GAME18 アナウンス
フリーターの鈴木と保育士の佐藤を乗せた観覧者のゴンドラはゆっくりと高度を上げていく。
「あ、あんまり下の方を見ないように……遠くを見て……」
高所恐怖症の佐藤はビクついている。その状況が鈴木の狙いだった。
わざわざ観覧車に誘ったのは必死に恐怖と戦わせることで佐藤さんの気をそぞろにさせるため。今なら佐藤さんの口も緩んでいるはず。
「佐藤さん、聞きたいことがあるんですけど」
「何かな!? 何でも聞いてよ!!」
佐藤はぐいっと鈴木の方に身を乗り出す。なるべく外に視線を向けないよう、また外の様子を気にしないように会話に集中しようという魂胆のようだ。
「今日、僕を遊びに誘った理由って何なんですか?」
鈴木はストレートに質問をぶつけた。別にこれは直接聞いてもおかしくはない話題だろうという判断からだ。
「それなら鈴木さんが落ち込んでいると思ったからです」
「落ち込む? 僕が?」
「ええと……言及していいのか……忘却することで心を守っている可能性もありますし…………」
「……? よく分かんないですけど、教えてください」
「じゃあその、言いますけど…………昨日鈴木さんは山本さんに暴力を振るわれて、それが原因で山本さんがルール違反により目の前で死んだんですよね?
だから私たちをその現場に呼んだときも元気が無かったように見えて。だから元気付けるために…………山本さんが死んで、高橋さんの姿が見えない中、不謹慎かもしれませんけど、だからって塞ぎ込んでても良くないですし……」
「…………」
佐藤の言い分は鈴木にとって不意を突かれるものだった。
そういえば女格闘家、山本の死体を誤魔化すために憔悴したような演技をしたか。もう過ぎたこととして忘れていたけど、佐藤さんは間に受けてこのようなことをしたと。
だからって遊園地で遊ぶという手段の出力は……まあこのゲーム会場じゃそれくらいしか出来無いのも確かか。
「鈴木さん、このゲームが始まってすぐ、みんなが観覧車に乗って二人で地上に残ったときに私を励ましてくれましたよね。だから今度は私が恩返ししないとって思って」
励ます……? 悪人ノートと摺り合わせるための情報を聞き出すためにそんなことをしたような覚えがあるような……無いような……。
何にしろ、今日の出来事はただただ善人が隣人を心配しての行動だったということのようだ。
裏で企んでいることなど何も無いと……そういう善人演技なのだろう。
もう迷うつもりは無い。
そっちが善人だと崩さないならこっちもそれを利用するまでだ。
「そうだったんですか……確かにおかげさまで昨日のことちょっと吹っ切れたかもしれません」
今の今まで忘れていたのだが、話を合わせる鈴木。
「僕もずっと不安だったんです。
こんな変な遊園地に連れてこられて、デスゲームを強要されて。
警察官の高橋さんは被りが無いはずなのに僕と同じナンバーだと宣言して。
その高橋さんが姿を消したかと思うと僕が殺したんじゃ無いかって山本さんに難癖付けられて、暴力を振るわれて目の前で死なれて。
本当にもう色んなことが起きてパンクしそうでしたが、佐藤さんのおかげで一息付けました」
「それだったら良かったです」
感謝の言葉に対して佐藤は満面の笑みだ。
「ただ正直なところ不安は尽きないんです」
「そ、そうなんですか?」
「はい。僕は高橋さんと被っているってことで自分のナンバーが『2』だってみんなに明かしましたよね。つまり『コール』で『2』を宣言されてしまえば殺されてしまうんです」
「それは……」
「いつでも殺される。もしかしたら佐藤さんが今にも『コール』で宣言して殺されるかもしれない……その恐怖は結構大きいですよ」
「私が鈴木さんを殺すなんてあり得ませんよ! それにしても……そうですね、私は鈴木さんの状況ちゃんと分かってなかったかもしれません」
「まあ別に明かさなくても小さい方の数字ですからいつ『アタック』で殺されてもおかしくはなかったかもしれませんが」
「『アタック』……数字の大小を比べる方法でしたか。私のナンバーも小さい方ですから怖いですね」
不安という話題からスライドさせて『運命の数』の話に持っていく。
ちょっとでも情報を探れればというつもりだったが、当たりを引けた。
(流石に佐藤さんは自分のナンバーを明かすのが良くないことだと分かっている。……まあ山本レベルの馬鹿がそうたくさんいても困るけど。
しかし僕の話に釣られて自分のナンバーに言及した。それでも小さい方のナンバーとだけしか言っていないが…………それで十分にナンバーを特定出来る)
『運命の数』は1から10まで。その内の小さい方の数字といったら1から3だろう。
だがそのナンバーはほとんど埋まっているのだ。
『1』は僕の本当のナンバー。
『2』は警察官、高橋のナンバー。
ナンバーに被りは無い。
つまり保育士、佐藤のナンバーは『3』である。
(佐藤からは引き続き嘘を吐いて人を騙そうとかそういった気概が見えない。つまり『コール』で『3』を宣言すれば殺せる)
「す、鈴木さん? どうしたんですかいきなり黙って……ひゃっ!? ちょっと揺れませんでしたか? ってちょうど観覧車頂上付近ですね……ひぃ、高くて足が竦みます」
コロコロと表情を変える佐藤に対して…………僕はこれ以上聞いてられないとばかりに端末をポケットから取り出す。
「ん、どうしたんですか、鈴木さん端末を取り出して? ……あ、もしかして写真撮るつもりですか? そういえばカメラ機能ついてましたもんね。頂上からの風景いいんじゃないですか……私は怖くて見れませんけど」
そのような呑気なことを言っている佐藤を無視して僕はアクションの画面を呼び出す。
表示される『コール』と『アタック』のボタン。
「あ、もしかして私も一緒に写真撮ってくれる感じですか、ポーズとか取った方がいい感じですかね。じゃあ、はいチーズ」
画面を見られないように端末を立てて操作していたところで、佐藤はそのように勘違いしたようだ。ピースサインをこちらに向ける佐藤。
僕はそれを視界の片隅に入れながら、『コール』のボタンに指を伸ばして――――。
「………………」
ボタンにあと少しで指が届くというところで…………動きが止まって。
ちょうどそのときだった。
ピンポンパンポーン、とアナウンスが鳴ったのは。
「えっ? な、何ですか!?」
「……アナウンス?」
これまでに無いことに佐藤と鈴木の二人がその続きを気にする中。
GMの『ハート』の合成音声がゲーム会場中に響き渡った。
『ルールに基づきプレイヤー全員に通知だ。たった今『アタック』が宣言された。場所は食堂だ』
「『アタック』が……?」
鈴木は端末に目を落とす。先ほど押そうとした『コール』とは違うもう一つのボタン。
そういえば『アタック』の結果は全体に公表されるとルールにあったな。それでアナウンスが為されたと。
場所は食堂。僕が間違って押したわけではない。
「『アタック』って…………数字の大小を比べて小さい方が死ぬんでしたよね……?」
震える声で佐藤が聞く。
「ええ、そうですね」
鈴木は頷きながらその意味を頭の中で反芻する。
つまり。
僕以外の誰かが、誰かを殺そうとしている、ということだ。
しかし誰が誰を……? 一体、何が起こっているんだ?




