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GAME11 暴力


 女格闘家、山本紬。

 姉の書いた『悪人ノート』によるとアングラな女格闘団体に所属しており興行試合を行っているらしい。


 現在でもあまり表向きな職業では無いが、学生の頃はもっと酷かったようだ。

 女性だけで構成された暴走族、レディースの総長を務めてやりたい限りを尽くしていたらしい。死者が出ることもあって警察のお世話にもなったらしいが、特に更生すること無く娑婆に出たようだ。




 暴力が自然な手段の一つに入っているのだろう。特に気負うこと無くフリーターの鈴木の頬をビンタして。


『なあ。どうしておまえはアイツを殺したんだ? ああん?』


 その胸ぐらを掴み上げて山本は問いかける。




「っ……!」


 鈴木は突然の事態に言葉を紡げない。

 一つはいきなり暴力を受けたこと。品行方正とまではいかないが特に道を外れることも無く生きてきて、姉弟ケンカも特にしたことの無い鈴木は暴力を受けることに慣れていない。

 もう一つは山本の取った暴力という手段そのものに対しての驚き。


(こ、こいつルールを分かってないのか……!?)


 このデスゲームでは暴力が禁止されており、ルール違反者は死亡が明文化されている。

 つまり山本の取った行動は文字通りの自殺行為だ。


(僕が手を下すまでも無く死んでくれるならありがたいけど……そこまで馬鹿なのか……?)




「や、山本さん! 何してるんですか!?」


 現在プレイヤー9人が食堂に集まっている状況だ。そんな皆の前で起こった出来事に、保育士の佐藤が真っ先に声を上げる。


「見て分かんねーのか? この嘘吐きをシバくんだよ」

「鈴木さんが嘘を吐いてるって根拠があるんですか!?」

「根拠なんていらねーよ、アタイの勘は正しいからな」

「勘って……とにかく暴力は駄目ですよ!」

「ったく眠いこと言いやがるな。この程度暴力でも何でもねーだろ、なっ」


 山本は胸ぐらを掴んでた腕を下ろし、鈴木の背中を強く張り手するようにしてみんなの方を向かせる。




「っ……!」


 普通にジリジリと痛む背中の感触を気にしながら鈴木は山本の魂胆を理解した。


(こいつ……ルールのギリギリスレスレを狙っているのか。この程度ではルール違反に取られないだろうと確信していなければここまで大胆なことが出来るはずが無い。

 当然、それに対して僕が『暴力行為だ!』と声を上げることが出来ないことも理解しているんだろう。暴力だと訴える=ルール違反だから死んでくれと言っているようなものだ。

 他のプレイヤーの目もあるここでそんなことをしたら、こいつを殺せたとしても流石に敵を作り過ぎて今後動きにくい)


 つまり。


「僕は大丈夫ですから」


 ただ消極的に状況を流すことしか出来ない。




「で、でも」

「うっせえなあ。そんなに庇うんならおまえも……」


「そこまでです」


 再燃しそうになったところでパン! と柏手が鳴った。総理大臣の加藤はそうやって注目を集めた後に。


「言い合っても仕方ないでしょう。それにそもそも高橋君が死んだというのも確定したわけではありません。ここは一つ、皆で手分けして探してみませんか?」


 そのように提案するのだった。




============




「あのまま集まっていても争いが起きて雰囲気は悪くなる一方だった。捜索は名目で一度状況をリセットするのが狙い……ってところか」


 あれから少し経った。

 鈴木は自身のコテージでベッドに寝そべりながら、高橋の捜索を提案した加藤の意図をそのように分析する。


 警察官、高橋の捜索に参加するつもりも無かった。そもそもコテージで死体となっていることも分かっている。

 鍵はオートロックで閉まったためコテージの中、作りがしっかりしている強引に侵入することも不可、死体が見つかる心配はないだろう。


 とはいえ死体は別に見つかっても問題ない。見たところで僕が殺したとは分からないから。

 しかし別の問題が発生する。それはこのデスゲームに実感が沸いてしまうことだ。

 高橋が姿を消してプレイヤーは不安に思っているだろうが、その死体が見つからない限りはただ失踪しただけかもしれないと現実逃避することが出来る。


 しかし死体が見つかっては逃避が出来ない。デスゲームを実感してしまう。

 そうなったときにプレイヤーたちがどういう行動に出るかの予測が付かない。ただでさえ善人ぶった悪人ばかりが集まっているのだから。




(何にしろしばらくは待機かな。捜索のためプレイヤーが不規則にこの辺りを動いている。動きようも無い)


 人目があるところで不審な動きをするわけにもいかないと、鈴木が思ったところで。


 プルルルル! 


 端末の呼び出し音が鳴った。




「っ、誰だ……って」


 通話相手の名前、女格闘家山本の名前を見て顔を顰める鈴木。スルーしようかとも思ったが、用件だけでも聞こうかと通話に出ることにして。




『ちっ、さっさと出やがれってんだこの野郎』

「……用件は何ですか?」

『ああ、『お化け屋敷』に今すぐ来い。逃げたらどうなるか分かってんだろうな?』


 山本はそれだけ告げるとプツッと通話を切る。




「勝手だなぁ……ええと『お化け屋敷』って」


 マイペースな山本に呆れながら、端末から地図を開いて場所を確認する。『お化け屋敷』はどうやらこのコテージから遠く、遊園地の反対の端の方に位置している。


「こんな場所に呼び出してどういうつもりだろうか?」


 山本の意図が読めない。

 お化け屋敷なのはおそらくこのコテージから遠く人目が少ないところを選んだんだろう。

 不良による体育館裏への呼び出し……みたいなものだろうか? いやだとしても結局暴力という手段を使えない以上意味が無い。

 人目が付かないところで話し合い…………をするような態度か、あれが?




「そもそも呼び出しに応じる義務も無いけど……」


 『逃げたらどうなるか分かってんだろうな?』と言っていたが、正直どうなるのだろうか。

 重ね重ねだが、このデスゲームでは暴力が禁じられている。暴力性に訴えかけられても意味が無いというのに……。


「……まあ、そうだな。シメられるってこともないんだ。どうせすることも無いし応じてやるか」


 鈴木は立ち上がってコテージを出るのだった。






 それから移動すること数分、辿り着いたお化け屋敷にて。


「遅かったじゃねえか」


 入ってすぐの受付前の少し広いスペースとなっている場所に山本はいた。

 暗くモチーフとなっている墓場の雰囲気の内装がおどろおどろしいが、まだアトラクション部分では無いためそれだけで恐怖を感じるようなものはない。


「これでも急いだ方です。それでどうしてこんな場所に呼んだんですか?」


 日頃からそこまで運動している方ではない。歩いたことで少し乱れた呼吸を落ち着けながらも用件を聞くと。




「…………」


 山本はその場でリズムを取るようにトン、トンと軽く跳躍する。




「……へ?」


 まるで臨戦態勢に入るかのような山本に鈴木は間抜けな声を漏らしていると――。




 ドン!

 山本は一気に前方へとダッシュする。ステップを合わせ、勢いを乗せた拳が振りかぶられ鈴木の鳩尾にクリーンヒット。


「ぐはっ……!」


 肺から一気に空気が絞り出されながら吹き飛ぶ鈴木。




「用件ならおまえを殴らせろ、ってやつだ。まあもう殴らせてもらったがな。さてまだまだ行くぞ」


 山本のさらなる暴力が鈴木を襲う。


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