元に手を当ててどうにかやり過ごした。


「人が死んだ…………僕が殺した………」


 自身のやったこと。覚悟していたこと。それでもその光景は衝撃的だった。


「やると決めたんだ」


 後悔はしていない。身勝手だとも分かっている。それでも辞めるつもりはない。




 姉の未練を晴らすためにも。




「残りは……8名」

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