表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

GAME25 回想


 あの日もいつもと変わらない日になるはずだった。


 両親は幼い頃に事故で亡くなった。

 代わりに育ててくれた祖母は病でその前の年に亡くなっていた。

 僕と姉は二人暮らしで過ごしていた。


 姉さんは自身の才能を生かした探偵稼業で僕を養ってくれた。


 だから僕は仕事から帰ってくる姉さんを夕食を作って待っていて。




「姉さん、おかえ――――――え?」

「ふふっ……ただいま」




 玄関に入ってきた姉さんは血塗れだった。

 呼吸も弱く、身体に力が入っていない。

 そんな状態なのにいつものように『ただいま』と言う。


「い、一体何があったの!?」

「ごめん……ちょっと仕事でヘマをしちゃった」


 姉さんが探偵をしていることは知っていた。しかしその内容は『探偵の守秘義務だから』と教えて貰えなかった。

 だからそんな危ない調査をしているとは知らなかった。


「急いで手当てをしないと! そうだ救急箱を――」

「碧。話を聞いて」


 名前を呼ばれて止められる。


「話ってそれよりも……」

「姉さんはもう助からない。傷も深いし……何より追っ手がいるの。今は撒いたけど……私の家を知っているはずだからいずれここにも辿り着くはず」


 追っ手。この平和な現代日本で中々に聞かない物騒な単語。




「それって……」

「うん、ごめんね。碧を巻き込んじゃって……でも最期にこの家を、碧の顔を見たくなっちゃって」

「何言ってんだよ、そんなの気にするはずないだろ!」

「……あとそれだけじゃないの。あいつらのことだから私の家族、碧にも容赦はしないと思う」

「僕が?」

「うん……だから碧、私を殺して」


 突然の提案。


「な、何を言って……?」

「私を殺して警察に逮捕されること……それが一番碧が安全なの」

「だ、だからって殺せるはずないだろ!?」

「ごめんね……言い合ってる暇はないの」


 姉さんが懐からナイフを取り出す。


「そ、それ……」

「嫌だって言うなら……じゃあ一緒に死のっか」

「ちょっ!?」


 ナイフを僕に突き立てようとしてくる姉さん。生命の危機に僕は本能で抵抗する。そのままナイフを奪おうと揉めている内に……勢い余って姉さんにナイフを突き立ててしまって。


「それで……いいの」

「姉さん……本当推理は得意なのに演技は下手なんだから。……本当は僕のことを殺すつもりなんてなかったんだろ。僕に殺させるためにそんなことをして」

「……本当にごめんね……」


 遠くからパトカーのサイレンが近づいてくる。いつの間にか姉さんが呼んでいたようだ。


 生気の無くなっていく姉さんの肉体。

 僕はその場でただただ泣きじゃくることしか出来なくて。






「ねえ、碧」


「……え?」






 いつの間にか姉さんは真っ直ぐ立っていた。


 さっきまで死にかけだったはずなのに。


 ……いや、それだけじゃない。


 光景も全く違っている。


 見慣れた家ではなくまっさらと白一色の世界に僕と姉さん二人だけが立っていて――――。




「どうして間違えた『コール』をしたの?」




 そのときになって僕は。


 自分が過去のことを『回想』しているのではなく。


 自身の記憶妄想ごちゃまぜの――『走馬灯』を見ていることに気付いた。




「加藤総理大臣の『運命の数フェイタルナンバー』が『4』じゃないこと……碧には分かっていたはず」


 姉さんの声で、デスゲームの内容を言及される。

 姉さんは既に死んでいる。そんなこと現実にあるはずがない。

 僕が僕自身が姉さんにそのように喋らせているのだろう。


「そうかな?」

「ええ。加藤総理大臣の悪人ノートの記述は途中で途切れている。でもその部分まででも既に人を4人以上殺していた。だから『4』のはずないのに」

「…………」

「一体何故…………なんて私が言うはずないか。私推理得意だもんね。それに僕自身が何故そんなことしたのかも分かっている」


 姉さんの輪郭が徐々に崩れていく。

 そうだ、分かっていることを話しても仕方ない。

 僕は話題を変えることにした。


「復讐なんて……するべきだったのかな?」

「どうだろう? たぶん私は『そんなことしなくていい。碧は碧自身の人生を生きて欲しい』って言ったんじゃないかな?」

「今の姉さんっぽいかも」

「ふふっ……まあ本当のところは分からないんだけどね。死人に口無しなんだから。もしかしたら『いけー! やれー! よく仇を取った!』って言ってるかもしれないよ?」

「それは姉さんらしくないけど。まあ結局のところは……僕の心が弱かったのが問題なんだ」


「そうかな? 悪いのはデスゲーム運営じゃない?

 碧は私を殺してしまった反動で、何か報わないとって思いが強くなった。だから私の遺品の悪人ノートを読み込んで憎悪を募らせて……そこにいきなり復讐におあつらえ向きな環境が用意されたんだから仕方ないよ」


「……いやそれでも運営のせいにはしたくないかな。本当に最悪なお膳立てこそされたけど……強制はされていないんだし。

 それに……最期に僕は僕自身の意志で……この結果に持ち込んだんだって……胸を張りたいから……」


 遠くで声が聞こえる。




『コール失敗、コール失敗』


 無感情に結果を告げる機械の音声。


「がぁぁぁっ!!!」


 絞められた首輪がどうにもならず苦悶の声を上げながらのたうち回る僕の声。


「鈴木さん……鈴木さん!!」


 ただただ叫ぶことしか出来ない佐藤さん。




 姉さんの輪郭だけでなくまっさらな世界の輪郭も崩れてきた。

 僕自身の存在も希薄になっていく。


「自分の勝手で人を殺して……僕は地獄行きだろうね」

「私は天国にいるから……お別れだね」

「ああ、そして現世とも……」


 もう一度『内の世界』ではなく『外の世界』に目を向ける。




「どうして……どうして……!」


 泣きじゃくる佐藤さん。

 このデスゲームで出会って。

 僕はずっとずっと疑っていたのに。

 それにも関わらず信じてくれた。

 そんな彼女とも。






「さようなら」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ