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GAME19 『アタック』


 時を少し遡る。

 ゲーム三日目、昼前のこと。 




「あーあ……憂鬱だなー」


 キャバ嬢、渡辺の寝覚めは良くなかった。


 いきなりデスゲームに巻き込まれて三日。毎朝起きる度に夢じゃなくて現実だと認識するだけで気分が下がる。


 ボタン一つで人が死ぬ環境であることはそこまで渡辺に影響は無かった。女格闘家、山本の死体をその目で見てもどこか遠い出来事のように思っていた辺り、ただ単に現実だと認識出来てないだけかもしれないが。


 それよりも現代を生きる若者である渡辺にとってネットを使えないことの方がキツかった。SNSでこの境遇を誰かに伝えることも出来なければ、適当な動画を見て暇を潰すことも出来ない。




「…………お腹減ったな」


 食堂に向かうことにする渡辺。

 食べ物には困らなかったがそんなのは前提条件でしか無い。


「わざわざ食堂に行くのめんど。……あ、いいこと考えた。今度から颯真に持ってくるように頼もうっと」


 ヤクザの小林颯真をパシリにすることを考える。

 男にも困っていなかったが、渡辺にとってそんなのは前提条件でしか無かった。




 食堂にやってきたところですぐにその異変に気付いた。


「だぁからボクはそいつのあること無いこと書いて拡散したんですよ、聞いてますかぁ?」


 給仕をしているスペード型ロボットに対して管を巻いているプログラマー田中。返事もしないロボットにも関わらずしゃべりかけている田中は朝っぱらからひどく酔っていた。食堂ではプレイヤーが望めば酒も出て朝から飲んでいた。

 食堂には田中しかいない。既に朝というには遅い時間だ。他の人たちは食事を取った後、田中を避けて自分のコテージに戻ったのだろう。


(うわ、酒くさっ)


 顔をしかめながらも渡辺はスルーして自分も食事を取ろうとする。キャバ嬢である渡辺にとって酔っ払いは見慣れたものだった。

 だから路傍の石のように無視することにして…………しかし、田中の精神状態は普通では無かった。




「おっ、いいところに来ましたなあ。女、酌をしろ」


 渡辺の姿を視界に入れた田中がダル絡みしてくる。


「……サンドイッチちょうだい」


 対して渡辺は無視して給仕のロボットに対して注文を伝える。


 その態度が癪に障ったようだ。




「あなたもボクのことを馬鹿にしてるんですかぁ!?」


 激昂した田中は立ち上がり、渡辺の手首を掴む。


「ちょっ、離してよ!!」


 渡辺は一度は振り払おうとするが。


「分かってるんですよ!! もうデスゲームは始まったって!! そしてボクみたいなデブキャラがデスゲームを生き残れるわけ無いって!! おまえもそう思っているんでしょう!!」

「はぁ!? 何言ってんの!? 手ぇ離せ!」


 妄想に取り憑かれている田中は止まらない。




 一日前、山本の死体に対して侮辱的な態度を取っていた田中。

 その攻撃性は自身の精神を保つためのものだった。

 酒に溺れることでどうにか忘れようとしていた不安が爆発して。


「どうせ死ぬんなら好き勝手やるしかないですよ……!!」

「キモい、キモい、キモい!!」


 田中は渡辺を床に押し倒してその上にマウントを取る。

 渡辺も抵抗するが男女の力の差は大きく抜け出すことが出来ない。もがこうと必死でその際に手や足で田中を叩く。






「おぇっ!」

「ぐわっ!」


 そのとき状況をモニターしていたGMゲームマスターが介入した。

 ルール『暴力禁止』に抵触した田中、渡辺、両名ともに警告として首輪を絞める。






 その結果。


「ぐへぇ…………」


 田中は身体から力が抜けてその場に倒れる。つまりは渡辺に覆い被さる形となる。


「邪魔! どけ、苦しい! 死ぬ、死ね!! 消えろ!!」


 対して渡辺は首輪が絞まっているのにも構わず、いやだからこそ錯乱度を増して、どうにか田中を上から退けようとする。

 しかし、体重の重い田中は簡単には退いてくれない。そのため叩いたり力を込めたり……暴力を続けてしまう。


 そうして警告後も暴力を止めなかった渡辺には……。




「ぐっ……!?」




 ペナルティが執行される。


(どうしてアタシがこんなところで……)


 本気の首絞めにより四肢から力が抜ける。


(もっともっと男に貢がせて……犯罪だってさせても構わない……とにかくお金を巻き上げて……)


 意識が薄れていく…………残った後悔は。


(お気にのホスト……純平のエースにならないといけないのに……)









 それからしばらく経って。

 酔っ払っている中、首輪の警告を受けたことで一時的に気を失っていた田中が目を覚ました。


「あれ……ここは……」


 意識が混濁していた田中だったが……自分が覆い被さっている『物』の『ひんやり』とした感触に。


「ひぃっ!?」


 その場で飛び上がった。




「ようやく目ぇ覚めたか」


 その田中を見下ろすように人が立っていた。

 ヤクザの小林颯真である。


「あ、あなたは……!」

「ったく人の女に手ぇ出しやがって……どういうつもりだ、ああん?」

「ひ、ひぃっ!!?」

「………………っと」


 凄んでみせる小林はそのまま田中の胸ぐらでも掴もうとして……その途中で動きを止める。




「……ははっ、あははははっ。そ、そうですよ、『暴力禁止』!! いくら偉そうにしててもボクに指一本も触れられませんよねえ!!」


 しばらく気を失ったこと、そして血の気が引いたことで酔いが冷めてきた田中はデスゲームのルールを思い出せるくらいには冷静さが戻っていた。

 そして目の前のヤクザがいくら怖くても手を出されることは無いと安堵して。




「…………ったく、舐められたもんだな。今の時代が力だけが全てじゃないことなんて、そんなもんヤクザが一番身に染みてんだ」


 端末を取り出した小林は。


「牙を抜かれまくった…………だがそれで力が無くなったって思うなら間違いだ」


 その操作を進めていき。


「時代の潮流に乗っていくらでもやりかたを変えてきた。そうやって生き残ってんだよ」


 特に気負うこと無くそのボタンを――押した。




『アタックが実行されました。対象のプレイヤーを宣言してください』




「プログラマー田中暖。てめえには落とし前付けてもらうぜ」


 いとも容易く実行された殺害ボタン。




「『アタック』!? っ、本気ですか!? ボ、ボクの『運命の数フェイタルナンバー』が何なのか分かってるんですか!?」


 泡を食う田中。


「知らねえよ。まあ雑魚にふさわしく小さいだろうなとは思っているが」


 小林は何の確証も無く『アタック』を実行している。

 自分か相手、どちらかが死ぬギャンブル。

 それなのに堂々としていた。




『アタック成立、アタック成立。結果を公表します』




 端末の合成音声が勝負の成立を告げる。


 その結果、首輪の作動したプレイヤーは――――――。


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