GAME6 コテージ
総理大臣、加藤の先導でプレイヤー達がやってきた遊園地の一角には食堂と10のコテージがあった。ほとんどが直線で構成されている機能重視の建物。遊園地内とは思えない飾り気の無さを見て。
(プレイヤー10人のためだけに維持管理されている遊具、外が見えないほどの高さの壁での囲み、無骨な居住スペース……やはりこの遊園地はこのデスゲームを行うためだけに用意されたものなのだろう)
と警察官の高橋を含めてプレイヤー達は思い、その途方も無さに呆れも感じたが、それはそれとして一週間過ごすことになる以上、住環境が整っていることはありがたかった。
食堂ではダイヤ、スペード、クラブのロボット達が働いており、かなり広い幅の料理が用意されてあった。遊園地だというのにどこにも売店が無かったため、お腹の減っていたプレイヤー達はそれぞれ好きに食事を取る。
無言で食べる者、雑談しながら食べる者など様々だったが、高橋は一人でそそくさと食べて食堂を出た。
外は暗くなり始めていた。どうやらこの遊園地にも夜はあるらしい。
(加藤総理のおかげで幾分かは雰囲気が和らいだが……かといって歓談出来るほどの空気では無いな)
高橋とフリーター鈴木の『運命の数』被り問題。
どちらが嘘を吐いているのかと荒れた状況を加藤がルールが間違っているんじゃないかと第三の可能性を提示してうやむやにした。
(あれは俺への助け船だったんだろう。あのままだったら流れ的に俺が嘘を吐いているという流れになっていたはずだ)
おかげで問題は先送りにされた。この猶予の間に問題を解決していかないと。
「しかし解決と言っても方法は一つしか……いや一応その前にGMにも確認しておきたいが……」
高橋は自分のコテージに向かって呟きながら歩いていると。
『呼んだか?』
「うわっ!?」
機械の合成音が至近距離で鳴って驚き飛び上がる。音の方を見るとそこにはGMの『ハート』がいた。
暗くなってきた風景にピンクのハート型に厳つい眼帯やテンガロンハットを被っているアンバランスな着ぐるみがいきなり出現して下手なホラーよりも怖い演出だ。
(確実にさっきまでいなかったはずだが……瞬間移動……? もう何でもありだな)
突然の誘拐、デスゲーム、ロボットが運営する壁に囲まれた遊園地。既に高橋の驚きは振り切れて今さら瞬間移動くらいでは動じていない。
どころかちょうどいいとさえ思っていた。
「聞きたいことがある。質問しても良いか?」
『ああ、好きにしろ』
「この『FATAL NUMBER GAME』のルール……これに嘘は無いんだな」
総理大臣の加藤が提示した第三の可能性。
『運命の数』に被りは無い、というルールが嘘ならば今起きている問題に説明は付くが。
『男に二言は無い。ルールは絶対だ』
『ハート』はそのように答える。
(……まあ、そうだろうな。一応合わせて確認しておくか)
その答えを予想していた高橋は特に気にせず質問を続ける。
「やけにルールを重視するんだな。それならもっと大きなルール、法律も重視して欲しかったが」
『それで面白くなるなら守るさ。法律はただの枷でしか無いだろう』
「面白く……か。やっぱりこのデスゲームには観客がいるんだな?」
『当然だ。ただおまえたちを殺したいだけなら誘拐した時点で終わりだ』
「だろうな。全く悪趣味な観客だ。このデスゲームも興行でしかない、だからルールは絶対ってことなのか」
『ああ。手を使ってもOKなサッカーなんて興醒めだろう。ルールの中で争うからこそ面白い』
「つまり……ちゃんと一週間生き残ったらこのゲームも終わり、無事に帰してくれると」
『約束は守るさ、じゃないとハートボイルドじゃないだろう?』
『ハート』はそのように決めゼリフを言うと現れたときと同様に唐突に姿を消した。
高橋はその後自分のコテージに辿り着いた。
自身の端末をかざすことで鍵が開き中に入る。普通の1ルームマンションのような内装でトイレ、洗面所、シャワーが完備されている。食堂があるためかキッチンは無いようだった。
一通り確認を終えたところでGMの『ハート』との会話を思い返す。
「やっぱりか」
観客がいるというのは元から想定していたことだった。
ただ殺すだけなら誘拐した時点で出来た、苦しめたいならもっと適したやり方がある。デスゲーム、遊戯にしたのは見る人がいるから。
だからこそルールが重要で……加藤が言ったようなルールに嘘は無いだろうと思っていた。
「加藤総理大臣もおそらく分かっていて俺を助けるため……いやあの疑心暗鬼の雰囲気を打破するために言ったんだろう」
何にしろこれで疑念は完全に払拭された。
『運命の数』被り問題。
俺が嘘を吐いていることはあり得なく。
ルールに嘘があることもあり得ない。
となれば。
「フリーターの鈴木碧。……彼が嘘を吐いているに決まっている」
何のために……なのかは想像も付かないが、だったら問題を解決する方法も一つだけだ。彼に嘘を吐いていると認めさせること。
早い内に彼と話したいところだが……。
プルルルル! プルルルル!
「っ……何だ?」
端末から突然鳴り響く音。まるで電話の着信音のようだが。
「……いやまんま着信音か。そういえば端末から他のプレイヤーと通話出来るとあったな……」
プレイヤーに与えられた端末は機能、操作感そのままほとんどスマホみたいなものだ。ただステータスを表示したり、『アタック』や『コール』で人を殺すことが出来るスマホだ。
通話主も画面に表示されていて……そこにはちょうど話す必要があると思っていた『鈴木碧』の名前があった。
高橋は通話ボタンを押して応答する。
「……もしもし」
「夜分遅くにすいません、高橋さん。鈴木です。早速用件に入りますが、今から二人きりで会うこと出来ないでしょうか?」
「奇遇だな。こちらも会いたいと思っていたところだ。ちょうど自分のコテージにいるが」
「ではそちらに窺います」
そこで通話が切れた。
「渡りに船だが……一体どういうつもりだ?」
高橋にとっては願ってもない提案だが、それだけに鈴木の意図を測りかねる。
二人だけで会って……暴力は禁止のルールだ、力に任せて口封じやら脅迫は不可能。まあこちらは警察官、鍛えているし襲われても返り討ちにする自信はあるが。
ならば……本当に話でもするというのか?
自分で嘘を吐いて評判を落とした相手に対して何を話すというのか?
他のプレイヤーと違って俺だけが彼が嘘を吐いているのを分かっているのと同様に、彼だけは俺が嘘を吐いていないことを分かっているはずなのに?
それから少ししてベルが鳴る。
高橋はコテージの扉を開けるとそこには鈴木が立っていた。
「急な申し出にも関わらずありがとうございます」
「……とりあえず中に入れ」
高橋は鈴木をコテージ内に招いた。