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GAME12 宣言


 女格闘家、山本は回想する。




 アタイは男三人兄弟の後の末妹として産まれた。

 男だらけの中、女だから優遇される――なんてこともなく、力で劣るアタイは奪われる対象だった。

 おもちゃ、おやつ、おかず。黙ったままでは残ったものしか貰えないなら良い方で、何も回ってこないこともあった。


 そんな境遇にアタイは落ち込んだか?

 いや、違う。逆に滾った。

 つまりは力さえあれば奪えるということで、年齢差性別差関係なく張り合って、兄妹ケンカの絶えない幼少期を育った。




 そうやって力が全てで育ったアタイだ、中学に入って当然なことに不良の道に進んだ。

 そこはアタイにとって天国だった。

 年上の兄たちと争いながら育ったアタイだ、同年代、それも女なんか相手じゃない。自分を総長にレディースを結成、好き放題に暴れ、歯向かう者は蹴散らした。


 もちろん何回もポリ公の世話になった。

 力を持っていないのに力を持っているかのように振る舞うあいつらは何度関わっても好きになれなかった。


 それから何やかんやあって、アタイも大人になった。格闘団体に所属して暴力を振るうことでお金をもらう日々。


 派手に暴れられる機会は減ったけど、それでもまあまあな満足に暮らしていた――ある日。


 アタイは突然気を失うとこの妙な遊園地に連れ去られていた。




 そのことはアタイにとってショックだった。


(全く抵抗出来なかった……)


 何もせずに気を失うはずはない、何かをされたはずだ。だというのにアタイは全く反応出来なかった。

 そんな自分の力に対しての自信が揺らいでいるときに。


『不当な要望など一切聞く気は無いぞ!!』


 警察官の高橋はGMゲームマスターに真っ正面から逆らっていた。


 その姿にアタイは感動した。どんな場面、相手でも臆することなく正面から立ち向かう勇気。それを実行するための力。


(ポリ公は苦手だったけど……こいつだけはちげーな。嘘のない真なる警察官って感じだぜ)


 そんな人にお姫さま扱いされたもんだからどうすれば分かんなくなって。




 翌日、アイツは姿を現さなかった。


 あの女狐がよく分からんこと言いながら死んだとか言って……グルグルと無い頭を振り絞って色々考えてたけど。


『でも僕は殺してなんていません!』


 目の前のフリーターが言ったときにアタイの勘は反応した。


 こいつが……あいつを、高橋を殺したんだって。


 だからとっちめようとしたけど……あの場所は特に力もねえ癖に暴力は駄目ですよとかずっと言っていたほわほわ女を筆頭に人が多すぎた。




 だから邪魔が入らないこのお化け屋敷に呼び出して。


 呆けている隙にぶん殴って。


 吹き飛んだあいつを追いかけてマウント取ってたこ殴りにして。




「死ね」




 一際勢いを付けて拳を振り下ろそうとした――そのとき。




「ぐえっ……!?」


 アタイの首輪が絞まった。




===============




「はぁ、はぁ、はぁ…………」


 山本にマウントを取られてボコボコに殴られていたフリーターの鈴木だったが、突然山本が首元を抑えて苦しみだした隙にどうにか脱出していた。


「くっそ……ボコスカ殴りやがって……」


 みんなの前でされたビンタや張り手なんて比にならないほどの暴力を受けた鈴木。打撲や腫れになっている場所もあるだろう。


「何か突然苦しみだしたみたいだけど何が…………ってああ」


 一体何が起きたのかと周囲を見回して……そこにある物を見てすぐに納得した。






『警告だ、山本紬。ルールにより暴力は禁止されている。それ以上手を出すようなら本気で絞めるぞ』


 GMゲームマスターの『ハート』。神出鬼没なその着ぐるみがこのお化け屋敷の受付ホールに現れていた。




(当然のことだ。さっきのビンタや張り手なんかとは違う、誤魔化しようもない純然たる暴力。GMゲームマスターとして許せるはずがないだろう)


 山本はルールのギリギリスレスレを狙っていると思っていたが……どういうつもりだろうか?




「何にしろ助かったよ『ハート』」

『助けたつもりはない。オレ様はルールの取り締まりに来ただけだ』

「まあそうだろうけど……だったらもうちょっと早く、こんなに殴られる前に来て欲しかったな」

『これでも急いだ方だ』

「それにしても警告ってどういうわけだ? ルール違反は死じゃないのか?」

『そんな簡単に人が減ってもつまらんだろう。ルールの中での裁量はオレ様にある』

「だったら殴られ損じゃねえか」

『……全くここまで派手に違反するとは思わなかったぞ。どういうつもりだ、山本紬』


 鈴木の不満に対して『ハート』は答えずに、山本に問いかける。

 どうやら首輪の駆動は止まったようだ。床にへたりこみながら大きく深呼吸を繰り返している山本は。


「どういうつもりって、何の話だ?」

『『暴力禁止』のルールに真っ向から歯向かった理由だ』


 『ハート』による再度の問いかけに対して。






「『暴力禁止』? そんなルールあったのかよ?」






『は?』

「え?」


 いけしゃあしゃあとのたまう山本に同じ感情を表す『ハート』と鈴木。


(こいつ……何言ってるんだ? ルールにはきちんと明記されているし、事あるごとに話に出ていただろ。誤魔化すつもり……では無さそうだな)


 山本は本気で何言ってるんだという表情だ。


(つまりこいつは…………全く人の話を聞いていない。それどころかルールの把握も出来ていない。…………生粋のバカなのか)


 つまりはルールのギリギリスレスレなんて狙ってもいなかったのだろう。


 みんなの前で僕をビンタや張り手をしたのも暴力禁止だと知らなかったから。

 『この程度暴力でも何でもねーだろ』と言ったのもこいつ基準で本気でそう思っていただけ。

 このお化け屋敷でたこ殴りにしたのも僕がただ気に入らなかったから。


 というわけだ。


(これは利用出来そうじゃないか? ルールを理解していない相手を嵌める手段……殺せるなら殺せる内に……今なら言い訳も…………なら…………)






『……なら改めて言っておく。このゲーム中は『暴力禁止』だ。次に違反したら確実に首輪を絞める。二度と緩むことはない』

「わーったよ、わーったよ」


 ハートの忠告に対して山本は面倒臭そうに頷く。




「まあ別に直接的な暴力に頼らなくてもいくらでもそこのもやし野郎を苦しめる方法はあるしな」


 それでも諦めるつもりの無い山本。


「……どうしてそんなに僕を目の敵にするんですか?」

「最初に言っただろ。おめえがアイツを殺したからだ。逆に聞きてえよ、どうして殺したんだ?」


 山本の言うアイツとは警察官の高橋のことだ。山本は目の前のフリーターが警察官を殺したのだと確信していた。




「どうしてって……そんなこと聞かれても………………あんな悪者は殺してやった方が世のため人のためになるからですよ」


「……へえ。いい臭い発するじゃねえか、この野郎」




 鈴木は今まで演じていた無害な一般市民の仮面をかなぐり捨てる。




「『ハート』しばらく黙ったまま見守っててくれないか」

「……まあいいだろう。特等席で見守らせてもらおう、せいぜい盛り上げるんだな」


 『ハート』が一歩引いて成り行きを見守る体勢に移る中。




「ああ、期待してくれていいよ。これから僕は女格闘家の山本…………君を殺すから」


「何だあ? やる気か?」




 鈴木は真っ正面から殺害宣言を行った。


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