GAME5 被り
「俺の『運命の数』は2だ」
警察官の高橋はデスゲームに乗ってはいけないと示すために、自身の『運命の数』を開示した。殺されることも覚悟の高橋の行動にプレイヤーたちは高橋をリーダーとして一致団結しようとして。
「高橋さんは自分の『運命の数』が2だって言いましたけど……僕も『運命の数』は2なんです。
でもルールで被ったナンバーは無いはずだから……高橋さんは嘘吐いてるんじゃないかなって」
しかし、そこにフリーターの鈴木が爆弾発言を落とす。
「…………は?」
高橋は思考停止する。
(この男は何を言って……? もしかして俺が何か見間違いでもしたっていうのか……?)
高橋は端末を操作して自身のステータスとルールを改めて確認する。
〈プレイヤー名 高橋 陽翔〉
〈職業 警察官〉
〈『運命の数』 2 〉
【プレイヤーはそれぞれ『運命の数』を持つ。『運命の数』は被りの無い連続した数である】
(いや、そんなことはない。ちゃんと俺の『運命の数』は2だ。そしてナンバーが被ることも無い。だとしたら……この状況は一体……?)
自分が間違えていないことを認識して少し落ち着くが、それはそれとして疑問が残る。
「えっと……つまり、どういうこと?」
一連のやりとりにピンと来ていないキャバ嬢の渡辺が声を上げた。
「私たちプレイヤー10人には『運命の数』が1から10まで割り振られている。そして警察官さんが自分が2番だと宣言したけど、そこのフリーターさんが自分こそが本当の2番だと言っているわけ」
女教師中村が解説する。
「じゃあ警官さん、嘘吐いてたってわけ?」
「そんなわけない! 見てくれ! ちゃんとこうしてステータス画面に――」
高橋は反論するために自身の端末の画面をみんなに見せようとして。
「ストップ。それを見せては駄目よ」
中村に制止をかけられる。
「っ、何故だ」
「ルールにあるからよ。補則の一つ【端末のステータス画面を他のプレイヤーに見せることを禁ずる】。だからこそ端末を人に奪われてはいけないって話だったけれど……そうね、こうして自身の『運命の数』を開示することを防ぐためのルールでもあったのね」
「……そういえばそんなルールもあったか」
高橋も端末のルールを確認して該当の文を見つける。一気に発表されたもので精査が追いついていなかった。
(危ない、ルール違反のペナルティは死亡。こんなところで死ぬところだった。しかし端末の画面を見せられず物証を示せないとなると……)
「で? 結局どっちが嘘を吐いているんですか?」
プログラマーの田中がニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべながら問いかける。他のプレイヤーも田中のような露悪的な感情を持っているわけでは無いが、気になるところだった。
「当然俺が2だ!」
「いえ、僕が2です」
高橋、そしてフリーターの鈴木。両者共に主張を曲げない。
「……本当かね? 君の端末を見せたま…………ってそれはルール違反になるのか」
「そうですよ、僕を殺すつもりですか?」
「そんなつもりはない、失言だった。……しかし君が嘘を吐いているのは明白だろう」
「どうしてですか」
「俺が嘘を吐くメリットが無いからだ!」
警察官の自分は清廉潔白、人を騙すことなど選択肢にも無い、と胸を張って言う高橋だが。
「いえ。嘘の『運命の数』を宣言するメリットはあるわ」
「……え?」
「単純なことよ。例えばだけれど警察官さんのナンバーが本当は10なのに2だと言っていたとして。もし警察官さんを殺そうとした人がいた場合、2なら勝てると思って『アタック』を仕掛けられたら返り討ちに出来る。『コール』でも同様にね」
「確かに……」
「ってことは……アタシたちに殺されるかもしれないって思ってたってわけ!?」
「信じて付いてこい、とか言っておきながらみんなを疑って罠張って……。くくっ、エグいやつだなぁ?」
キャバ嬢の渡辺やヤクザの小林がここぞとばかりに煽ってくる。
「確かにそういう考え方も出来るかもしれない! だが俺は本当のことを言っているんだ! 大体、彼が本当に2だとしたらどうして俺が2だと言ったときにすぐに反論しなかったんだ!」
高橋は自身の正当性を挙げようと相手の不備を突きに行く。
実際鈴木が自身のナンバーが2だと言ったのは高橋が開示した後、みんなの結束が固まりかけた辺りで時間が経っている。
だが。
「僕はすぐに高橋さんが嘘を吐いているのを分かりました。……でもその嘘を訂正しようとすれば自分の『運命の数』が2であることを明かすことになります。自身の命を危険に晒す行為に踏ん切りが付かず……でも嘘を吐いている高橋さんがリーダーのようになってみんなを導こうとしていることに恐ろしさを感じて……勇気を出したんです」
「……なるほど。筋は通っているわね」
鈴木の反論に中村は頷く。
高橋の状況は悪かった。
(元々俺はGMに盾突いたことでみんなの首輪を作動させてしまったことで反感を買っている。それを払拭するため、また自身がデスゲームに乗るつもりは無いと示すために番号を開示したのだがあのフリーターの嘘のせいで雲行きが悪くなった)
「ちょっと状況をまとめてみましょうか」
今まで黙っていた総理大臣、加藤が口を開いた。
「お二方共に『自身の『運命の数』が2だ』と主張しています。どこかに嘘が無ければそんな状況にはならないでしょう。
まずは警察官、高橋君が嘘を吐いていた場合です。この場合理由は先ほど中村さんが説明したとおり。場を掌握してリーダーの座に収まることともし自身を殺しに来た場合の罠……メリットが結構あるように思えます。
対してフリーターの鈴木君が嘘を吐いていた場合。これは……正直嘘を吐くメリットが思い当たりませんね。本当のことを言っている高橋君に後から自分が2だと嘘を重ねる意味…………強いて言うなら高橋君の思惑を邪魔するため……いえそんなの鈴木君の利益にならないでしょう」
加藤の指摘はもっともだった。
(俺は俺が正しいことを知っている。目の前の彼が嘘を吐いていることを確信している。……だが、だとしたら何のために彼は嘘を吐いたというんだ?)
納得出来そうな理由が思い付かない。嘘を吐く意味が無い、となれば本当のことを言っているとなり、心情的にも論理的にも高橋が嘘を吐いているという雰囲気が漂って――――。
「そしてもう一つ。ルールが嘘であった場合です」
加藤が第三の可能性を示す。
「ルールが……嘘……?」
「ええ。ナンバーの被りが無いというのが嘘で、本当に高橋君も鈴木君も2であるという可能性です」
「そんなのアリなわけ!?」
「アリかナシかで言えばアリでしょう。そのメリットは今この状況にまさに現れています。こうしてプレイヤー同士で疑心暗鬼になってくれればデスゲーム運営としてはありがたいでしょうから」
「確かにそうか」
「いやだとしても」
「だけれど……」
プレイヤー一同が釈然としない様子を見せる中。
「そもそも何が嘘なのか、話し合っても結論が出そうに無いですし、すぐに結論を出さないといけない問題でもありません。
それよりも場所を移しませんか。地図で場所は分かっていましたが、観覧車で改めて上空から眺めました。どうやらあちらの方に行くと私たちの居住区があるそうです。一人一人コテージになっているようなのでそこで一旦落ち着きませんか」
加藤は強引に話を転換して話題を打ち切るのだった。