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GAME1 始まり


 高橋陽翔はるとの職業は警察官だ。


「お疲れ様です」


 夕方、珍しく日のある内に上がることが出来たので同僚に挨拶しながら職場を後にする。


「全く……最近忙しすぎる」


 敷地を出たところで高橋はボヤく。

 業務は多く、人員は少ない。残業が常態化している。

 身を粉にして働いているのに、浴びせられるのは非難の声。ニュースの一面を飾ったどこの誰かも知らない不祥事だというのに、同じ警察官であるというだけで叩かれる理不尽。

 嫌になったことが無いと言うと嘘になる。そんな高橋の心の支えとなっていたのは。




(『男は女や子供を守るべし』…………なんて公言しようものならジェンダーなんたらで色々言われるだろうが、それでも俺の考え方は変わらない)


 父から授かったその教えを胸に誇りを持って仕事に取り組んでいる。


「とはいっても休むときは休まないとな。スーパーで買い物してから帰るか」


 この時間ならまだ残っているだろう半額惣菜を買い込んでせめてもの豪華な夕食にしよう。こういうとき独り身の自由さはありがたいが……いや待っててくれる人がいる生活とどちらが幸せだろうか。

 そんなことを考えながら歩いていて。




 ――ぷつん。次の瞬間、意識が暗転した。




「………………あ、れ?」


 高橋はそんな間抜けな声を上げながら倒れていた身体を起こす。


(『倒れていた』……? 俺は何を言ってるんだ……? そもそもさっきまで歩いていたはずで……どうなった? 記憶が抜け落ちたかのように何も思い出せない……)


 そんな風に困惑しながら起き上がって、周囲を見回したところでさらに困惑は深まった。




「何だここは……? 遊園地、なのか……?」


 遠くにジェットコースターや観覧車が見えたためそのように判断する。高橋自体は壇上に誰もいない屋外ステージ会場の客用スペースに倒れていたようだった。

 遊園地、誰もが楽しむ場所のはずなのに閑散としていて全くの無音なのが異常感を引き上げている。

 スマホを取り出して連絡や情報収集をしようかとも思ったが、ポケットに入っていたはずがその感触がなくなっている。よく考えると先ほどまで持っていたカバンもない。どうやら身一つな状況のようだ。


「落ち着け、落ち着け。何があったのか振り返るんだ……」


 高橋は集中して思い返そうとするが、それでも職場からスーパーへ続く道を歩いていたら、意識が切れて、次の瞬間この遊園地と思われる場所に倒れていた。そのようにしか記憶が繋がらない。

 まるで出来の悪い編集がされた動画のように唐突な場面転換だ。




「……はあ、何だここは?」

「え?」

「これは一体……」


 混乱していると聞こえてきた複数の声。

 視線を下に落とすと多様な男女が高橋と同様に床に倒れていたところから起き上がり、周囲を見回していた。

 一様に浮かぶ表情は混乱。それを見て高橋は彼ら彼女らも自分と同じいつの間にかこの場所に移動していたのだろうと想像が付いた。


(人数は……俺を含めて10人か。子供こそいないが若い女性から年配の男性とバラバラだ。……ただ一つ共通する点があるとしたらみんな首輪をしていること)


 高橋も自分の首元に手をやると無機質な感触があった。混乱で今まで気付けなかったが自分も同じく首輪を付けられているようだ。


(首輪が自然的に付けられるはずがない。ならこの事態は人為的……? 何者かが俺を気絶させてそのショックで記憶が無くなった。そしてここまで運んで首輪を付けて地面に転がした……。そんなこと出来るか?

 警察官として日頃から鍛えている俺が簡単に気絶させられるはずがないし……それに俺以上に不可能な人がいる)


 ここにいる首輪を付けられた10人。高橋は全員初対面であったが、一人だけ一方的に知っている人がいた。というのも有名人だからだ。この国に生きていれば知っているべきの。




「初めまして。私は高橋、警察官をしています。お話を聞かせてもらってもいいでしょうか、加藤総理大臣」


 高橋は年配の男性、ニュースなどでよく見る顔、この国の内閣総理大臣である加藤律に簡潔に自己紹介をしながら話しかける。


「聞きたいのは私の覚えていることでいいですかな?」


 加藤は高橋の聞きたいことを言い当てる。


「ええ」

「おそらく君と同じでしょう。公務から公務へと移動する最中、急に意識が切れたかと思うとこの場所に倒れていました。周囲に護衛としてSPが控えていたはずですが……どうやらいなくなっていますね。新手の誘拐事件…………にしては不可解ですが」


 加藤の話は衝撃的だった。

 この国のトップ、総理大臣。警察官の自分なんかよりも遙かにガードが固いはずの人物が同じように気を失い首輪を付けてここまで運ばれている。


(そう簡単に出来るはずが無い。これは……どうやらとんでもないことに巻き込まれたようだな……)




「「「………………」」」


 加藤の話を他の人たちも聞いていたようだ。総理大臣も事態に巻き込まれているという事の大きさに全員が押し黙る。


(人為的である以上この事態には何らかの意図があるはずだ。謎の多い誘拐方法、そして総理大臣なんて大物まで連れられている以上安っぽいいたずらではないだろう。

 誰がどのようにして何のためにこんなことをしたのか………………)


 高橋が考えていると。






『どうやら全員起きたようだな』


 そのような機械で作られたような合成音声が響いた。


「今の声は……ステージから?」


 自分たちが倒れているのは遊園地のステージ会場だ。声のした方角、さっき見回したときには何も無かった空のステージ会場の方を見るとそこには奇妙な着ぐるみがあった。


『オレ様の名前はハート。これからおまえたち、プレイヤーにやってもらう命がけのゲームのGMゲームマスターだ』


 ハートと名乗ったその着ぐるみはその名前の通りハートの形をしていた。

 遠目だから分かりづらいが人間ほどの背丈のデカいピンク色のハートに手足が生えていて、その中央には渋く濃い顔が描かれ、片目には黒い眼帯がかけられて、ハートの片方の山に西部劇で見るようなテンガロンハットを引っかけている。

 ハートという全体のファンシーさとは真逆の硬派な記号。そんなちぐはぐな着ぐるみが言うには。


(命がけのゲーム……? 何を言っているんだ……?)




「やーっぱり。起きた時点でピンと来てたんですよ。これってデスゲームの導入じゃね、って」


 プレイヤーの内の一人、めがねをかけた小太りの男性が何やら得心行った顔でボソボソと呟く中。




「ハート……と言いましたかね。質問良いでしょうか?」


 総理大臣、加藤が片手を挙げて発言する。 


『許可しよう』

「察するに今回の事態は君の仕業であるということかね?」

『我々の所業であることは確かだ』

「急に意識を失った後の記憶が無く、こんな場所に連れられて首輪を付けられているのも」

『ゲームを行うためだ。納得行ったか?』


「ふむ……」


 返答をもらった加藤は手を当てて何やら考え込む。




『それでは説明を再開――』

「その必要は無い!!」


 警察官、高橋はハートの言葉を遮るように声を張り上げる。加藤は何やら気になることがあるようだが、高橋には先ほどの返答だけで十分だった。


『何のつもりだ?』

「それはこっちのセリフだ!! 貴様の今の発言は自白と見なす!! 集団誘拐の犯罪者だ!!」

『……おまえは警察官だったな。立派な態度だ。だが拳銃も手錠も無い状態では無力だ』

「そんなことはない!! この鍛えた身体がある!! 大体命がけのゲームだと!? そんなことするものか!! 不当な要望など一切聞く気は無いぞ!!」


 高橋は一切引くつもりは無かった。

 高橋が警察官になったのは市民を守るため。そしてここには守るべき市民が9人もいる。皆を守るように一歩前に出た。


「かっけぇ……」

「ちっ……うぜぇサツだ」

「ぷくく、これはあれですな。見せしめですか」


 その背中に各々感想を浴びせる最中。




『なるほど立派だな……だがおまえらの生殺与奪の権は我が握っている』


 ハートがつまらなそうに言った次の瞬間。


「ぐっ……!!」


 高橋が身につけていた首輪が駆動して内側へと力がかかる。

 息が出来ないほどの強さで絞められている訳ではない。だが絞首とは根源的な死への恐怖を感じずにはいられない事象だ。




『何のための首輪だと思った? オレ様の意向一つで貴様らの命を落とすことが出来る。分かったなら刃向かうな』


 ハートの宣言。

 苦しむ高橋を見て他の人たちも恐怖する中。


「ふん……この程度か……。それくらいじゃ本官は折れないぞ!」


 呼吸も苦しくなってくる中、高橋は態度を崩さなかった。


『分かってないのか? もっと力を加えて殺しても良いんだぞ?』

「そっちこそ……分かって無いな!! 市民を守るのが警察官の職務だ!! 俺の目が黒い内は誘拐犯なんかの好きにはさせん!!」


 警察官としての矜持を崩さない高橋。ハートから視線を外さずキッと睨み続ける。


「かっけぇ!!」

「で、でも首が絞まってるんでしょ!?」

「よく保てますね」


 守られる側がその背中にたくましさを感じてきたところで。




『……全く。今のは脅しだ。わざわざ集めた貴重なプレイヤーだ。ゲーム前に殺せるわけがないだろう』


 ハートがそのように言うと高橋の首輪が緩む。


「っ……はぁ……はぁ……ようやく分かったか……!」


 楽になったことで大きく呼吸をしながらも高橋は解放されたなどとは思わず、ハートに対して闘志を見せ続けて。


『ああ、分かった。おまえにはどうやらこっちの方が効くらしい』


 ハートは白けたような態度を崩さない。




「ぐえっ……!」

「がはっ……!」

「おえっ……!」


 高橋の背後からそのような呻き声が上がり始めた。


「なっ……!?」


 高橋が振り返ると他の9人が首元を抑えながら苦しんだり、暴れたり、のたうちまわったりしている。


「まさかみんなの首輪を……!?」

『そうだ。どうやら貴様にはそちらの方が効くようだからな』

「くっ……」

『ゲームの円滑な進行を邪魔しないと約束すれば緩めてやろう』

「…………」

『どうした? 市民を守るのがおまえの職務なのだろう?』


 煽るように言ってくるハート。


 そうしている内にも苦しむ声は鮮明に聞こえてくる。高橋の首輪だけ緩めたのもそのためなのだろう。


(こんな悪趣味なやつに……屈するのか……だがみんなが……くそっ……!!)


 高橋は痛いほどに握りしめた拳を勢いよく横に振り抜きながら。




「分かった!! 邪魔しないと約束する!! だからみんなを解放しろ!!」

『最初からそれなら利口だったな』


 ハートが呆れながら言うとみんなの様子が落ち着いていく。


「はぁ……はぁ……」

「もうやだぁ……痛いの嫌いぃ……」

「結構辛いもんだな」


「すまない、大丈夫か?」


 高橋は介抱して回る。大体は感謝されたが、手を貸したところで睨まれたこともあった。高橋が最初から反抗しなければ苦しむことも無かった、とでも言いたいのだろう。


(認識が甘かった。これだけの規模でやってるだけあってあのマスコットは本気でヤバいやつだ。

 何も考えずに刃向かうべきじゃなかったかもしれないが……自分が間違ってたとは思わない。

 みんなが苦しんだのは俺が刃向かったからじゃない。あいつが首輪を作動させたからだ)


 高橋が認識を改める。何も出来ないながらせめて気持ちでは負けないぞとハートを睨み付ける中、その宣言は成された。




『落ち着いたようだな。邪魔されたが改めて――命がけのゲーム、『FATAL NUMBER GAME』のルール説明を行う』




 命がけ……? ふざけるな、絶対におまえの目論見通りにはさせない……!!


新連載始めました、よろしくお願いします。

書き溜め尽きるまでは毎日12時投稿します。

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